世界展望
ウォーターゲート事件の意味するもの
◆ アメリカ及びその他の国の多くの人びとは,本年7月から8月初旬にかけて行なわれた,高級官僚の腐敗を暴露するウォーターゲート上院調査委員会のテレビ放送を見てあぜんとした。米最高裁判所の判事,ハリー・A・ブラックマンは,「アメリカ号というわれわれの船のにかわは」スキャンダルの「墓覆い」のもとに「まさにはがれようとしている」と語った。同判事はさらに,現代社会の「基礎は侵されつつあるのだろうか,結局のところその壁は激流に洗われた砕石にすぎないのだろうか」と人びとは「疑問に思う」だろう,とも語った。
幻滅感をいだく公衆
◆ アメリカ国民の多くは,自分たちが政府の高官によって終始欺かれてきたと感じており,いったいだれを信頼したらよいのかとまどっている。ピッツバーグ市の警察官アレクサンダー・ベンネットは,政府当局者及び国家に対する尊敬の念はむしばまれている,と語った。彼は最近数人の10代の若者を検挙したところ,彼らはこう言った。「なぜ,おれを捕まえるんだ。大統領は不正をしているじゃないか。彼は盗みを働いているんだ」。ベンネットは肩をすくめながら,「いったい何と答えたらいいのでしょうか」と語った。
再認識された大豆
◆ 「大豆はいつもまま子扱いされてきた」と,ある農業経済家は語った。しかし,供給をはるかにしのぐ世界の蛋白質需要の伸びとともに,蛋白質を40%も含むこの豆は,アメリカの農業家たちによって,改心したほうとう息子のごとく見られるようになった。ここ1年足らずのうちに,大豆の価格は3倍ないし4倍になった。これまで大豆を家畜の飼料とみなしていたアメリカの消費者たちでさえ,今ではハンバーグの中味やベーコン片や冷凍デザートなどにして大豆を食べている。アメリカは世界に供給される大豆の四分の三を生産している。大豆は日本人の主要な蛋白質源であり,最近の貿易制限が課せられるまでは,日本はその国内消費量の92%をアメリカに依存していた。
スポーツの“神”がもう一つ
◆ 「ストックカー[競争用自動車]の運転者は自分だけの小さな王国の中で神のような気持ちである。そのことに比べれば危険などなんであろうか」。人びとの人気を集めるこのスポーツのはらむ危険にあえて立ち向かう理由について,ある運転者はこう説明した。市販の自動車を改造して行なうこのレースを昨年は4,500万人が見物した。ストックカー・レースは米国で第2の大衆動員数を誇るプロスポーツである。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は,「ストックカー・レースを見る観客はスポーツ競技の観客の中でも最も始末におえない,ばか騒ぎをする人びとである」と報じた。熱狂的な一ファンはこう語っている。「レースはあなたの血を沸かせ,あなたを興奮させる。麻薬でいい気分になる人もいるが,私はストックカー・レースで最高の気分になる」。
よみがえる死の湖
◆ ユーゴスラビアにある周囲約8㌔のパリク湖は,近くのスボチツァ市による汚染のために,2年半ほど前にいわば死んだ。その町の住民は,湖を生き返らせて,以前のような保養地としての名声を取り戻すため,これまでに例のない仕事を行なうことにした。彼らは湖を干あがらせてから,ブルドーザーで湖底にたまった厚さ約1.5㍍の有害な沼泥を取り除いた。浄化された湖底に水が再び満たされる時,湖岸には,精神不安や心臓病など,現代のいわゆる“管理者病”の犠牲者を回復させるための保養施設が建てられるであろう。
宗教のもたらした災禍
◆ 激流に落ち込んだバスから1本の同じロープにつかまって救出されることを拒んだために,洪水の中で78人が死亡した。なぜだろうか。インドのニューデリーからのロイター電によると,彼らは「2つの異なった高カースト社会に属していた」のである。
後退する教会付属学校
◆ 州政府による教区付属学校の援助を禁ずる最近の米国最高裁判所の裁決の結果,現在1日平均1校の割合であるアメリカのカトリック教会付属学校の閉鎖は今後さらに増えるものと見られている。カトリックの当局者が好んで用いることばである,いわゆる「整理統合」のこの加速度的な傾向は,俗人教師の高い給料に一部原因している。俗人教師は今やアメリカの教区付属学校の教師陣の半数以上を占めており,ある教会当局者が言ったように,「俗人教師は清貧の誓いをしない」。
犯罪者の仲間に加わる少女たち
◆ 5年前には『ほとんど想像もしなかったような』犯罪行為や暴力行為を,現在の少女たちは平然と行なっている。ザ・オブザーバー紙に報じられたように,ロンドンの青少年問題関係者たちはこの傾向を深く憂慮している。「たいていの場所で,暴力があたりまえのものとしておとなに受け入れられていること,また富を競って求めるために人間そのものの価値が低められていること」がその根本原因と考えられている。盗みを働いたある少女はこう語った。『私の親は私を愛してなんかいないわ,ただおとなしくしてもらいたいために私にお金をくれるだけよ。私は欲しいものを何でも手に入れるわ』。この少女は,親が払えなくなるまで小遣いの請求を上げていった。
逆効果の“治療”薬
◆ 特別医薬委員会のある報告によると,メタドーンの使用に伴う,ニューヨーク市の死者の数は,1971年から72年の間に3倍になった。米連邦危険薬物麻薬局の当局者は,この薬に関する問題が同局の取り組む最大の問題のひとつになりつつある,と語っている。政府後援の麻薬中毒者対策のもとで,この惑溺性の合成麻薬がヘロインの代用薬として用いられているのである。この代用薬を経口的に服用すれば,ヘロインの引き起こす“陶酔感”に対する耽溺性を阻止できると言われている。しかし,注射で投与されたメタドーンはそれなりの“陶酔感”を引き起こす。しかも麻薬中毒者は今,これが容易に手に入る点を利用するようになっている。ある調査によると,メタドーンによる治療を受けている患者の三分の一は隠れてヘロインをも使用しているとのことである。
不安を呼ぶ避妊リングの使用
◆ アメリカ政府部内の一委員団は,現在広く使用されている子宮内避妊リングは「今日の最も危険な避妊法」であるという主張に関連して調査を始めている。陸軍所属のある産婦人科医は,避妊リングが「死,不妊症,不本意な妊娠,流産,卵管妊娠,何千件もの大手術を要する事態,大量感染などを引き起こしていることが証明された」と語った。しかし,この避妊具を支持する人びとは,「妊娠による死の危険のほうが」避妊リングによる危険より「はるかに大きい」と主張する。またニューズウィーク誌はこう述べている。「子宮内避妊リングの作用は現在のところまだ十分には知られていないが,ある説によると,そのリングは,精子を殺したり,受精卵の着床を阻止したりする弱い炎症反応を起こすとのことである」。
近づく大飢きん
◆ ここ何年も続いているひどいかんばつのために,モーリタニア,チャド,ニジェール,マリ,セネガル,オートボルタなどのアフリカ諸国で幾百幾千万もの人が餓死する恐れがある。しかし,世界の他の多くの地域も飢きんに脅かされている。1973年8月15-22日号のクリスチャン・センチュリー誌はそのことについてこう報じた。「地球上の広範な地域におよぶ飢きんが今まさにわれわれの上に臨もうとしている。か酷をきわめた昨年のかんばつは,オーストラリアからソ連に至るアジアを含めた全域,アフリカ大陸,そして中央アメリカに穀物の減収をもたらした。新たに独立したバングラデシュでは,国民の大半が外国の救援食糧で生き伸びている。
「6年前に,『飢きん 1975年』という本の中で,著者ウイリアム及びポール・パドックは,人口増加に帰因する国際的な食糧危機がおそらく1975年にはわれわれの上に臨むであろう,と警告していた。しかし,異常な悪天候と非劇的なまでのむとんちゃくさのために,彼らの予言は1年早く成就するかもしれない」。
フィリピンの米不足
◆ フィリピンでは備蓄米がほとんど底をついた。恐慌状態が広まるにつれて買いだめが始まった。“緑の革命”による豊富な米産の夢は色あせてしまった。この米不足は不順な天侯による凶作が大きく影響している。
インド ― 増える子ども,減る食糧
◆ インドでは毎日5万7,000人の赤ん坊が生まれており,1年間の出生児の数は2,100万人にもなる。インド人の年間死亡者数は約800万人であるから,インドの年間人口増加は約1,300万人である6億人近くの人口をかかえるインドは再度絶望的な食糧危機に見舞われている。しかも,この度は援助を受ける可能性がほとんどない。ヨーロッパのある農業専門家はこう語った。「今度の食糧危機は,インドが自力で危機を脱しなければならない最初のものである。過去には常に,世界の余剰食糧があり,それが贈与された。現在,世界の国々には授与できる余分の食糧は何もない」。
精神病の子ども
◆ アメリカでは,子どもの精神病患者の数が大幅に増加している。米精神衛生協会の調査によると,1971年には,77万2,000人の18歳以下の子どもが何らかの精神衛生医療機関で治療を受けた。この数は1966年に治療を受けた子どもの総数47万3,000人より63%も増えている。増加の原因はなんであろうか。イリノイ州スコーキーの心理学者ロバート・トライスマンはこう語った。「答えは新聞を一読してみればわかる。家庭には緊張が増し加わり,生活の価値感はいっそう不確かになり,年少者に対する学問的要求は増え,個人の社会はますます狭められ,自動化した社会になっている」。
さらに多くの麻酔薬のために『お金を使う』
◆ 麻酔薬売買を抑制するための努力として,ニューヨーク市の当局者は密造麻酔薬を買い上げるための費用をこれまでの3倍近くに増やした。現在,年間240万㌦(約6億2,400万円)がこの目的で使用されている。大物の麻薬密売者をつきとめるために,1回の取引きで2万㌦(約520万円)から3万㌦(約780万円)相当の麻酔薬が麻薬法施行官の手で『買』われることもしばしばある。
高給取りの運動選手
◆ プロ・バスケットボール選手は最も高い給料を得ている運動選手である。全米バスケットボール協会に所属している選手の年間平均所得は5万㌦(約1,300万円)近くにもなる。2番めはホッケー選手の3万5,000㌦(約910万円)であり,野球選手,フットボール選手がそれに続いている。