自分で服を作れば,問題を解決できるのではありませんか
ドミニカ共和国の「目ざめよ!」通信員
場所: サントドミンゴの繁華街エルコンドに近い横町の婦人服店。黒いびろうどの布を背景に,ドレスが2点陳列されています。ひとつはサイケ調のはでな色でAライン,長袖。もうひとつは,柔らかい空色のシャツカラーのドレス。ウェストが高く,スカートに少しばかりフレヤーがついています。それぞれのドレスに合うアクセサリー,ハンドバッグ,くつ,宝石なども陳列されています。二人の女性アリシアとヤネットが,足をとめてドレスをながめ,申し合わせたように顔を見合わせて行ってしまいました。
これはよく見かける光景でしょう。あなたにもこういう経験がありますか。ドレスはたしかにすてきですけれども,問題は値段です。
経済的な圧力が動機
スタイルを気にする女性がそのようなドレスの出ているのを見ると,たいてい値段がどれほどであっても,何を犠牲にしてでも新しいものを身につけるものです。しかし,アリシアやヤネットのように,大家族をかかえて,それに食べさせ,着せ,また学費や家賃,医療費などを支払うのに毎日苦労している人たちも少なくありません。彼女たちには,そのようなスタイルの上等な既製服を買う余裕はとてもありません。
あなたも同じ問題をお持ちですか。彼女たちがどのようにやりくりして,あのようにきちんとした服装をしているのか,知りたいとは思われませんか。限られた予算の中で生活するために彼女たちはどんなことをしてきたでしょうか。自分で服を仕立てるようになったのです。あなたもそうすれば,問題を解決できるのではないでしょうか。
針仕事をする小さなへやの中でアリシアは説明してくれました。「ヤネットも私も,必要に迫まられて服を縫うようになったのです。生活は日増しに苦しくなっていくように思えました。服を買うお金はだんだん少なくなっていきます。服はもともと十分にはありませんでした。持っていた服は早く古びていきます。財政状態はよくならず,物価もいっこうに下がりませんから,自分でなんとかしなければならないことに気づきました。それで,こうして自分のものや子どもの服を縫いはじめたわけです。私たちは,店で買えるものよりも,もっと自分たちの必要に合った生地とスタイルを選びます。もし既製品を買ったり,仕立て代を払わねばならなかったりしたなら,今ほど多くの服は持てません。最近,縫物をはじめた人の中には,モディスタ(お仕立て)という看板を出して,自分のうちのものを縫ったり,少し余分のお金をもうけたりして,食費や学費の足しにする人がかなりいますよ」。
開発のおくれている国では,国家経済を強化する産業がほとんどありません。紡績工場も少ないし,製品もかぎられていますから,衣服は安くつくれません。産業は,原料の輸入とか,工場の機械の不足,時代おくれなどのハンディキャップをかかえているかもしれません。そうなると,輸入衣料には高い税金がかけられるので,一般家庭の主婦は,自分の着るものや家族に着せるものを自分で工夫するほかはありません。
機械の進歩のおかげで家庭での手作りは簡単
自分で作る勇気はないと思う人は,アリシアの経験を聞いてください。「私が仕立てをはじめたのは,シフト・ドレスがはじめてはいってきたときでした。少なくとも家事をするのに着られるくらいのものなら作れるのではないだろうか,と思いました。それはちっともきれいじゃありませんでした。でもそれから,どうすればもっと上手に作れるかを学び,研究をつづけました。子どものものでもおとなものでも,以前にくらべるとスタイルがずっと簡単になっています。今では私は子どもの服と自分の服は全部自分で作ります」。
「かなり大仕事でしょうね」
「ええ,でも昔ほどむずかしくはないと思います。考えてみると,昔の女の人たちは,糸をつむぎ,布を織り,それから全部手で縫っていたんですものね。ミシンが手にはいったときには,うれしかったでしょうね。私が足踏みミシンをこの電気ミシンにかえ,骨の折れるペダル踏みをやめたときと同じほどうれしかったのではないでしょうか。もちろん,古いミシンは今でもたくさん使われています。ここでは新式のミシンはとても高いですから。
「二,三のボタンホールを作るのにどんなに長い時間がかかったか,おぼえていらっしゃる? そして目も疲れたでしょう。でも今では,このミシンで,ほんのちょっとのあいだにボタンホールだけでなく,ボタンつけまでできます。ししゅう,ヘムステッチ,コードつけ,また生地がほぐれないように断ち目かがりもできます。縫い目の大きさも,シフォン,皮,新しく出たニットなど,なんでも生地に合わせて調節できます。このミシンで縫い物をするのは,仕事というよりも楽しみですわ。そして,とてもすばらしいのは,こうした付属品のおかげで,できあがった服が,しろうとばなれして見えることです」。
こんなミシンがあれば,家庭で服を作ることを考えている人にはたしかに便利でしょう。でも,便利なものはまだあります。南アメリカやカリブ海地方のドレスメーカーは,ファッション・マガジーンの絵をたよりに裁断する人が少なくありませんが,今日では,最新スタイルの型紙が手にはいります。一歩一歩手を取るように使いかたが説明されているので,迷うことはありません。生地の上にどのように型紙を置くか,どこを断つか,またダーツとかプリーツのしるしのつけ方や,それをつける場所,作りかたなどについての説明もあるので,初心者は助かります。体型に合うように型紙を調整することもむずかしくありません。そして一度調整しておくと,その型紙はいつでも使えます。また,作り手が,そのスタイルや,自分の必要に適した生地を選べるように,いろいろな提案がなされています。
改善された織物
ダクロン,木綿,ナイロン,オーロン,麻,レース,ジャージー,張り合わせた織物など,家庭で使える生地はいくらでもあります。パーマネントプレス加工や,しわ防止加工のされている生地は,扱いやすいことがすぐにわかります。作っているあいだに,しわになったり形がくずれたりはしないからです。もちろん,できあがって服になってからも,あまり手がかかりません。新しい生地の多くは,ドミニカ共和国ではまだ量と種類が少なく,値段も手ごろとは言えません。それで,アリスが私に言ったように,「ビビモス,プランチャンド」(「私たちはアイロンかけをして暮らさねばなりません」)。
ヤネットが,読んでいた張り合わせ布の記事をもってコーヒーを飲みにきました。そこでこの布は,2枚の織物を接着剤で接合,もしくは張り合わせて,裏の必要をなくしたものであることがわかりました。薄くて軽い織物はこうすると,腰が強くなるので扱いやすくなります。推測によると,アメリカで昨年,手作り用に買い取られた生地の20%は,この張り合わせた布でした。
「でも,あるものは熱帯ではあまり役にたたないでしょうね」とヤネットは言いました。「たとえば,断熱と保温の役目をするフォームラバーがいっしょに張りつけられるものがあります。気候の寒い所や,冬のスポーツウェアにはすばらしく便利ですね。この張り合わせた布は,スポーツウェアからイブニングドレスに至るまで,あらゆるタイプの衣服に使われています。アセテートやナイロン・トリコットで裏打ちされたジャージー・ニット,オーロン,レースなどは,腰がしっかりしていて縫いやすいですね。特定のせんいに過敏な人は,今では,そうした布に取りつけられた生地で保護されます」。
「ドレスやブラウスに裏をつけなくてもいいとなると,仕立てはたしかに簡単になり,時間が節約できますね」とアリシアが言いました。
ほかにも時間の節約になるものがある
忙しい主婦ドレスメーカーには,買い物に歩く時間もなかなかありませんが,これはさほど問題にはなりません。生地,型紙,糸,ジッパー,ボタンなど,同じ店でみな買えます。ほんの少し見て回る時間があれば,さがしているものやアクセサリーは裁縫用具専門店でたいていそろいます。
初心者は,専門のドレスメーカーか,または教習所のようなところで習うのもよいでしょう。そうすれば,結局は実験に失われる貴重な時間とお金の節約になるかもしれません。
調べて見るだけの価値はある
家庭での手作りの流行と発達にはいろんな要素が寄与しています。そして,調べて見るだけの価値がこれにあることに,ますます多くの女性が気づいているので,この傾向がつづくことは疑いありません。
いちばん大きいのは経済的な理由です。寄稿家のシルビア・ポーターによると,自分で作れば,被服費の半分は節約できます。地域によっては,それ以上節約できるところも少なくありません。セールに気をつけ,どのように,何を,どのくらい買うかを知っていれば,いっそう節約できるでしょう。
クリスチャンの女性にとっては,考えねばならないもうひとつのたいへん重要な要素があります。クリスチャンの女性は,高価で華美な衣服を求めるのでなく,調和のとれた,慎み深いよそおいをするようにすすめられています。(テモテ前 2:9)クリスチャンは,反抗的な傾向をもつので知られているグループと同一視されるような服装をしてはいけません。自分で服を作れば,極端なものを避けやすく,自分に注意を引くことなく,よい服装をしていることができます。そして,聖書の箴言が述べているような,みずからの手で家族のために衣服を作る勤勉な良い妻となることができます。(箴言 31:19,21,22)また,同時に,娘を自分の手本に従うように訓練できます。そうすれば,娘が実際的で有用な女性になるのを助けることにもなり,また,満足をもたらすだけでなく,創作本能のはけ口ともなる仕事に没頭させておくことにもなります。
うでのいい家庭裁縫師が楽しむ特別配当の報いは,からだによく合うこと,ていねいな仕立て,個性的なスタイルなどです。家で服を作ることは,たしかに調べてみるだけの価値があります。