マッサージで全身そう快！
今日の世界は緊張度が高いので，その緊張をほぐすためにマッサージをしてもらう人がしだいにふえています。そしてこのためにはマッサージは，精神安定剤よりもさらに効果的で有益とさえ言えます。
しかしマッサージは，神経の緊張したこの20世紀が発明したものでもなければ，また緊張をほぐすことにしか効果がないというものでもありません。療法としてのマッサージは，ヒポクラテスの医学上の記録を含め，最も古い医学上の記録にのっています。
性を刺激するために用いられている
不幸にして，マッサージを受ける人がふえている理由のひとつは，マッサージをしてもらうと性的に親密な関係になる可能性があるからです。ニューヨークとかロサンゼルスのような多くの大都市には，マッサージを好色的な目的に利用する「マッサージ･パーラー」とか「ヘルス･クラブ」などがたくさんできています。そのようなパーラーは『ホアハウス』（売春宿）と呼ばれています。（ニューズウィーク誌，1971年4月26日号）その目的をほのめかせているのは，そうした場所のひとつが出している，「ポンペイ以来，男がこれほど楽しんだことはない」という広告です。市の条令によって非合法化されているところでも，警察はそうした場所を取締まるのに手をやいているようです。
このような傾向がありますから，健康のために ― 自分自身でできるよりも，あるいは自分の家族の者がしてくれるよりも効果のある ― マッサージを望む人はだれでも，自分の行く場所がそのようないかがわしい場所でないことをまず確かめることがたいせつです。かかりつけの医師に紹介してもらうのもよいでしょう。
治療法としてのマッサージ
「マッサージ」ということばは，フランス語の「こねる」という意味の語根から来ています。マッサージは，からだの柔軟な組織運動を加えることで，一専門家によると，「手で行なうのが最も効果的です。またこれは，神経系や筋肉系統に影響を与え，血液やリンパ液の循環を局部的に，あるいは全体的によくする目的で行なわれます」。
マッサージの技術を持っていてそれを職業としている人は，たいていマッサージ師として知られています。男性のマッサージ師はマッスールで，女性のマッサージ師はマッスーズです。物理療法者も病気の治療にマッサージを利用し，湯，冷水，透熱療法用具，手技などの他のものも用います。医師の中で，患者に物理療法者かマッサージ師のところへ行きなさいと言いそうなのは，整形外科医と「物理療法」を行なう医師です。
マッサージの特色
基本的に言って，マッサージで使われる動作は4種類あります。からだの筋肉をたたく動作がありますが，これは両手の手のひらと指腹で行ないます。こねる動作は，親指と他の指とで筋肉をつかむ動作で，両手で同時に行ないます。それからこする方法がありますが，これには回転動作が含まれます。また振動させる方法もあります。これは手のひらのふちで筋肉をたたくことによって行なわれます。バイブレーターのような器機を使用する傾向が生じてはいますが，専門家の中には，こうした動作は，手で行なってはじめて最も有益で効果のあるものになると信じている人が少なくありません。
マッサージのこうした種々の方法はさらに，特定の要素によって加減され，変化がつけられます。圧力もそうですが，これは軽くも，中くらいにも，強くもすることもできます。マッサージを行なう速度もリズムと同じく重要で，それはマッサージの目的が刺激を与えることにあるか，あるいは緊張をほぐすことにあるかによって支配されます。さらに別の要素は施術時間の長さで，全身のマッサージに要する時間は普通45分から1時間です。マッサージを受ける回数もまたひとつの要素です。時間が許せば1週に1，2回受ければ，外傷のないかぎり，効果的でしょう。それからまた，ふろにはいったり，からだを暖めることも，最高の結果を得るためには必要だと考える人もたくさんいます。
マッサージが，医療の他のいろいろな面と同じく，過小評価されていると考えられる理由はあります。いうまでもなく，マッサージは時間のかかる療法です。徹底的なマッサージは，脊柱指圧法と比較すると，60倍も多くの時間がかかります。またマッサージを施すには施術者が非常な力を用いなければなりません。
マッサージの効果
マッサージには，人びとから喜ばれる効果がたくさんあります。マッサージは新陳代謝機能を高進させて，筋肉，神経，皮膚の状態を良くします。また血液の循環を促進し，神経を刺激する効果があります。ですからマッサージは人の福祉に寄与します。急性の病気の回復期にある患者にはとくに効果的です。したがって，「いろいろな病状においてマッサージが必要である。高年者の全身的衰弱，二次性[貧血]……またある種の関節炎や筋肉ロイマチスなどにも，じょうずなマッサージはよい効果をもたらすだろう」と言われています。とくにからだの局部を打ったり，ねんざしたり，くじいたりした場合に，マッサージは，その部分の機能を回復するのに役だつでしょう。たとえば，手による操作に加えてマッサージを行なうとくじいたひざが早く直ることは，どのフットボール･チームでも認めるでしょう。
物理療法者でさえ，心臓発作の治療にマッサージを利用しています。この療法を用いたある医師は，心臓発作で心臓が停止した人の70％が，「間接的な心臓マッサージ」の助けにより全快したと報告しています。
「自分でしなさい」
ある国では，自分で治療をするという考えに医師はまゆをひそめますが，マッサージはその非難のらち外にあります。自分にするにせよ，あなたの愛する人たちにマッサージをしてあげるにせよ，専門家ほどの効果はあがらないにしても，ある程度らくにすることはできるでしょう。公共の図書館に行けばマッサージのことを扱った本があります。あるいは，自分自身や家族の者にマッサージを施す要領を学ぶために，自分が2，3回マッサージをしてもらうのもよいでしょう。
たとえば顔，とくに目と耳に施すマッサージがあります。視力や聴力の増進に驚くほどよい結果の得られることがあると言われています。頭皮にもマッサージを施して，血液の循環をよくすることができます。これは指先で行ないますが，指が動くのでなくて頭皮が動くようにしなければなりません。また軽い便秘や，腸内にガスがたまった場合にも，マッサージは効果的です。下腹部の右側から大腸に沿って横隔膜のほうに上行し，それから横に行って下がるというふうに円形にマッサージします。眠れない時にマッサージをするとよいと言う人もいます。これも家で家族の者にしてもらうことができます。被術者はうつぶせに寝，施術者は，頭のてっぺんから足，足の裏，足の指までマッサージをします。
マッサージと運動は共通のものを持っているように見えますが，実際にはそれぞれに自分の持ち場があり，片方が他方を代行するわけにはいきません。両方とも血行をよくすることは事実ですが，マッサージは筋肉を強くすることはできません。それができるのは運動だけです。他方，運動には筋肉による乳酸の生産がいつも伴います。からだはこの乳酸を排出しなければなりませんが，マッサージはからだがそれをするのを助けます。そのため，激しい運動をしたあとは，そうした老廃物の排出を助けるよう，マッサージを施すことが少なくありません。これは運動競技のコーチや馬の調教師にまで広く知られている事実です。
アイス･マッサージ
しだいに前面に現われているのはアイス･マッサージです。たとえばある軍医は物理療法班に，何かのことでからだに大きな打撃を受けた兵士たちに，タオルに包んだ半ポンドの氷でマッサージをさせました。
その治療を受けた最初の1,000人のうち90％はそれから益を受けました。アイス･マッサージは関節炎やロイマチス的な状態には絶対に推薦されませんが，通常のねんざや，挫傷や，打ぼく傷には，非常に効果的であることが知られています。患部は無感覚になるまで氷でマッサージしてかまいません。この種のマッサージも家庭で，そして自分で行なえます。
確かに多くの人がマッサージをするようになっています。ある人びとはマッサージの気持ちよさをただ喜び楽しむために，他の人びとはさもしい欲情を満足させるためにマッサージをします。しかし健康上の理由で，治療をする目的で施すマッサージはほんとうに有益です。評判のよいマッサージ師や，理解のある家族の者が施すマッサージは，疲れをほぐし，筋肉の機能状態を高め，血行を促進し，頭皮の状態をよくし，そして氷を用いるなら，打ぼく傷，挫傷，ねんざなどの回復を早めます。そうです，マッサージは，そしてほんとうにじょうずなマッサージは，全身をそう快にします。