活火山を訪ねて
ザイールの「目ざめよ!」通信員
「すごい眺めだ!」 この巨大な噴火口の底を見下ろし,地中から吹き上がる火焔を見た時,わたしたちは思わず息をのみ,こう叫びました。鼻をつく硫黄のにおい,巨大な怪物を思わせるとどろき,噴火口の巨大さは深い畏怖の念を抱かせるものでした。自然のすさまじい力をこうして目の当たりにした今回の経験は,いつまでも忘れられないでしょう。
噴火中の火山を見られる場所は,世界でもそう多くはありません。絶えず噴火している状態を近くで見られる場所となると,なおいっそう限られてきます。ザイール共和国の東部国境にある町ゴマから北へ数㌔行ったところに,数少ないそうした火山の一つ,ニーラゴンゴ火山があります。世界の他の場所にある火山とは違って,このニーラゴンゴは噴火口が地殻や堆積物で覆われていないので,噴火口から立ち上る火焔をいつでも見ることができます。そのすぐ隣りには,時々頂上を激しく吹き飛ばし,壮観を呈するニアムラギラ火山があります。火口をふさがれていないニーラゴンゴは,ニアムラギラほどの危険性はないようです。
噴火口の縁に登る
わたしと妻は,ニーラゴンゴのその景観を是非一度見ておこうと考えました。着替えの衣類と2日分の食糧を携えて,わたしたちはゴマに向け出発しました。ゴマは,キブ湖畔のブカブにあるわたしたちの家から100㌔ほど北にあり,そこへは曲がりくねった山道が通じています。その晩はゴマで友人のところに泊まり,翌朝ニーラゴンゴのふもとに向かいました。今や,冒険旅行が始まろうとしていました。
わたしたちはかなりの人数から成る外人旅行者といっしょに,規定の料金を払って受取りをもらい,“サファリ”の伝統に従って,土地のザイール人を荷物運搬人に雇いました。それから,頂上を目ざし,徒歩で登り始めました。徒歩で行くのですか? そうです。しかも,登るにつれて山道は勾配を増していきます。ニーラゴンゴの傾斜地では余り暑さを感じません。やがて雨がしとしとと降り始め,三時間ほど降り続きました。
丈の低い樹木の繁茂する山麓地帯を抜ける際,非常に滑りやすい黒っぽい火山土に足をとられがちです。所々に美しい野花が咲き誇り,時には体長30㌢余の大きなミミズを見かけることもあります。銃を手にしたザイール人がわたしたちの先頭に立ち,道案内をしてくれました。このザイール人の持つ銃には空弾が込められており,象が人間を襲おうとする時それを追い払うのに用います。
段々と登って行くにつれ,道はいっそう険しくなり,泥土に代わって,今度はでこぼこした火山溶岩の上を歩き,あちこちにある倒れた樹木や他の障害物を乗り越えて行かねばなりませんでした。わたしたちは,食糧や着替えを運んでくれる荷物運搬人を雇っておいて本当によかったと思いました。三時間ほど登ったころ,小屋にたどり着き,そこで少し休けいし,食事を取りました。
再び出発して間もなく,火口の縁が初めてちらっと見えました。でも,そこまで行くには大分登らねばなりません。ここまで来ると,植物の背丈はいっそう低くなり,樹木もまばらにしか見えません。寒くなってきたため,わたしたちはセーターを取り出しました。運搬人は,荷物を背負っているにもかかわらず,依然わたしたちの先頭に立っています。といっても,わたしたちもこのころには,荷物運搬人を雇わないで,わたしたちより先に出発した観光客の何人かに追い付いていました。一人の年配の人は,険しい山道を登りきれず,下山して行きました。
午後2時半ごろ,わたしたちはその晩に結局一泊することになる場所にたどり着きました。そこは屋根が円錐形になっているアルミ製の二つの円形の小屋であり,その小屋には,気泡ゴムの敷きぶとんを敷いた,荒木造りの寝台が幾つか置かれていました。皆ずぶぬれで疲れていたため,小屋に立ち寄って衣服を乾かすことにしました。食事も取り,雨も上がったので,400㍍ほど上方にある噴火口を目ざし,最終的に登る用意が整いました。しかし,その間の地形は今までに見たことがないような険しいものでした。小屋から先には道が通じていませんでしたが,案内人は頂上に行く方法を知っていました。それでも,ごつごつした火山岩をよじ登らなければならず,足を滑らせ,心地悪そうに座りこんだ人は,一人や二人ではありませんでした。わたしたちは,45度の急斜面をほとんど四つんばいになって登って行きました。
しかし,天候には恵まれました。山腹を覆っていた霧は晴れわたり,七時間前にわたしたちが出発した山麓の平原の壮大な光景を一望のもとに見下ろせました。また眼下には,小さな死火山,シャヘラの姿を見渡せますが,わたしたちは登って来るときその火山のへりを通って来ました。左のはるか下方には,美しいキブ湖の輪郭がくっきり見えます。そして右手の少し上方には,今では死火山になっている雄大なカリシンビ山がそびえています。鋭く切り立つその頂は雪に覆われ,夕空に映えていました。
噴火口の縁に近づくにつれ,徐々に興奮が高まってくるのを感じました。と,突然,目の前に噴火口が現われ,わたしたちはその縁に立っていました! まるで世界の最高峰に立っているかのようでした。事実,その時わたしたちは,標高3,470㍍の地点にいたのです。それに,何と壮大な光景でしょう! 眼前には,ニーラゴンゴが大きく口を開いています。直径が800㍍もあろうかという,途方もなく大きな穴です。火口の内側の斜面は,はるか下方に向かいほぼ垂直に落ち込んでいます。そうです,わたしたちはまさにその縁に立っていたのです。わたしたちの所からは火焔の熱は感じませんでしたが,その炎を確かにこの目で見ることができました。また,火焔を吹き上げる音も聞こえました。煙がもくもくと空に向かって立ちのぼり,硫黄の鋭い刺激的なにおいが鼻をつきました。
畏怖の念を抱かせる光景
噴火口の縁それ自体が無類の展望台となっています。そこには,繩も張られていなければ,さくも手すりも作られていませんから,あまり好奇心をつのらせると,30㍍余下の噴火口の底へまっ逆さまに落ち込むおそれがあります。噴火口の底は,中央部の“台地”の部分を除いて,全体に平らです。黒ずんだ灰色の物質から成るその円形の台地は上下に12㍍余も動いています。その円形の台地の中心部では,溶岩が地底から噴出して盛り上がるのが見えました。
案内人は,火口の縁のすぐ内側の岩が突き出ている場所を教えてくれましたが,そこからはすてきな写真を何枚か撮ることができました。またこの時刻には,冷たく感じられる風をよけることができました。わたしたちは慎重にその突き出ている場所に降りて行きました。へりに近づき過ぎないよう,十分注意を払わねばなりませんでした。活火山の,それも噴火口の内側で厚板の上に他の幾人かの観光客とともに座ったわたしたちは,夜のとばりが降りるにつれ,奇妙にも,火がわたしたちを夢心地に誘うのを感じました。
外の世界が暗やみに包まれていくにつれ,わたしたちはかつて見たことがないような,畏怖の念を抱かせる光景に接することができました。眼前で噴火の炎はいっそう激しく燃え上がっているようでした。実際には数百㍍も離れているのですが,まるですぐ近くのように見えます。今度は,火焔のただ中から白熱の溶岩がゆっくり噴出しているのが見えます。わたしたちはここで,偉大な創造者である全能の神エホバと,エホバが意のままにお用いになる驚嘆すべき力を考えずにはいられませんでした。こうした光景に接すると,確かに謙虚な思いを抱かざるを得ません。
わたしたちはこれまでに約8㌔の道のりをずっと登ってきました。今は午後7時半です。アルミ製の小屋に向かってぼつぼつ下山することにしました。まっ暗やみの中を降りて行くのは非常に危険です。しかし,わたしたち夫婦はそれだけの努力を払う価値があったことに同意しました。その晩はぐっすり眠り,翌朝,もう一度噴火口を一目見て,土地の住民がスワヒリ語で“ムリマヤモト”(“火の山”)と呼ぶその山を下りました。
現在でも,ニーラゴンゴを神としてあがめ,動物のいけにえを捧げる人がいますが,わたしたちは,畏怖の念を抱かせるこうしたみ手の業の一端を味わわせてくださった真の神エホバに感謝しています。