世界はどれほど変化したか
あなたの周りの世界は変わったでしょうか。古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは,「万物は変化してやまない」と言いました。だれの生活の中でも変化は常に生じています。
過去10年,20年,30年,またはそれよりも前の時代を振り返るとき,あなたはどんな変化を目にされたでしょうか。近代化という形や,伝統的な価値観の破棄という形で変化が生じたのを目にしてこられたことでしょう。好ましい変化もあれば,好ましくない変化もあったに違いありません。
70歳を超えた人であれば,若いころからどんな変化を見てこられたでしょうか。テレビがなかった時代,飛行機が時速150㌔ぐらいでのんびりと飛んでいた時代,外国旅行にはたいてい大型旅客船で行った時代,麻薬の乱用もアヘン窟でしか見られなかったような時代,自動車が非常に少なかった時代があったことを覚えておられるに違いありません。確かに世界は変化しました。
消費者社会の変容
しかし,もっと若い世代の人々にとっても世界は変化しました。今からわずか45年前には,世界の市場のほとんどは欧米の製品やノウハウで占められていました。現在では太平洋沿いの東洋の国々が,自動車,コンピューター,カメラ,テレビその他多くの電気機器の生産をリードしています。
経験豊かなある中国人の旅行者が本誌に語った事柄はその点をよく表わしています。「ほんの30年か40年前の平均的な中国人の夢は,自転車とミシンを手に入れることでした。そういうものが当時のステータス・シンボルだったのです。今の夢は,カラーテレビ,ビデオ,冷蔵庫,オートバイを持つことです」。中国に限らずどこにおいても,消費者社会の好みと需要は変化しました。
経済が発展するにつれて,こうした見方の変化が多くの国で生じてきました。カタルーニャ地方出身の40代初めのペドロは,「30年前のスペインでは,600ccの小型車セアト[フィアット]を持つのが夢でした。今では,スペイン人はドイツのBMWにあこがれています」と言います。米国に住むヤグディシュ・パテルは,最近母国のインドに帰った時のことをこのように語りました。「現在インドの道路を走っている車の量には驚きました。幹線道路には相変わらずヒンドスタンを見かけますが,今では外国企業のライセンスを取得してインドで生産された,モダンな型の自動車,スクーター,オートバイなどが一緒に走っています」。
科学における変化
ほんの25年前には,多くの人にとって月はまだ興味をそそる神秘的な存在でした。その後,人類は月の表面に足跡と科学機器を残し,分析用に石のサンプルを採取してきました。米国のスペースシャトルは今では定期的に飛行を繰り返し,米国の科学者たちは常設の宇宙ステーションを建設することや,火星に行くことを口にします。
15年前にエイズという言葉を耳にした人がいたでしょうか。今では,エイズは世界中を襲い,幾百万もの人々がエイズにおびえながら生活しています。
政治的変化
今からわずか4年前には,ベルリン市を分けていた壁は崩れそうもありませんでした。共産主義のソビエト連邦と冷戦が存在していたからです。今では,ベルリンは統一ドイツの首都となり,旧ソビエト連邦の15の共和国のうち11の共和国が独立国家共同体を形成しています。
わずか数年前には,国連はおもに資本主義勢力と共産主義勢力との闘争の場でした。そして,いわゆる非同盟諸国はどちらかに傾いて損失を被ることがないよう傍観していました。今では,東西諸国が平和と安全について話し合っており,国連は威力を増しています。危機的な状態にある地域には,世界中どこにでも軍隊を派遣する力を持っています。今から3年前には,ユーゴスラビアやチェコスロバキアと呼ばれた国がありました。今では両国とも,小さな独立国家に分かれています。
こうした様々な変化は,世界が真の平和と公正,また食糧や資源の公平な分配の達成に向かって大きく前進したことの表われなのでしょうか。世界は以前より文明化されたのでしょうか。犯罪者を恐れることなく通りを歩くことができますか。人種,宗教,政治,生活習慣,言語などを理由に,他の人を憎むことなどしない人間を育成する教育が行なわれたでしょうか。それは,人類家族全体とその住みかである地球とを本当に発展させるような変化でしょうか。わたしたちはどこへ向かっているのでしょうか。続く二つの記事ではこうした疑問について考えます。