赤ちゃんを母乳で育ててみませんか
私は四人の子供を育ててみて,授乳が子供に栄養を与える以上の働きをすることに気付きました。授乳は,母親と子供との温かい,愛に満ちた関係を作り上げる助けになります。赤ちゃんは母親にしっかり抱いてもらうことや,母親の肌に触れること,母親の心臓の律動的な鼓動を聞くこと,また優しく話しかけてもらうことなどを必要としています。その必要を満たすのに,母親が子供を胸に抱いて母乳を与える以上に良い方法があるでしょうか。
ところが今日では,どこに行っても,母親が子供にお乳をふくませている光景は見られなくなりました。現代の女性の中に,子供を母乳で育てようとする人が非常に少ないのはなぜでしょうか。そしてまた母乳で育て始めて失敗するお母さん方が多いのはなぜでしょうか。私はこうした事柄についていろいろと考えてみました。私が経験を通して学んだことや,研究によって知ったことが,特に母乳で育てるご自分の能力を疑っていらっしゃるお母さん方に少しでもお役に立てば幸いです。
母乳が足りないのではないか?
私はよくこう自問しました。空腹以外の原因でも赤ちゃんは泣く,ということに気付かなかったので,心配しました。赤ちゃんはおむつがぬれたり,おなかにガスがたまったりしても,泣くことがあります。ちょっと抱いてあやしてやるだけですむ場合も少なくありません。そのような愛情は赤ちゃんにとって食物と同じほど大切なのです。
乳が足りないかもしれない,という心配は実際には必要ではありません。なぜなら,乳汁の分泌は,需要と供給の法則に従うからです。赤ちゃんがお乳をたくさん飲めば飲むほど,乳房は乳を出すように刺激されます。たとえ双子であっても,乳房は吸う力に刺激されて,二人の赤ちゃんのために十分のお乳を出します。これは全知の創造者が設計された,供給が需要を満たす本当にすばらしいシステムです。
赤ちゃんがお乳を十分飲んでいるかどうかを知る一つの方法は,おむつを度々ぬらすかどうかをみることです。何か入って行っていなければおむつはぬれません。また,赤ちゃんが大体においてきげんがよく,体重が順調に増えているなら,十分お乳を飲んでいるのです。一か月に平均450㌘,一週間に110㌘から200㌘増えれば十分です。
授乳の時間
母乳はきちんと一定の間隔を置いて,例えば三時間ごとに与えなければならない,というふうにあなたはお聞きになっているかもしれません。私も最初の子供を育てるときにはそれを信じて,子供のおなかよりも時間によって授乳することを試みました。子供が目を覚まし,授乳時間がきてもいないのにお乳を欲しがると気分がおろおろして落ち着きませんでした。授乳の時間でもないのにどうしておなかがすくのか分かりませんでした。
でも,四人目の子供が生まれるまでには,授乳の時間に関する限り,決まった時などないのだ,と考えるようになっていました。驚いたことに,赤ん坊は満足し,私は気分が楽になりました。あなたも,うまくいくかどうかやってごらんになりませんか。
他方,よく眠る赤ちゃんの場合は,起こしてお乳を与える必要があるかもしれません。赤ちゃんが五時間かそれ以上眠るのは珍しくありません。夜などそのように眠ってくれると助かります。でも,昼間一度以上そのように長時間眠るようであれば,起こして,多分三時間おきくらいにお乳を与えるのが望ましいと思います。そうしていると,やがて赤ちゃん自身の空腹のリズムが出てくるでしょう。
決意が必要
最近は母乳で育てるお母さん方が非常に少ないので,この授乳法の経験があまりないお医者さんが少なくありません。もちろんお医者さんたちは,牛乳よりは母乳のほうが赤ちゃんのために良いことを知っています。医学書にもはっきりとそのように書かれています。しかし,人工栄養で育てることがあまりにも一般化してしまったために,お医者さんの中には,母乳による育児にあまり詳しくないというだけの理由で,母乳で育てることをあまり勧めない人がいるかもしれません。そういう場合にはどうしたらよいでしょうか。
お医者さんはほかにもいます。母乳で子供を育ててきた人たちに話し,どの医師にかかったか,そしてその医師が,母乳で育てたいというその人たちの希望を本当に支持したかどうか尋ねてみます。もし支持したということであれば,その医師のところへ行き,母乳で育てたいということを話します。これは赤ちゃんが生まれる前に行ないます。自分の望みに会ったお医者さんを探すわけです。
病院でお産をする場合は,母乳で育てる決意をはっきり示しておくことが重要です。なぜですか。ハーバード大学の栄養学の教授ジーン・メーヤー博士は,「男子が支配する病院では,母乳を与えることは公然と妨害される。新しい母親は母乳で育てる意志をはっきり告げておかないと,乳の出を止めるよう,麻酔からさめないうちにエストロゲンを注射される」と述べています。しかし,たとえ“乳を止める”注射をされても,乳を飲ませていると十分出るようになります。
ある病院では,こちらが頼むと,入院中赤ちゃんを自分のそばに置くことを許してくれます。もし病院が赤ちゃんを母親の部屋に入れることをしないなら,少なくとも三時間ごとに,あるいは空腹のときにいつでも,赤ちゃんを連れてくるよう頼まねばなりません。これはもちろん夜間も赤ちゃんを連れてきてもらってお乳を飲ませるということです。病院の育児室でミルクを飲ませて補わないように頼んでおきます。それをすると赤ちゃんの食欲を抑えることになるので,乳の出に影響します。
お医者さんの中には分娩台の上で新生児に乳を飲ませることを母親に許す人がいますが,このことは勧められています。新生児が乳房を吸うと母乳の分泌を刺激するからです。そればかりでなく他の目的も果たします。つまり母親の子宮の収縮を促し,出血を減らす可能性があります。
授乳に関連してある医学上の問題が出てくるなら,母乳を続けたいというあなたの強い希望をお医者さんに気付いてもらうことが必要です。そして自分でもその問題を研究します。そうすればお医者さんは,あなたが,起きてくるかもしれないいろいろな障害に対処する方法を学ぶほど,母乳で育てることに関心のあることが分かるでしょう。もしなんらかの医学上の理由で授乳をやめるよう医師から強く言われるなら,やめるのは一時の間だけであることを話しておきます。そして乳を出すのをやめないようにし,赤ちゃんには飲ませなくても,乳を絞るようにします。そうすれば,後ほど状態がよくなったときに,また授乳を続けることができます。
母乳で育てることに成功しようという決意には,いろいろな報いがあります。例えば,母乳を飲ませる母親のほうが,乳ガンにかかる率が低いのです。また,神経質な人なら,昼間時々腰を下ろしてお乳を飲ませることは,気分をくつろがせる助けになります。授乳は,気分を静める効果のあるホルモンの分泌を促します。そしてまた現在が大きな災厄に脅かされている危険な時代であることを考えて,「物が配給になる非常時の困難な時に私の子供は母乳なしで生き延びられるだろうか」ということも自問してみるとよいでしょう。
ご主人にひとこと。赤ちゃんを何で育てるかについてのあなたのご意見は,あなたの奥さまにとって恐らく他のどんな人の考えよりも重要なものだと思いますから,母乳で育てる奥さまの努力を全面的に支持してあげてください。
乳首の手入れ
特に,頭髪の赤い人や色の白い婦人の中には,乳首が痛んでそのために母乳を与えるのをやめる人がいます。しかし,子供が生まれる前から状態を調える工夫をしていると,この問題は大抵防げます。
まず,乳首にはあまりせっけんを使わないほうがよいと言われています。せっけんは皮膚を乾かす傾向があるので皮膚が割れやすくなるからです。乳首を柔軟にしておくには,乳首を痛くない程度に毎日数回引っ張ることが勧められています。これを日に一,二回行ない,そのあとラノリンなどの,皮膚をなめらかにする油を塗っておきます。
乳腺を開かせて乳房の充血 ― 出産後生ずることがある ― を和らげるには,乳房から初乳を手で絞り出す試みを,子供の生まれる六週間ほど前から始めることが勧められています。初乳というのは,本当の乳が出る前の黄色っぽい液のことです。
初乳を絞り出すには,手を乳房に当て,親指を上に,人差し指を乳首の色の濃い部分の端のところに置いて,親指と人差し指で静かに押します。そのとき両方の指を乳首に向けて滑らせないように気を付けます。またすべての乳腺に触れてそれらが開くのを助けるために,人差し指と親指で乳首の周りを二,三回もみます。最初ほんのわずかしか絞り出せないかもしれませんが,それでも心配しないでください。それはあとから出る乳の量には影響しません。
子供が生まれた後乳首に痛みを感じても絶望しないでください。乳首はできるだけ度々空気に触れさせるほうがよいようです。ですから授乳後は必ず乳首が乾いてから被うようにしてください。私はビタミンEが痛い部分によく効くのを発見しましたが,ラノリンやビタミンAとDの軟こうを勧める人もいます。
乳首が痛ければ,授乳の回数を減らすと楽になるとお考えかもしれません。ところが大抵の場合その逆です。もっと度々,仮に二時間置きか二時間半置きに授乳するなら,乳房はいつも気持ち良い程度にからになっています。それに赤ちゃんも,空腹のためにがつがつ吸うということがありません。赤ちゃんがそれをすると乳首が刺激を受けます。また,乳首が痛む間は,授乳の長さを左右それぞれ10分に限るのも良いでしょう。
乳の分泌を維持する
お乳が出なくならないようにするには,毎回両方の乳を飲ませることが大切です。前回左の乳を最後に飲ませたなら,次には左の乳から飲ませ始め,左を飲み尽くしたら右の乳に替えます。そして次の時には右の乳から飲ませます。私は次の時にどちらから始めるか覚えておくために小さな安全ピンを使いました。下着にちょっとそれをつけておくのです。
生後六週間くらいになった時と,さらに三か月くらいになった時に,赤ちゃんがよくむずかるようになり,お乳を欲しがる回数が多くなったことにお母さんは気付くかもしれません。それは赤ちゃんが成長していることを示すしるしに過ぎません。これは赤ちゃんがお母さんのお乳を増やすのに使う手なのです。ですから欲しがる時に飲ませます。そうすると一日かそこらで通常のペースに戻ります。
いつから固形食を与え始めるか
赤ちゃんに固形食を与え始めることは急がないほうが賢明です。生後最初の数か月は,母乳だけで必要は満たされます。母乳で液体の必要はまかなわれますから,水さえ必要ではありません。
固形食を与え始めるべき時は大抵赤ちゃんのほうから教えてくれます。食欲が急に旺盛になった時がその時です。五日間ほど授乳回数を増やしてみて,それでも赤ちゃんの旺盛な食欲が満たされなければ,赤ちゃんは固形食を食べる用意があることを告げているのです。固形食は一度に一種類,急がずに与え始めます。そうすれば,発疹したり,なんらかのアレルギー反応を起こすと,どの食物が犯人かよく分かります。
私は自分の子供に五か月の時から固形食を与え始めました。それまでは母乳ばかり飲んでいましたが,すくすくと育ちました。固形食を食べ始めてからは座ることができるようになり,より幼い赤ちゃんよりもずっとうまく新しい経験に順応することに気付きました。また,驚くべき副作用として,かなりの節約になったことにも気付きました。母乳を飲ませていた間は,ベビー・フッドなど全く買わなかったからです。乳児用調乳も哺乳びんも買いませんでした。五か月の時に,食卓の上の食物を取って,赤ちゃんが消化しやすいように十分こまかくして与えたにすぎません。
どのくらいの期間母乳を与えるか
これは,固形食を与え始めたなら母乳をやめるということでしょうか。決してそうではありません。母乳栄養を固形食で補うに過ぎません。では母乳はいつやめるべきでしょうか。
イスラエルの母親たちは,二年半から三年あるいはそれ以上,子供たちに乳を飲ませました。聖書によるとアブラハムの年老いた妻サラは,息子イサクを五歳になるまで乳離れさせませんでした。さらに長期間乳を与えた女性がいることも伝えられています。サタデー・リビュー・オブ・ザ・サイエンスの1973年5月号には次のように書かれています。
「昔のインド人は,母乳を飲む期間が長ければ長いほど子供は長生きをする,と信じていた。だから子供たちが八歳から九歳になるまで母親の乳を飲むことは少しも珍しいことではなかった。ほんの40年ほど前まで,中国や日本の母親は,子供が五,六歳になるまで母乳を飲ませていた」。
でもあなたは,「だれがそんなに長く母乳を与えたいものですか。人々は私がどうかしていると思うでしょう」と考えておられるかもしれません。確かに私たちは違う時代に住んでいます。それでも私たちは,今日の社会が命ずるよりも長期間母乳を与えるほうが,母親にも子供たちにも益になるのではないか,と自問してみることができると思います。今の時代でも,よちよち歩きの子供が哺乳びんを持っているのを見ても,おかしいとは思いません。では母乳を一年かそれ以上飲ませ続けることがなぜそんなに奇異に思えるのでしょうか。アシュレー・モンタギューは,「タチッング」という本の中で次のように述べています。
「出生後一年間母乳で育てることが,成人するまでのその後の発育に利することは,多数の研究者たちによって実証されてきた。証拠の示すところによると,乳児は少なくとも12か月は母乳を与えられるべきで,母乳の停止は,乳児にその用意ができた時に初めて,段階を踏んで徐々に行なわれるべきである。その間に,固形食が母乳に取って代わるようになる。固形食は生後六か月目から与え始めることができる。子供に離乳の用意ができれば母親には大抵分かるものである」。
私は子供がよちよち歩くようになった後もかなり長く乳を飲ませました。そして子供が赤ん坊の特徴を少しずつ捨てて小さな男の子になってゆくのを見ました。
私はいつも自分の生涯のこの時を振り返って,創造者エホバが,子供を育てる母親にこの賜物を ― 私と子供とのこの美しい関係を与えてくださったことを感謝するのです。―寄稿。