若い人たち,自分を孤立させていますか
あなたは皆と交わるほうですか,それとも引きこもってしまうほうですか。
ギターの前奏が高く激しく響き渡る。律動的な低音が床を伝わってこちらに小さく響いて来る。歌手は,煩わされることなく自由に生きたいと歌う。僕にはその気持ちが分かる。それは僕の気持ちでもあるのだ。レコードを聴いている時は,万事が申し分ない。演奏家たちが僕を理解し,僕が彼らを理解しているかのようだ。
ママやパパはそうじゃない。僕が考えていることを分かっちゃいないんだ。学校でも同じだ。先生たちは言いたいことだけ言って,こっちの話を聞いちゃくれない。パパもママも先生も,僕の本当の気持ちを知ったら驚くだろう。
ほんとに毎日同じことの繰り返しだ。僕は学校からまっすぐ家に帰る。
「お帰りなさい」。
「ただいま」。
「きょうは学校でどんなことを勉強したの」。
「べつに」。
さて,これで片が付いた。階段を,一段置きに昇って部屋へ行く。僕の音楽だ。ドアを閉める。ここは自分の世界。僕はレコードを聴き,歌手や演奏家たちと考えや感情を分かち合いながら,自分の時間のほとんどをここで過ごす。ある時は,世界を変革することに奮い立ち,ある時は,希望が全くないように思えて意気消沈するんだ。
僕たちは世の中に目を向けて,そのあるがままの姿を見る。しかし,世の中は僕たちの真の姿を見ようとしない。そして僕たちを子供だと言う。だが,僕たちは内面的には実際の年より大人だと思う。不正・自由・愛・圧力・環境問題に関して一致団結すること,こういったことに僕たちは関心がある。ところが,大人は僕たちの言うことをまじめにとってはくれない。だから,僕たちは自分たちの世界の中で自分たちの方法で意思を通じ合わせるんだ。
あなたも,これに似た考えの若者ですか。あなたの心の中にも様々な感情がうず巻いていますか。大人が自分の本当の気持ちを理解しようとしてくれないのでいらだちを感じますか。その気持ちにどう対処していますか。どうしたらよいか分からなくて大人を避けて孤立した生き方をし,好きな音楽や親友を相手に何時間も過ごす,という人もいるかもしれません。大人と若い人が,多くの場合,本当の気持ちをどうしても話し合えないのはなぜだと思いますか。
身体面ともう一つの面で成長する
あなたは変化しています。もう子供ではありません。あなたの体は間もなく,成熟した男性もしくは女性としての形が整うのです。まるで一晩のうちに背丈が10㌢以上伸びたように思えることもあります。特別の体毛がヒメシバのように生え始め,急に性的に発達し,身体的に大きく変化します。
体がこのように急激に発達している時に,両親やだれか身近な大人の人が生の事実を話してくれたかもしれません。それを知ったのは有益でした。それが全く正常なことであり,自分だけに生じているのでないことを知る必要がありました。
しかし,そうした外面の変化と同様に著しく,それと同じ位,あるいはそれ以上に大きな他の変化が起きていました。それはあなたの人格に影響を与える変化です。ほぼ同じころに感情面でも円熟し始めたのです。その種の発達は身体的な発達と同じほど現実のもので,同じほど急速に生じる場合が少なくありません。しかし,それが生じているのは他の人の見えないところです。
人々はあなたの外面の成長に気付いて,何のこだわりもなくそのことに触れるかもしれませんが,あなたの内面に生じていることこそ,実はあなたを別個の人間にしているものなのです。他の人が成熟しつつあるあなたを引き続きよく知るためには,時間をとってあなたと話さなければなりませんし,あなたも自分の殻に閉じこもるようなことをすべきではありません。一般に,若い人の内面的な成長につり合いの取れた注意を払うことがしばしばなおざりにされています。
感情面の切換えをする
人生のこの時期に,若い人の心には,子供の時にはほとんど考えもしなかったような新しく,深刻な事柄がどっとあふれます。人生の意義と目的,将来についての様々な疑問,異性に対する関心,公正や正義に対する鋭い感覚,世の中でのけものにされている人々への同情。あなたの心にはこうした問題がうず巻いていますか。
人がこれらの問題を意識し始めるのは大体同じころ,すなわち10代の時だということに,あなたは気付いているでしょうか。そのことは確かです。それらはあなたにとってごく個人的な性質の問題かもしれません。しかし,同じ年ごろの他の多くの若者もあなたが心の中で感じているのと同じことを感じています。このような感情面での目覚めは,思春期の身体的な変化と全く同様,すべての若者に共通の現象です。そう考えたことがありますか。それとも,あなたは,この新しい感情は自分だけのものだと考えていましたか。
では,次のことは道理に合っているでしょうか。
若者は,初めてひげをそることに無関心ではいられません。恐らく若者はそれを人生の変わり目と考え,ひげをそることに夢中になることでしょう。それは胸の踊るような経験です。しかし,それがその若者にとって大きな意味を持つからといって,自分と全く同じ気持ちになった人はほかにいない,ほかの人は自分が味わっているような気持ちを味わえないと考えるのは正しいでしょうか。ひげをそったことのある男性にはみな,生まれて初めてひげをそった時があるのではありませんか。そして,幼い弟たちもみな,いつかは初めてひげをそる時を迎えます。それは確かに個々の人にとって特別な時ですが,男性一般にとっては新しい経験でも特異な経験でもありません。あなたはこの例を,若い人が自分の感情面での発達をどのように現実的に見たらよいか,という点にあてはめることができますか。
よく考えると,わたしたち人間が,一般に,同じ基本的な段階を経て子供から大人に成長するというのは,至極もっともなことではないでしょうか。思春期に感じることがきわめて個人的で私的な場合もありますが,それがその人だけの感情だというわけではありません。人生のその時期に人間が示す化学変化の現象の一つに過ぎないのです。
感情面で成長していれば,大人になったと言えるか
こうして,あなたは今や急に,大人が関心を持つような事柄に興味を感じるようになりました。では,あなたはすっかり大人になったということでしょうか。大人があなたの成長を認め,評価するのは適切であるとしても,あなたを成長しきった大人,あらゆる点で大人に等しい者とみなしてくれるよう大人に期待すべきでしょうか。
実のところ,あなたの生活経験はまだまだ限られています。大人のような感じ方をし始めてはいても,常に大人のように考えることができるとは限りません。大人と同じ年数生きてきたのではないので,人生の様々な面に関する背景となる知識を得るにはまだ時間がかかります。
いつまでもそうだと言うのではありません。事実,人生の中でこの時期は,ほんの数ページから成る章でしかありません。人生経験とそれに伴って得られる知恵は,カメがやがてはウサギに勝ったように,初めのころの感情の激発に追いつき,それを追い越しさえします。しかし,そうなるまで,今の感情面での覚醒が自分にどれほど強い影響を及ぼすかを自覚しておくのはよいことです。
感情と意思の疎通の問題
若い人は問題に対してすぐに感情的になり,感情に支配されます。自分のとるべき行動を考え抜くというよりも感覚で知ろうとする傾向があります。若者は,多くの場合,物事を変化させたいと性急に願います。問題に関係している複雑な要素すべてを知っているわけではないので,あまりにも単純に考えることがあります。すべての若者が一つの決まった型にあてはまるというのではありませんが,一般にそうした傾向が見られます。若者は,遅いとか時代遅れだとか思えるやり方にほとんどがまんできず,すぐにいら立つことがあります。
そのような考え方のために,両親や教師またその他の大人に対してふさわしい敬意を持てなくなることがあります。そうなると,現実の世界から身を引いて,自分の好みに合った別の世界,すなわち夢の世界へ逃避します。あなたは,そのことがなぜ若い人にとって損失となるか分かりますか。いよいよこれから人生の知恵を得ようという時に,あなたを援助する資格を持つ,知恵のある人々から孤立するなら,どんな益が得られるでしょうか。
さらに,あなたのご両親はあなたを援助する資格を有しておられるだけでなく,あなたを援助したいという気持ちを持っておられます。そして,これまで常にそうであったように,あなたを愛しておられます。変化しているのはご両親ではなくて,あなたの方です。ご両親はあなたから孤立したいとは決して思っておられません。ご両親があなたを寝室へ追い払い,戸を閉めてレコードを聴くようにさせたのですか。それとも,あなたの方が孤立することを選んだのでしょうか。
ふたたび交わるようになる
このことを考えると,自分と周囲の人たちとの間に小さなひびが入っていることに気付くかもしれません。どちらかがひびを作ろうとしたのではなく,たまたまそうなってしまったのです。それはともかく,どうすればひびをなくすことができるでしょうか。それは,敵と和平しようというのではありませんから,難しいことではありません。
ご両親のどちらか,例えばお父さんと会話を始めるのです。学校で行なっていることを話したり,ある事柄についてお父さんの意見を尋ね,次に自分の考えを話したりします。あるいは,お父さんが関心を持っている事柄を知っているなら,あなたもそのことに関心を示してはどうでしょう。何かを一緒にしてみましょう。仕事をやり終えるのを手伝っていただけないかお父さんに頼んだり,お父さんの手伝いを申し出たりできます。また,人生に関する様々な疑問についてご両親に相談してください。
ご両親の決定に必ずしも常に同意できるわけではないとしても,あなたは,自分というものが感情面では豊かでも経験にはまだ乏しい時期にいるということを忘れないでください。ご両親もしばらく前はあなたと同じ立場にありましたが,今では,あなたが感じたり行なったりしていることを卒業しておられるのです。幸いにも,ご両親から,賢い人となるための援助を受けることができ,個人的な事柄で良い判断力を身に着ける上で十分のアドバイスをしてもらうことができます。「賢い者たちと歩んでいる者は賢くなる」という格言を覚えていますか。ご両親との親密な関係を保ちつつ歩み,それが,心の苦しみや強い衝動による行き過ぎた行動を慎む助けになるかどうかを確かめてください。―箴 13:20。
今は危機的な時代ですから,すべての親が子供のことを真に気遣っているとは限りません。幸いにも,あなたのご両親は気遣いを示しておられ,あなたと交わることを喜ばれることでしょう。また,あなたは,ご両親が人生に対する関心を保ち続けられるよう刺激を与えることもできるでしょう。これからも好きな音楽を楽しんでください。それは良いことです。しかし,それに夢中になる余り自分を孤立させ,ご両親との楽しい交わりを持たなくなるということがあってはなりません。
今日,レコード会社は若い人たちが感じやすいということを十分承知していて,若い人たちの関心を捕え,自分たちの欲する収益を上げるためにどんな歌を広めたらよいかを知っています。その手口にのらないようにしましょう。自分を見失わず,どこで一線を引くべきかをわきまえましょう。孤立してはなりません。「自分を孤立させる者は利己的な願望を追い求め,あらゆる実際的な知恵に逆らって突き進む」と聖書は述べています。―箴 18:1,新。
親を避けるという習慣に陥っていた人は,別の方法でご両親と接するようにしてはどうでしょう。試してごらんなさい。親との交わりのある生活の方がよいかどうか確かめてごらんなさい。今度,自分の部屋へ逃避してレコードを聴きたくなったなら,そうしないでその場にとどまり,皆のやっていることに加わって,その場の雰囲気をもり立てましょう。そのように努力すれば楽しいでしょうか。ご両親は喜ばれるでしょうか。それはあなたにとってもご両親にとってもうれしいことでしょう。あなたがこれまで引きこもっていたのなら,ご両親はあなたが仲間に加わることを喜ばれるに違いありません。