「すっかりごぶさたしてしまって,申しわけありません」
手紙を書こうと思いながら,書きそびれた経験がありませんか。その後,どうしても書かねばならないと真剣に考えだした時には,すでに何週間も,おそらくは何か月間もたってしまったというようなことがあるかもしれません。そのような場合,「すっかりごぶさたしてしまって,申しわけありません」という陳謝のことばをもって,手紙を書き出さねばならないのは,もっともなことです。
そうした経験は,あなただけに限られたことではありません。あなたは,返事がおそくなったり,長い間たよりをしなかったりしたことをわびる手紙を人からもらったことがあるに違いありません。あなたと同様,他の人々も,もっと早く返事を書くべきだったと感じたのです。そして,おくれればおくれるほど,事情はぐあいが悪くなるので,返事を書くのをあきらめる人々もいます。手紙を書くのを延ばす,こうした傾向が,一般に見られるのはなぜですか。
わたしたちが時間を費やし,心を配らねばならない事柄は数多くあります。しかし,仕事・食事・買い物・睡眠などの肝要な事柄には,そのための時間を必ずあてがいます。ですから,多くの場合,楽しい手紙を送ってくれた友人に返事を書くため,時間をあてるかどうかが問題なのです。
手紙を書く理由
友人や親族に手紙を書く理由の幾つかを考慮すれば,問題に対処する助けが得られるでしょう。親族がすぐ近所で生活していた者の時代には,今日ほど手紙を書く必要はありませんでした。しかし,今日,事情は一変しました。家族の成員が,国内の各地や遠い外国にさえ散在して生活していることが,珍しくありません。
親は子どもに対して,子は親に対して,互いに相手のことに心を配る道義的な義務があるのではありませんか。こうした事情に無関心でいることは,自然の情愛の欠如と解釈されてもしかたがありません。
しかし,義務感を全くぬきにして,この面で他の人の必要にこたえる際に味わう喜びには,独特なものがあります。人から贈り物をもらう以上の深い満足感があるのです。元気なあなたからの消息,しかも,近況をいろいろしたためた,あなたの自筆の手紙を受け取るなら,友人や親族は確かに心を強められるでしょう。あなたはこのことを疑いますか。もし,そうなら,あなたご自身の経験を思い起こしてごらんなさい。
りっぱな手紙を受け取るほど楽しいことは,そうたくさんあるものではありません。たいてい,それは快い興奮を誘います。自分のことをだれかが考えていてくれると思うだけで,喜びが込み上げてくるのではありませんか。それに,封を切るときの,あの期待を考えてください。その時点まで,手紙の内容は一種の秘義のようなものです。さて,どんなことがしたためられているのですか。だれかの興味深い経験かもしれません。あるいは,あなたへの愛を表わすことばや,親切と思いやりを示すことばかもしれません。
してみれば,わたしたちもだれかに手紙を送って,同様な興奮と喜びを相手に味わってもらいたいと願わずにはおれません。
行なえる事柄
たとえ多忙をきわめていても,友人や親族とのきずなを保つために,何かを行なえるのではありませんか。はがき,あるいは絵はがきを送ることはいかがですか。ごく短い手紙を送ることもできるでしょう。長い手紙を書く必要はありません。事実,長い手紙には,うんざりさせられる場合があります。手紙をもらった人が,これまた忙しくしている場合は特にそうです。「道に沿って」という本はこう述べています。
「旧友にめったに手紙を書かない人が多数いるが,それは,いやしくも手紙を書くからには,長い手紙を書かねばならないと考えているためである。しかし,それは大きなまちがいである。こうした,いわば筆無精のために,数多くのすぐれたきずなが断ち切られている。肝心なのは手紙であって,手紙の長さや,文章の質ではない。それにしても,ふたことかみことでも紙片に書いて,1年に三,四回送れば,友情を保てるのに,それさえせずに,友情のきずなが余儀なく断たれてゆくのは残念なことである」。
ですから,長い手紙を書くほど十分の材料がたまるまで,手紙を書かずに待つ必要は少しもありません。あなたの手紙を待っている人が,一番知りたがっているのは,たいていあなたが身体的または霊的に元気に暮らしているかどうかということでしょう。そうであれば,早くそのことを知らせるべきではありませんか。それとともに,先方が元気に暮らしているかどうかを知りたいという,あなたの関心のほどをぜひ表わしてください。
友情は貴重なものです。友人どうしは,お互いの近況をいろいろ知って,意志の交流を図ることに深い関心をもっています。親子は親密なきずなで結ばれていますから,家を離れている若い人は,両親の安否を気づかうのが当然です。一方,親は手紙を書いて,若い人々に良い助言を与えることができます。
手紙を書くことを楽しむ
手紙を書くのは,うんざりすることでもなければ,むつかしい仕事でもありません。次の手紙に書きたい,と思うような事柄をおりにふれて,メモ用紙に書きとめておけます。知らせてあげたい,おもしろい話や経験が,おそらくあるでしょう。自分が喜びを感じた経験は,他の人にも喜びをもたらします。同時に,自分の手紙が,なんらかの点で人を励ますものとなるように努力してください。
そして,必ず昔のことを何か思い起こして,取り上げるのがよいでしょう。それは,友人との親密さを深めるものとなります。親に手紙を書く場合であれば,家での楽しい生活の思い出,たとえば,母親が自慢の種にしていた,居間の植物,あるいは,台所の窓のそばの桜が満開になった時の様子など,いろいろと覚えていることを知らせれば,喜んでもらえるでしょう。おとうさんは,地下室でのあの仕事を今もしていますか。家のまわりの仕事は,今では弟がやっていますか,などと尋ねるなら,そうしたことに対するあなたの関心のほどがわかるでしょう。
そうです,手紙は,それを受け取るあなたの生活を楽しくすると同様に,他の人の生活をも楽しくするものです。手紙を書くのをいつまでも延ばす傾向があるなら,自分が書く短い手紙が成し遂げうる良い事柄のすべてを,ぜひ思い起こしてください。「すっかりごぶさたしてしまって,申しわけありません」という書き出しの手紙を書かないでもすむように努力してください。むしろ,早く書くことにしましょう。