『あらゆる人に対してあらゆるものとなる』
1 良いたよりの不屈の宣明者であった使徒パウロは,自分がたゆまず改善を目ざしていた事柄が何かを示して,「わたしはあらゆる人に対してあらゆるものとなってきました」と述べました。(コリント第一 9:22)この点でパウロに倣うには,伝道者として融通性を身に着ける必要があります。
2 融通性とは,臨機応変に物事を処理する能力のことです。融通性のある奉仕者は,野外宣教において個々の家の人が示す態度や,述べる考えに合わせて,宣べ伝えて教えるという目的を念頭に置きながら適切に答えたり,振る舞ったりすることができます。その結果,より多くの聴く耳を得ることができ,最終的にはパウロと同じくさらに「幾人か」の人を救いに導くという喜びにあずかることもできます。それは何と望ましい目標でしょう。融通性は生まれつきの能力ではなく,思考と経験によってだれでも培うことができます。あなたはどんな分野でさらに融通性を身に着けることができますか。
家の人の態度に応じて融通性を示す
3 戸口で家の人が示す態度に合わせて適切に事を進めていくには,相手の人の感情,状況,意図などを適確に読み取り,それに応じて何をしたらよいかを適切に判断することが必要です。証言を進めながら,家の人をよく見てください。表情は穏やかで,友好的ですか。そうであれば,家の人は少なくともわたしたちの言うことを聴くだけの用意ができています。しかし,明らかにいらいらしていたり,警戒の色が認められたりするなら,予定している話を続ける代わりに何をすべきかを決める必要があります。家の人は電話中ですか。食事の準備中または仕事中で,明らかに妨げられたくない様子ですか。あるいは具合いが悪そうですか。そのような場合,相手をいら立たせないようにしながら,しかも訪問の目的をできる限り成し遂げるために何をするのが最善かを決めなければなりません。
4 家の人の言うことを注意深く聴く必要もあります。(箴言 18:13。ヤコブ 1:19)家の人は実際のところ何を言いたいのですか。わたしたちの述べたことに答えようとしていますか。それとも,わたしたちが何を述べたかにかかわりなく,断わるための理由を述べていますか。相手がこちらの述べたことに答えようとしないなら,用意した話をそのまま続けてもあまり効果的ではないかもしれません。証言が一方的になってしまうからです。そのような場合,別のどんなことを述べるべきかをすばやく決めるほうが勝っています。それによって家の人はわたしたちが「道理をわきまえている」ことを知るので,次にわたしたちが述べることに安心して耳を傾ける可能性があるからです。―フィリピ 4:5。
5 家から家に行く際,幾つもの目標を持ち得ることを覚えておくと,融通性を示す助けになります。例えば,用意した証言を始めたところ,家の人が聴こうとしないのに気づくかもしれません。しかし,なすすべがないわけではないのです。家の人が望んでいないのは時間を取られる長い話し合いかもしれません。では,「時間の余裕をお持ちでないようですから,聖書から一つの興味深い言葉をお読みして失礼したいと思います」と提案できるかもしれません。あるいは,家の人は出版物なら読んでもよいと思うかもしれません。では,「お忙しいようですから,今日はこれで失礼したいと思います。でも,お話の代わりにこの2冊の雑誌をあとで楽しんでいただくこともできますが,いかがですか。100円だけのご寄付でお読みになれます」と申し出ることができるかもしれません。出版物の提供,聖句を読むこと,パンフレットを渡すこと,再訪問の土台を築くこと,研究の取り決めを伝えること,去る前によい印象を残すこと,など目標にできることはたくさんあります。家の人の状況や反応にしたがって,すばやく適切な他の目標に切り替えるなら,少なくとも一つの目標は遂げられることになるでしょう。よい印象を残すことだけでも立派な成功です。家の人は次に訪問する伝道者に好意的な態度を示すかもしれないからです。
家の人の考えに応じて融通性を示す
6 これは一層の思考と準備を要する分野です。パウロはユダヤ人を対象にした場合とギリシャ人を対象にした場合とで,証言での近づき方を変えました。一般のユダヤ人やギリシャ人の考え方に通じていて,それにかみ合うように話そうとしたからです。(使徒 13:14-43; 17:16-31)同様にわたしたちも,区域のさまざまなタイプの人たちが一般に何を重視し,何に関心を寄せているかを知る時,人々の必要に合わせた証言をすることができます。今日,多くの人々はどちらかというと自分の生活に主な関心を向けているようです。働き盛りの男性は自分の会社の将来,生計を立てることの難しさ,退職後の生活の保障に関心を持っているかもしれず,主婦であれば子供の教育やしつけ,家族の健康,幸福な家族生活,家計簿の収支に注意が向いているかもしれません。こうした話題について興味深く話し合えるような証言を準備しておくなら,戸口で家の人の関心事に合わせて臨機応変に話題を変えることができます。「論じる」の本はこの点で優れた助けになるでしょう。
7 融通性は急に身に着くものではないかもしれません。しかし,その目標を目ざしてたゆまず努力を重ねるなら,わたしたちは「適切な時に」人々の福祉に資するふさわしい言葉を話し,エホバへの賛美に一層有意義に貢献する喜びにあずかれるでしょう。―箴言 25:11。