エホバの証人の「王国の一致」地域大会
エホバの証人の活動の一つの際立った特徴は集まることです。週ごとの集会に加えて,毎年2回の巡回大会と,数千人から数万人が集まるより大規模な地域大会または国際大会が1回,合計3回の大会が開かれます。しかし,このような大きな集まりは現代になって初めて開かれるようになったわけではありません。今からおよそ3,500年前,神の選民イスラエル人は,「年に三回,あなたはわたしに対して祭りを行なうように。……年に三度,あなたのすべての男子はまことの主であるエホバの顔の前に出る」よう神から命じられていました。そうした祭りの高い霊的な価値を認識して,家族ぐるみで出席した男子は少なくありませんでした。(出エジプト記 23:14-17。ルカ 2:41-45)それ以外にもさまざまな集まりがありましたが,神の言葉の教育を受けることは主要な目的の一つでした。このように書かれています。「民を,男も,女も,幼い者も……集合させなさい。彼らが聴くため,また学ぶためである。彼らはあなた方の神エホバを恐れ,注意してこの律法のすべての言葉を履行しなければならないのである」― 申命記 31:12。
去る7月21日から四日間,エホバの証人の「王国の一致」地域大会が,北は札幌から南は沖縄に至るまでの8か所で同時に開催され,ニューヨーク本部から来日した統治体の成員ロイド・バリーによる幾つかの主要な話が所沢の会場から電話回線で他の七つの大会に送られ,同時にそれらの話を聴くことができ,またその後,続いて開かれた他の10か所の大会でも録音によるそれらの話をはっきりと聴くことができ,一致した民として同じ霊的な益を十分に受けることができました。
大規模な大会を開くためには良い計画と組織が必要です。そしてこれら一連の大会は「無秩序の神ではなく,平和の神」エホバの特質をよく反映しています。(コリント第一 14:33)大会会場となる施設の管理者や責任者たちは,エホバの証人の大会についてどんな感想を持っているでしょうか。札幌大会の会場の管理者はこう話しました。「今回に限らずいつもそうですが,これだけ大勢の人数が集まっていても大変静かなので皆と一緒に感心しています。また子供さんがあれだけ大勢いてもあまり泣き声も聞かれないので感心しています」。さらにこう語りました。「私たちは相手が紳士であれば紳士のように行動しますし,淑女であれば淑女のように行動します。……何も手がかからないので私たちは暇です」。
名古屋大会の給食部門を視察した保健所の食品衛生検査技師は,「毎年改善された施設で,保健所の提案を取り入れて給食準備をしており,言うことはありません。他の団体には,ものみの塔さんのやり方を見倣ってくださいと言っています」と語りました。また給食センターの業者も見学して,「組織の面でプロも負けました」と述べました。
吹田市の大会会場となった万博記念公園内東の広場には,2万2,000人余りが集まり,一連の大会中,一番大きな大会となりました。出席者が日陰の下でプログラムを楽しめるよう,Yテント会社から各部門用のものを含め合計1万5,000平方㍍に及ぶテントを借りて張ることになりました。一番大きなテントは高さが10㍍もあり,4,000人を収容できるほどのものでした。テントは大変カラフルで出席者たちの目を楽しませました。30名の社員と多数のエホバの証人の自発奉仕者と共にテント張りをしたその会社の社長さんは,「テントを貸す仕事の関係上,多くの宗教団体を知っていますがこの組織だけは他に見られない何かがあり,実によく動かれます。それが一体何か知りたいと思います。自分の会社の幹部の者と1日是非大会に参加してみます」と語り,「テントの費用は普通なら2,000万円ほどかかるけれど,皆さんのすばらしい一致と働きに心を打たれました。費用も奉仕のつもりで貸します」と,原価に近い費用で貸してくださいました。そして約束通り第3日目に出席し,大会を楽しまれました。
千葉県松戸市の競輪場で開かれた大会では,台風5号,8号の影響で競輪が順延になり,大会前日まで競輪が行なわれました。ステージや各施設の設置や清掃のために大がかりな準備が必要でした。残されたわずかな時間でそのすべてを成し遂げるため,事前に各会衆に自発奉仕の連絡がなされ,大会前日の午後5時半に集合することになりました。何と4,411名もの自発奉仕者が集まり,夜を徹して準備が行なわれ,大会初日の午前中にはすべてが完了したのです。何とすばらしい一致した努力なのでしょう! こうした経験は王国の一致が正に現実のものであることを物語っています。
7月23日に山陰地方を襲った集中豪雨によって,エホバの証人の中にも,家屋などの浸水被害を受けた人がかなりの数いました。山口大会を1週間余り後にひかえて被災した一開拓者の姉妹(婦人の全時間奉仕者)の場合,洪水によって家は床上2㍍まで浸水し,水が引いた後も20㌢のヘドロが残りました。2階は無事でしたが1階の家具,日用品は全部失いました。しかし地元の会衆のエホバの証人たちが一致して即座に相互の連絡を取って救援の手を差し伸べ,ヘドロの除去を手伝いました。その方の両親はそれらエホバの証人たちの働きに感動され,大会出席のための費用と時間を娘さんに快く与えました。
大会に出席するための努力
エホバの客として霊的な宴とも言うべきクリスチャンの大会に出席することによってエホバからの豊かな祝福が注がれ,深い満足感と大きな喜びがもたらされます。そのような霊的な価値を認めるエホバの民は,祈りのうちに,あらゆる努力を払ってエホバのご招待に応じようとします。
山形市に住む28歳になる青年は,青森県八戸市の大会に出席するためオートバイで行くことを決意しました。旅費などのために世俗の仕事を余分にして自分の霊性を下げるよりもバイクで行ったほうが良いと考えました。大会の二日前の朝9時に出発し,途中テントで一泊し,会場に着いたのは翌日の夜8時で,23時間をかけて400㌔の距離を走りました。この人は,無事大会に出席できたことをエホバに感謝しています。
大会に出席するために健康上の問題を克服しなければならない場合も少なくありません。新潟大会に出席した一人の若いクリスチャン婦人はせき髄まひと全盲という障害を抱えています。その上片方の腎臓は取り除かれて代わりに器械が入っており,残った腎臓もがんに冒されていて,今では1日に何回も痛み止めを打たなければなりません。「このような私にとって四日間の地域大会に出席することは何か月も前から大きな念願であり,ひたすらそのことを祈ってきました。厚生年金のほかに定まった収入のない私は去年からこつこつお小遣いをため,そのおかげで大会の費用を蓄えることができました。……自分の命が限られていることをひしひし感じている私は,ひと言でも多くエホバの言葉を聞きたい,1分でも長く温かい霊的な雰囲気の中に身を置いていたいという気持ちでいっぱいです。それで兄弟たちの愛に支えられてこの新潟大会に出席できた特権をエホバに深く感謝しています」。
四日間の大会に出席するためには旅費,食費,宿泊費など金銭面での周到な準備が必要です。群馬県の一クリスチャン婦人は6人の子供を抱え,その上,ご主人が最近事業に失敗したため,経済的に大変苦しくなりました。そしてご主人が病気のため働くことができなかったので,大会のための費用を前もって少しずつためておく必要がありました。その方はこう語りました。「そのため家の近くにあるペンションの仕事を与えてください,とエホバに祈っていました。幸いにも4月から近くのペンションでパートタイムの仕事を見つけることができました。普通このペンションの仕事は7月からで,4月から働くことは不可能でした。ところが今年は,4月からお客が大勢泊まることになり,仕事はとても忙しくなりました。このようなことは今まで一度もなかったことです。私がこの仕事に行くためには,4歳と5歳の子供を家に残して行かなければなりませんでした。それでいつも出かけるときにはエホバに依り頼んで事故のないよう保護を祈りました。上の子供は一つ年下の子供の面倒をよくみて,本当によく協力してくれました。このようにして,夜の集会のあとも働き……費用を調えました。この経験によって,私はエホバを一層身近に感じるようになり,子供を保護してくださったことを含め,感謝の念でいっぱいです。今,6人の子供と共に大会の益にあずかり,喜びのうちに出席しております」。
大会プログラムの際立った点
エホバが四日間の霊的な宴を通して備えてくださった充実したプログラムは,すべて聖書に基づくもので,さまざまな主題の話,劇,経験,実演,シンポジウムなど変化に富んだ方法で提供されました。四日間のプログラム全体を貫く「王国の一致」の主題に加えて,毎日,それぞれ異なる一つの主題が決められていました。(ある大会では曜日の関係でプログラムの順序に一部調整が加えられています。)
「神の王国のための同労者」: これは初日の主題です。長年にわたって真理のうちを忠実に歩んできた人々が,エホバ神の愛ある導きについてエホバの客として証言するのを聞いて出席者たちは大いに励まされました。「エホバを賛美する音楽」と題する話の中で,話し手は,協会が新しい歌の本の出版に向けて準備を進めていると発表しました。今用いている歌の本には119曲ありますが,新しい歌の本にはその2倍近い225曲が収められる予定です。プログラムが始まる前や休憩中に流された新しい曲は本当に美しく,感動的です。「わたしたちは王国の奉仕の務めを非常に重視する」と題するプログラムの中で聖書を用いて効果的に証言を行なう実際的な方法が一連の実演によって示されました。初日の際立った取り決めは夕方の野外奉仕です。プログラム終了後出席している幾千幾万もの証人が野外へ一斉に出かけるこの奉仕は,地域社会の多くの人々に,同時に大規模な証しをする貴重な機会となりました。北九州大会に出席したあるクリスチャン婦人は親子4人で区域に出かけ,夕方6時過ぎから1時間半ほど奉仕しました。高校2年の娘さんは初めて補助開拓奉仕を申し込んで張り切っておられ,何人もの家の人から「がん張りなさいよ!」と励まされ,こんなに楽しい伝道は初めて,と喜びにあふれていました。親子4人とも,良い方に会い,合計26冊の雑誌を配布し,喜びと感謝であふれていました。
高知大会に出席した一人のクリスチャン婦人は,20年位前からエホバの証人が来ると必ず,関心がないから,とはっきり断わってきたという40歳位の一婦人に会いました。その日も同じような態度でしたが,その姉妹はビラを渡して大会の講演に招待しました。「どうしてあなた方は伝道するのですか。給料をもらっているのですか」等の質問に対して,「私は神を信じており,神を愛しているので神の言葉を人々に伝えている」と話すと,その伝道者を部屋の中に招きました。1か月ほど前に離婚し,二人の子供はご主人に引き取られた,と個人的な問題を打ち明け,何の希望もないと話しました。二日目のプログラムの後,再び訪問がなされ,2時間も熱心な話し合いがなされ,家庭聖書研究の勧めにも良い反応を示されました。
同じ考え方でしっかりと結ばれる: 家庭の崩壊が社会問題となっている今日,この世の圧力と闘いながら家族の一致を保つことは挑戦となります。大会二日目のプログラムは上記の主題に基づいて進められていきました。午前中の「家族の一致を保つ」という題の現代劇は,クリスチャン家族内にも起こりがちな問題を現実的にとらえ,子供の心に達するような親子の話し合い,父親の頭の権威を認めること,長老による愛ある援助などの点を具体的に示すもので聴衆に深い感動を与えました。この劇についてある母親は,「男の子が二人いますが,これからもよく耳を傾けて話し合うことに心がけたいです。ものすごくすばらしいプログラムで心から感謝しています」と語りました。その日の午後に発表された「学校とエホバの証人」と題する小冊子(英文)は,在学中の若いエホバの証人たちが自分の立場を先生方に正しく知っていただくために活用できる優れた情報を収めたもので,日本語版の出るのが待ち遠しいという声が多く聞かれました。
霊の一致を守る: これは大会三日目の主題です。「献身 ― 王国の一致にあずかる道」と題する話を聞いたのち,バプテスマ希望者は水のバプテスマによってエホバへの献身を公に表明し,王国の一致にあずかる道を歩み始めました。
午後のプログラムで,「唯一まことの神の崇拝において結ばれる」という主題の話がなされたのち話し手は,その話と同じ主題のポケット版の新しい本を発表しました。この本は家庭聖書研究で用いる2冊目の本として勧められており,クリスチャンの円熟に達する上で大きな助けとなるでしょう。近い将来,会衆の書籍研究の集会で用いられる予定です。午後のプログラムで,宣教者を訓練するギレアデ聖書学校が1943年の開校以来40年にわたって世界中で一致したエホバの崇拝者を生みだす点でどれほどすばらしい貢献をしてきたかが指摘され,ブラジルと台湾省で日本人の宣教者として奉仕している兄弟姉妹たちの経験を聞くのは大変励みの多いものでした。
同じ思いで神の栄光をたたえる: これは四日間の地域大会最終日の主題です。午前中の最後のプログラム「反対にもかかわらず,神の業を一致して成し遂げる」と題する聖書劇は,西暦前5世紀のネヘミヤの時代の出来事に取材したものです。エホバのご意志に従ってエルサレムの城壁を再建しようとする神の民に対して,敵対者たちはさまざまな妨害をもたらしますが,神の民がエホバに依り頼み一致団結して業を行なうとき,何ものも神の業を阻止することはできませんでした。近代のエホバの証人の歴史もそれが真実であることを物語っています。大会の最高潮とも言うべき,「争いで分裂したこの世界にあって,だれが一つに結ばれていますか」と題する公開講演の中で話し手は,「王国の一致」という大会の主題と相まって,真の一致は王国政府の支配によってのみ可能であることを強調しました。王国政府の臣民であるエホバの証人の間に既に世界的な一致が現実に見られること,また近い将来,王国の支配によって永続する真の平和と一致の状態の実現することが講演者によって指摘されました。
統治体のもう一人の成員の来日
7月下旬,ブルックリンのエホバの証人の統治体のもう一人の成員であるライマン・スウィングルが,香港,台湾省,フィリピンへの訪問の途中,日本に立ち寄りました。スウィングル兄弟は丁度その週に開かれていた調布B大会で約40分話をしました。そこで与えられた霊的な益を読者にも得ていただくため,以下スウィングル兄弟の話を一部お伝えすることにしましょう。
「ご存じのようにエホバの証人の業は多くの国で禁令下にあります。鉄のカーテンの背後にはわたしたちの兄弟が大勢おり,多くの国で投獄されています。ブルックリン本部には世界の各地から報告が寄せられてきますが,そうした報告は,それらの国々でエホバがご自分の民をよく顧みておられることを示しており,非常に励みの多いものです。エホバはご自分の偉大な力をもってすればわたしたちの兄弟たちが迫害を受けないようにすることもおできになりますが,ご自分の崇拝者たちの忠誠が試練のもとで実証されるという大きな目的が果たされるようにされるのです。エチオピアからはそのような報告が寄せられています。
「エチオピアの兄弟たちは確かに難しい時にいます。幾百人もの兄弟姉妹たちが16か所の刑務所で服役しています。その中には関心のある人々,12歳の子供を含む若い人たち,9か月の妊婦,5人の子供と未信者の夫を持つ姉妹などがいます。その未信者の夫は,信仰ゆえに20か月を刑務所で過ごしてきた自分の妻を励ましています。それに特別開拓者たちの半数も服役しています。一人の特別開拓者は服役している刑務所で月々家賃を請求されています。それに加えて,半殺しの目に遭い,すでに昨年6か月の苦役を経験した一姉妹が再び刑務所に戻ってきました。
「一人の姉妹はペンテコステ派の人たちと共にアジスアベバの有名な教会に連れて行かれました。そこは人々でいっぱいでした。そこで迫害を加えた者は,神を耳の聞こえない者だと言ってあざけったのです。ギリシャ正教会の司祭はそれを黙認しました。ペンテコステ派の人は妥協しました。わたしたちの姉妹だけが,神はご自身を啓示されます,と言って神を擁護したのです。そこで多くの人たちは,エホバの証人だけが神を擁護した,もし真の宗教があるとすればそれはエホバの証人の宗教だ,と言わざるを得ませんでした。報道機関はわたしたちのことをよく取り上げます。そして兄弟たちの不動の態度に関し,国の最高指導者のところまでしばしば問い合わせがなされています。今,人口2,800万人のエチオピアの人々が,わたしたちについて聞いているのです。それはもし自由であったなら決して行なうことのできないほどの証言でした。人口2万人に一人という少数の者,人々から快く思われておらず,実際の武器を取り上げない彼らについてこれほど多くが語られているということ自体,真の信仰の勝利を証しするものです。それでわたしたちの兄弟たちがこれらの国で投獄されたり,迫害されたりすることによって驚くべき目的が成し遂げられていることが分かります」。
スウィングル兄弟は,わたしたちが憎しみの的となっているのはわたしたちがこの邪悪な事物の体制の一部ではないからであることを指摘しました。そのあと同兄弟は使徒ヨハネがヨハネ第一 2章15から17節で述べた,「世も世にあるものをも愛していてはなりません。……世は過ぎ去りつつあり,その欲望も同じです。しかし,神のご意志を行なう者は永久にとどまります」という言葉を引用し,「世のものではないことを証明しているのは刑務所内の兄弟たちだけではなく,刑務所や収容所の外にいる兄弟たちも論争においてエホバの側に立っていることを証明しているのです」と話し,世から離れているという点で,ここ日本が非常に優れた模範になっていることを指摘しました。経済面で繁栄し,物質主義が幅をきかせているここ日本においてこの世の一部にならせようとする圧力のもとにあっても,大勢の親たちは開拓奉仕を将来の目標とするよう子供たちを励まし,非常に多くの家庭で親たちは良い模範を示している点,そして開拓者数の率が非常に高い点を強調しました。スウィングル兄弟は,将来に目を向け,王国の良いたよりを宣べ伝える大規模な業がこれからも続けられるに違いないと話しました。日本中のエホバの証人は調布B大会に出席した人々と同様,スウィングル兄弟の話から霊的に大いに鼓舞されるに違いありません。
全国の18か所で開かれた「王国の一致」地域大会には合計16万694人が出席し,この大会で合計3,190人の男女がエホバへの献身の象徴として水のバプテスマを受けました。バプテスマを受けた人たちの幾つかの経験は次号に掲載される予定です。
[25ページの図版]
大阪の地域大会会場に張りめぐらされた巨大なテント群(読売新聞社提供)