バクを紹介します
ブラジルの「目ざめよ!」通信員
あなたは多分バクを見たことがないかもしれません。というのはこのおとなしい動物は,中南米やアジア南部の孤立した場所にしかいないからです。バクはロバぐらいの大きさですが,短足なのでどちらかというとブタに似ています。ある動物学者の表現を借りると,バクの子供は「しまのある四つ足のスイカ」に似ています。
バクの体長は1.8㍍から2.4㍍,肩高は75㌢から90㌢強,体重は230㌔から290㌔ぐらいまでになります。体はずんぐりしていて,首が太く,短いしっぽがついています。目は小さく,視力は良くありません。鼻は筒状に短く伸びていて,動かすことができ,若葉などの食物を食べるときにこれをうまく利用します。「インターナショナル野生生物百科事典」は,「世界中のあらゆる大型動物の中でバクは恐らく最も無防備な動物だろう」と述べています。
この臆病な動物は通常密林の奥深くにいます。そうすることによってジャガーやトラなど,襲ってくる可能性のある動物を避けるのです。ジャガーに襲われるとバクは素早く密林の茂みの中に逃げ込むと言われています。それでジャガーは密林の下生えに足をすくわれてしまいます。バクの皮膚は厚く,傷ついてもすぐに癒えるため,バクが致命傷を負うということはまずありません。
バクはいつも川か湖のそばに住んでいます。たいていは水の中で泳いだり,水をはね散らしたり,泥の中でころげ回ったりしています。そのようにして暑さをしのぎ,熱帯に多いやっかいな虫から身を守ります。体が重いにもかかわらず,必要とあらば素早く走ることができます。首が短く,強じんで引き締まったバクの体は,その環境に完全に適していて,密生する草木の中に容易に入り込めるようになっています。
中南米にはベアードバク,ブラジルバク,山バクなど3種類のバク,東南アジアにはマレーバクが生息しています。ヨーロッパ,中国,米国などで見つかった化石は,一時期バクが世界中に存在していたことを確証しています。
バクは一般に非社交的な動物です。1頭か2頭で生活し,動物園以外で3頭以上のバクが一緒にいるのを見ることはほとんどありません。動物園の中でさえバクたちはお互いのことをあまり気に留めません。バクは草食性で,もっぱら陸上の丈の低い植物か水草を常食とします。特に塩が好物で,塩沢まではるばる塩をなめにいきます。主として夜間に活動するこの動物は30年も生きることがあります。
バクは季節に関係なく子を産むようです。子は1頭ずつ13か月の妊娠期間を経て生まれます。子バクの毛皮は赤茶色で,黄色と白の斑点や縦縞が入っており,薄暗い熱帯雨林の中では非常によいカムフラージュになります。この色彩も普通は生後1年もしないうちに消え,その後,マレーバクであれば腹巻き状に白帯の入った黒い体になり,南米産のバクであればダークグレーか茶色になります。
絶滅の危機にひんしている
人間は食用にバクを狩ってきました。狩猟は多くの場合,バクが最も活動的な夜間に行なわれます。時には,バクをおびき寄せるために塩がまかれます。バクは塩をなめ終えると,いちばん近い小川に向かいます。ハンターたちは,射止めやすいようにバクの目にライトの光を当て,一時的に目をくらませます。
脂肪が少ないバクの肉はよくバーベキューに使われ,おいしいと言われています。丈夫で堅い皮もまた高価なもので,むち,投げ輪,手綱に使われています。ブラジルのインディオたちは時々バクをペットとして飼ってきました。
人間が食用に,またスポーツのためにバクを狩り,とりわけ森林というバクの住みかを伐採してきたため,かつてはバクがたくさんいた多くの地域で,バクの姿はほとんど見られなくなりました。そのため,現在,山バク,ベアードバク,マレーバクなどは絶滅寸前の種に数えられています。
大自然の中でバクを見るチャンスはほとんどなくなりましたが,今度動物園へ行くときにはぜひバクを見るようにしましょう。