運動は本当に有益ですか
日本の「目ざめよ!」通信員
多くの人はそう考えています
ある人は健康維持のため何をしていますか
ジョギングをしたり,自転車に乗ったり,スポーツに熱中したりしている大勢の人を見れば,今や人々が自分の健康を気遣う時代になっていることが分かるはずです。近年,あらゆる年齢層の人々が自分の健康状態を見直し,運動をすれば健康,容姿,生活の質の向上に役立つ,という結論に達するようになりました。
それはなぜでしょうか。端的に言えば,近代的な機械や便利品があふれる昨今,日常の仕事の際に体を激しく動かす必要のない人が多くなっているからです。座ったままなされる仕事が少なくありませんし,多くの土地では,本来座業ではない家事などにも,骨の折れる仕事が減っています。これによって人類の大半は,活動させるよう造られている体を備えていながら,日常の活動だけでは運動が不足するといった事態に追いやられています。
“体の健康”とは何か
日本スポーツ医学協会の説明によると,“体の健康<フィジカル・フィットネス>”には,体格・身体機能・精神力を含む,体に関するあらゆる特質が関係しています。体が健康な人は,過度の疲れを感じることなく長時間の仕事や運動を行なえる人であるはずです。健康は力があるかどうかにではなく,むしろ体の総合的な健康状態,特に心臓血管系の健康状態に依存しています。
体を動かす運動は次の二つの基本的なグループに大別できるでしょう。すなわち,有酸素運動<エアロビスク>(ジョギング,テニス,フィールド競技など,エネルギーを得るために体中に酸素を急速に送る必要のあるスポーツ)と筋肉調整運動(美容体操,アイソメトリックス,医療体操のほとんどを含む)です。
有酸素運動は体の全能力を駆使し,体のすみずみに命を支える重要な酸素を送り込むため,総合的な“体の健康”はこの種の運動に依存するほうが大きいというのが通説です。しかし,筋肉調整運動も体の健康を維持する上でそれなりの役割を果たしています。
得られる益
規則正しい運動は心臓と肺の働きを強めるだけでなく,体の他の器官の機能を向上させるのにも役立ちます。体の細胞により多くの酸素が供給されるため,血液の循環がよくなり,体全体の健康状態が増進されます。さらに,文部省の行なった研究から,規則正しく運動する人は,男性で10歳,女性で5歳,それぞれ自分の年齢より若い体力を有していることが判明しました。これにより,運動しない人は規則正しく運動する人より早く老化するという結論が得られました。
ある心理学者は,自分の経験と運動の益を簡単にまとめて,次のように語りました。「身体面で変化があったのは当然のことであるが……物事に対する見方の変化は大きなものであった。それは仕事に対する態度にも言える。挫折感を味わわさせられる仕事についているが,今ではその仕事に愛着を感じている。気分をくつろがせることを学んだ。これまでよりもずっと多くのことを成し遂げられるようになった。思い悩んだり疲れを感じることなく,ずっと多くのことができるようになった。この経験から,気分の滅入っている人にはまず運動をしてみるよう勧める」。この人は夜ぐっすり眠れるだけでなく,昼間よく働けるようになりました。
このほかにも,筋肉が力や強さを増し,太り過ぎが解消されることもあります。こうしてみると運動によって得られる益が幾らかお分かりになるでしょう。
どんなことをしている人がいるか
“体の健康”に気を配ることは今に始まったものではありません。西欧諸国の医師が“疲労感”を取るには寝ることだと勧めていたころ,日本人は疲れを取るために外に出て腕立て伏せをしていました。事実,NHKのラジオ放送で最も長命の番組は全国的に知られ,多くの愛好者のいるラジオ体操です。この番組は1928年に開始され,戦後の一時期短い中断はありましたが,現在まで毎日続けられています。今日ではこれに,毎日放映される「きょうの健康」と題する,体の健康維持を目的としたテレビ番組が加わっています。
運動の必要なことに気付いた大勢の人が健康を維持するためにそれぞれの工夫をしています。大企業でさえ思い切った施策を採用しています。ここ何年かの間,多数の大会社で,全従業員の参加する職場体操が仕事の行なわれる毎日なされるようになりました。日本ではどの都市の商業地区の通りを歩いていても,社名入りのユニフォームを着た一群の人々が柔軟体操をしている光景をよく目にします。
しかし,近年,健康増進運動に対する関心の高まりとそれが体の全般的な健康状態に及ぼす影響を考慮して,大企業の中には,従業員の福祉に役立つ補助的な健康増進計画を導入したところがあります。3年ほど前,三井銀行もそうした計画を始めました。トリムと呼ばれるその運動がどのようにして行なわれるのか調べてみましょう。
トリム
“トリム”という言葉は,ノルウェー語の造船術の専門語から取られており,海上で平衡をとるという意味があります。しかし,この運動との関連では,“体の健康”の総合的な意味と調和して,健康な体を築き,身心の平衡を保つことを意味します。
こうした目的を念頭において,この運動を行なうすべての人の健康の増進と維持に役立つよう,点数制度が考案されました。点数制度に加えて,あらゆる年齢と職種の人々が良い健康状態を保つ心得も挙げられています。これは,すべての人が運動を必要としているという前提に立って話を進めています。
例えば,年配の人は外を歩くよう勧められています。「人は足から老ける」という言葉があるように,年配の人々は老化過程と闘うために,できるだけ足を使うように勧められています。新しいスポーツを始めることには危険が伴うかもしれませんが,歩くことならほとんどだれにでもできます。年老いた人々には,「ことに,ネコを抱いて家にこもりっ切りになるのは禁物である。それは老化を確実に早めることになる」と忠告されています。
デスクワークの人や車を運転する人には,朝夕少なくとも5分間は汗がでるほど激しい運動をするように勧められています。また,休みの日には,テレビの前に座っているのではなく,外を歩くようにとも勧められています。できるだけひんぱんにゴルフやテニスなどのスポーツをするのは理想的であるとされています。また,家の近くを毎日数分ジョギングするのも必要とされる運動量を満たすのに役立つでしょう。エホバの証人は,聖書教育の業の一環として定期的に家から家に出かけていますが,これは良い運動ともなっています。
仕事のスケジュールが不規則な人には,その仕事が座業であるか否かを問わず,毎日一定の時間を激しい運動に充てるよう勧められています。毎日,同じ時間に運動ができればそれに越したことはありません。
トリム運動の案出した点数制度では,各自に最も適した運動を1日に3点分行なうよう勧められています。もちろん,適当と思われるならその点数を増やすこともできます。提案されている運動の一部と点数が上の表に記されています。
三井銀行関係者の報告によると,トリム運動計画に対する支持は非常に満足すべきものであり,良い結果が得られているとのことです。
注意をひと言
点数制度だけでなく,トリム運動計画では,運動を行なう人に対する幾つかの有益な助言や忠告も与えられています。何かの運動の計画を始める前に,健康診断を受け,医師の指示に従うことが勧められています。病気,寝不足,空腹時には無理に運動しないよう注意が促されています。運動は平衡の取れたものでなければならず,適度の休息が必要です。また,激しい運動をする人には,その前後に軽い運動をするように勧められています。血液の循環が妨げられないよう緩めの服を着るようにします。自分に適した量とペースの運動計画を選ぶようにしてください。運動は楽しいものであるべきで,耐久テストになってはならないことも忘れないようにしましょう。元気いっぱいに運動してください。そして,最後にひと言,三日坊主にならないように!
医療体操
筋肉調整運動や機能回復運動も見過ごせません。体の特定の部位を強めたり腰周りのぜい肉を取りたいと望んでいる人にとって,これらの運動は有益です。体のほとんどすべての筋肉や部位を強めるのに役立つ何組もの体操が考案されてきました。しかし,けがをしている人や過去に病歴のある人は,どんな運動をしたらよいかについて医師の助言を求めるべきです。
今日,腰痛がかなり多くの人の間で見られるため,前述のテレビ番組「きょうの健康」で提案されている幾つかの運動をここに記しておきます。しかし,これを試みる前に,体の不調の原因を確かめるのは賢明なことでしょう。
運動からどのような益を得るにせよ,運動が万能治療法であるかのように考えるべきではありません。食事や健康的で平衡の取れた生活など,他の様々な要素も健康を維持する上で重要です。しかし,何かの運動をしている人は運動をしていない人より一般に気分がそう快であると言われています。
それでは,運動は本当に有益ですか。確かに有益です。事実がそれに答えています。体のあらゆる健康の維持に役立ちます。毎朝6時に起床して近くの公園にラジオ体操をしに行く英文毎日紙の一論説委員に言わせれば,「時々,軽い筋肉痛があることを別にして,こんなに気分の良かったことはない」ということになります。
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1日3点
運動の種類 運動の量 点数
1 その場かけあし 100回 1
2 速歩 2㌔ 1
3 ランニング 1㌔ 1
3㌔ 4
5㌔ 10
4 階段昇り 100段 1
(一段おき) (2)
5 なわ飛び 100回 1
6 腹筋 20回 1
7 腕立て伏せ 10回 1
8 バレーボール,バスケットボール 30分 1
9 野球,ソフトボール 1試合 2
10 卓球,テニス 30分 1
11 ゴルフ 1ラウンド 3
12 スキー 1日 4
13 水泳 100㍍ 1
14 サイクリング 30分 1
15 キャッチボール,バドミントン 30分 1
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腰痛体操のための指示
1 両足を30㌢ぐらい離し,背筋を伸ばしたまま,かかとを床から離さずにしゃがむ。
2 片方の足を後ろに引き,前足のひざを曲げながら,壁に向かい,後足を伸ばしたままかかとを離さずに壁を押す。
3 両足を交差し,前足のひざを曲げ,後足のひざを伸ばしたまま足の指にさわる。
4 あお向けに寝ながらひざを立て,両手をほほにつけたまま鼻から息を吸い,口からゆっくり吐き出す。十分な筋弛緩を得る。横になっている姿勢から肩が25㌢ぐらいの高さまでゆっくり起きあがり,5秒ほどがん張っている。それからゆっくり横になり,腹式呼吸する。
5 左手が右ひざに届くように,体をねじりながら起きあがる。右,左交互に繰り返す。
6 両ひざを同時にかかえこみ,股を開きながら,ひざがわきの下へつくように引きつける。
7 両手を腰骨のところにあて,腹を縮めながら背骨を床におしつける。次に頭を少し上げ,腰を浮かせながら腹に目をやる。
8 あお向けに寝て腰に手をやる。両肩を床につけて,息を吸いながら足を交差する。息を吐きながら,ひざが床につくまで体をひねる。足を入れ替える。
9 いすに浅く腰かけ,両手で押すようにして,ゆっくり胸をはる。
10 浅く腰かけながら,片方のひざに両手をかけ,わきの下まで引きあげる。左右交互に繰り返す。
それぞれの運動を3回から5回行なう。
[17ページの図版]
必要な運動をする人はよく眠りよく働く