世界展望
僧職者の道徳
● シアトル・タイムズ紙によると,ワシントン教会連合は2年間に及ぶ調査を行ない,「教会組織は,教区民やクライエント(来談者)と性関係を持つ聖職者や牧会カウンセラーに関する『黙殺の申し合わせ』に加担しており」,この問題は「一般に考えられている以上に広く浸透している」と結論づけている。僧職に就いている人々の大多数はこのような方法で自らの影響力を誤用しているわけではないが,「彼らの中には,性関係を持つことがクライエントや教区民にとって最良の策だと本気で考える人がいる」と,報告委員会の委員マリー・フォーチュンは述べた。その調査は原因として,適正な訓練と道徳的規範の欠如を挙げている。フォーチュンはこう述べた。「神学校ではその種の問題について話したことは全くなかった。我々は専門家としてその種の問題を扱うための訓練を受けておらず,聖職者としての我々には受け持ちの教区民との性的な行為を排除する行動の規範がある,という観念も付与されなかった」。そうした行為が発覚した例も幾らかあるが,その場合でも聖職者は別の立場に移されるだけで,問題は「処置されることも明らかにされることもなく,当人の移転先の人々はその件について全く知らされなかった」とフォーチュンは述べている。
高くつく酸性雨
● 「聖パウロ大聖堂のポートランド石が1インチ(約2.54㌢)浸食され,スウェーデンの4,000の湖に生物が住まなくなり,オランダの歴史的古文書には1億ポンド(約350億円)の被害が出ている」。これらは,欧州議会環境委員会の報告の中で言及されている,酸性雨のもたらした破壊的な結果のほんの数例にすぎない,とガーディアン紙は述べている。それより前,同委員会は酸性雨がヨーロッパ共同体に及ぼした被害の年間総額を330億ポンド(約11兆5,500億円)ないし440億ポンド(約15兆4,000億円)としていた。この新しい報告は以前の推定が「控え目であった」と結論している。なぜなら,酸性雨は,「自然破壊の原因となり」,「社会経済的な面でもやはり,正確な数字を出せないほど甚大な被害を及ぼしている」ためである。同報告は酸性雨を,「現代における最も深刻な環境問題の一つ」と呼び,汚染の主要な原因として発電所と自動車を,規制の成功を阻んでいる主要な原因として「異なった法律や規範があまりにも多いこと」を挙げている。
胎児の音楽好き
● 妊娠した母親の腹部にヘッドホーンを置いたところ,「立ち上がってダンスをしたいとでも言わんばかりに」胎児が軽快なワルツにすぐ反応を示すことが観察されたと,英国の研究者クリフォード・オールズは述べている。しかし,ヘッドホーンを母親の耳に当てた時にはそうした影響は観察されなかった。さらに調査を進めた結果,「音楽の種類が異なると心拍のパターンにも異なった影響が現われ,同じ音楽でも,ある胎児の鼓動は早められ,別の胎児の鼓動は遅くなる」ことが判明した,とサイエンス・ダイジェスト誌は伝えている。オールズは一組の双子についてこの影響を認め,一人は外向的な人間に,もう一人は内向的な人間になると予告した。「2年後,その双子の母親は,その言葉が当たったと述べた」。音楽はまた胎児の鼓動を一層規則正しいものにさせるので,研究者はこの方法が将来「胎児の苦痛の手当て」に用いられるものと見ている。
原子力発電の停滞
● 原子力発電の分野で今日最も大きな問題となっているのは,放射能漏れや環境汚染の脅威ではなく,この産業全体が生き残るかどうかということである。米国では技術的および経済的な問題のため,主要な原子力発電所が幾つか閉鎖され,他の原子力発電所の建設も中断された。世界中の様々な国でも同様に将来の開発計画を断念している。その結果,ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると,「1978年以来,原子力発電所建設の目標は,全世界で3万1,000メガワット分縮小され,未建設の,あるいは予備のグループに入っている20ないし30の発電所の大半が,取り消しの候補にあがっている」。代替エネルギー源としての原子力発電の将来は,極めておぼつかないものに思われる。
最高裁長官の苦言
● 米国の最高裁長官であるウォーレン・バーガーは,毎年行なわれる司法演説の中で,アメリカ弁護士会の会員に対し,米国の法の機構は,「真の意味での文明人にとって余りに高くつき,余りにも不快かつ破壊的で,余りにも非能率的である」と述べた。バーガーによれば,法律を職業とする人々が多大の犠牲を払いながらも一般の人々からの敬意をあまり受けていない要因としては,多額の謝礼を必要とする「不合理」でつまらない訴訟,「からし・化粧品・下剤などから中古車に至る他の商品」に用いられるのと同じような宣伝の技術,不正直な悪徳弁護士たちに対して一致した懲戒処分を取らないこと,法曹界の成員が急増していることなどがある。同長官は,「今日の全体的な状況を公平に調べれば,我々のこれまでしてきた事が,必要とされるレベルからはほど遠いことが明らかになる」と述べた。
自殺の周期
● “憂うつな月曜日”は単なる比ゆ的表現ではないようだ。ハーバード大学公衆衛生学部の一研究により,自殺が月曜日と5月に企てられやすいことが判明している。一方,12月と土曜日には最も自殺が生じにくい。18万5,887件の自殺を分析したこの研究で,4月を除く月は毎月5日に自殺率がピークに達することも分かっている。4月のピークは,所得税の締め切りである15日の前の週に見られる。研究者たちは,このデータが「以前には知られていなかった顕著な周期的変動を明らかにする」と述べている。
ネパールの天然資源
● エベレスト山やヒマラヤ山脈の他の幾つかの山々は,世界中の登山家たちを魅了しているだけではなく,ネパールの重要な財源ともなっている。観光省の当局者によると,昨年は700人ほどの登山家がネパールを訪れ,1,700万ルピー(約2億7,000万円)以上のお金を費やした。そのほかにも同国政府は,合計100万ルピー(約1,580万円)に上る登頂料を獲得した。この登頂料は登頂の試みられた山の高度に応じて上下する。同当局者の話によると,これらの登山隊のおかげで同国内の6,000人のポーターと700人のガイドに職が与えられた。その上,部外者に関する限り,この国は確かにこれらの山々によって有名になっている。
交通事故死の傾向
● 米国運輸長官の報告によると,1983年の同国内の交通事故による死者は4万3,028人でここ20年間の最低だった。その成功の大部分は,交通事故死の原因の約50%を占めている酒酔い運転を撲滅しようとする政府の努力に帰せられる,と全米幹線道路交通安全局は推測している。しかし,こうした措置の影響も概して長くは続かないと専門家は警告している。ヨーロッパで実施された同様の計画を研究した結果,当初は成功を見ても,逮捕されるという緊迫感が薄れると酒酔い運転が以前のレベルに戻ってしまうことが明らかになった。一当局者は,現在の取締りのレベルは「我々の達成できるぎりぎりの線に極めて近い」と考えており,「我々は酒酔い運転をする人々300人につき一人しか逮捕していないことについて言っているのである」と述べている。『問題を真に解決するためには,酒酔い運転に対する国民の態度を変えなければならない』という点で権威者たちの意見は一致を見ているが,それには幾年も,恐らく幾世代もかかるかもしれない,と彼らは述べている。
虫を救え
● ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると,「国際自然保護連合(IUCN)」は「IUCN無脊椎動物資料一覧表」という出版物の中で,絶滅寸前で保護すべき動物として,甲虫の類,カタツムリ,クモ,ミミズなど,247種を明示している。しかし,どうしてそのような動物が挙げられているのだろうか。大部分の人々はそうした動物を単なる害虫と考えるが,「それらの虫が数多くの点で人間に益を及ぼしていることはほとんど考慮されていない」とその出版物は述べている。例えば,それらの虫は植物の受粉を助け,土壌を肥沃にし,水をきれいにし,栄養物を再生利用し,食物連鎖の重要な鎖となっている。IUCNの科学者たちは,幾百万という種の無脊椎動物に見られる「遺伝的な多様性」は人間がまだ開拓を始めてさえいない情報源である,と述べ,「発見されないまま失われてしまう,ガンや他の病気の治療法はどれほどの数に上るだろうか」と問いかけている。今世紀の終わりまでに,それらの動物の絶滅が広範に及び,100万種に上るものと見られるが,そのために,「人間自身の存在の基盤となっている自然界の平衡に潜在的な悪影響」を与えつつある。
悪い薬
● 「我が国には薬漬けになっている人が驚くほど大勢いる」と,米国のボストン大学のハーシェル・ジックは述べている。サイエンス・ニューズ紙の報道によると,約7,500万人の成人の外来患者が週に1度1種類以上の薬を服用しており,「人院患者は入院中に9ないし10種類の薬を受け取っている」。どんな結果が生じているだろうか。入院した30人に一人は,ある薬に対する悪い反応が出たために入院し,入院患者全体の約30%は,入院期間中に少なくとも一度そのような反応を経験している,とその報告は述べている。
日本人の離婚
● 日本における結婚の件数は昨年1万人に付き65件という空前の低い数字に下がったが,離婚率は歴代第2位に相当する1万人に付き15件にまで上昇した。これ以前の最高数は15.3件で,明治時代の社会制度の影響下にあった1899年のことだった。英文毎日によると,離婚の第一原因は,「性格の不一致」である。男性が挙げる他の理由としては,「妻が舅や姑と同居することを拒むこと,妻の浮気,妻が舅や姑,また親族と親しくならないこと」があり,女性が挙げる理由としては,「残虐行為,夫の浮気,夫が生活費を渡さないこと」などがある。日本では,離婚の約半数は裁判にかけられず,離婚に際して金銭が支払われることもない。
ブラジル人の護身
● 「護身用の宝石」。これは,ブラジルの一流の宝石店が昨年の12月,ダイヤモンドをちりばめた女性用のピストルを宣伝するに当たって用いたうたい文句である。他の広告では,65㌦(約1万5,600円)ないし135㌦(約3万2,400円)のピストルに,「これがあればもう安心」という約束が付されている。国家保安局によると,サンパウロ市では1983年の最初の9か月間で4万丁のピストルが合法的に販売され,不法な銃が7,000丁押収された,とニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。錠前,警報器,番犬の売行きが伸びていること,ガードマンの雇用が増加していること,銃の売買が活況を呈していることなどはみな,ブラジル人の心に犯罪と暴力の波に対する恐怖心が植え込まれたために生じた結果である。ギャラップ調査により,サンパウロでは10人のうち4人が少なくとも一度は被害に遭っていることが判明している。当局者は犯罪の波の激化を,「人々の経済状況,仕事の不足,全般に,生き延びることの難しさ」によるものとしている。
高くつく弾丸
● 大多数の人は,政府が核爆弾や他の現代的な戦争兵器に巨額のお金をつぎ込んでいるのを聞いて不安を覚える。しかし,M-16ライフル銃用のごく普通の弾丸を米国の兵士に供与するための経費についてはどうだろうか。ニューヨークのデーリー・ニューズ紙のコラムニストであるアンディー・ルーニーは,国防省が1983年にM-16用の弾薬6億1,370万発を購入し,1984年分として新たに7億5,00万発を注文したと伝えている。「このことを銘記されたい。戦争をしているのではないのに,だれを殺すためにでもなく,1発50㌣として,我々は弾丸のためだけに6億5,000万㌦(約1,560億円)も使っているのである」とルーニーは書いている。
驚嘆に値する脳
● 1,000億もの神経細胞つまりノイロンを持つ人間の脳は,10秒間に1,000万ビットもの情報を処理できる,とブレーシャ大学薬理学研究所の所長マルコ・トラブッキ教授が,ミラノで開かれた会議の席で述べた。(ちなみに,スペースシャトル・コロンビア号に搭載された5台のコンピューターを合わせても,1秒に32万5,000回の演算しかできない。)同じく驚嘆に値するのは,その10秒間に,1,000万ビットの情報がすべて集められ,体の様々な器官を通して脳に伝えられなければならないという事実である。同教授の挙げた数字によれば,400万ビット以上が目から,500万ビットが皮膚から,30万ビットが耳から入り,残りは嗅覚と味覚を通して伝えられる。