若い人は尋ねる…
両親の離婚でわたしの人生は台なしになるだろうか
経済的に恵まれていない,元気がない,非行に走りやすい,結婚に失敗しがちであるなど,一部の専門家が描く,離婚した親の子供たちのイメージはこのように暗いものです。それで,もしあなたの両親が現在離婚していたり,別居していたりすれば,あなたが自分の将来に不安を抱くとしても,それは無理のないことです。
実際に,あなたには自分の生活が両親の離婚ですでに台なしになりかけているように思えるかもしれません。デニーという名の青年は,「両親の離婚後惨めな気持ちになり,元気をなくしました。学校でも問題を抱えるようになり,1年留年するはめになったため,『もうどうでもいい』という気持ちになりました。そのときから僕はクラスの道化者になり,けんかもよくしました」と語りました。若い人の中には,両親の離婚に対する反応としてアルコールや麻薬やセックスなどに心を向ける人,あるいは衝動的な決定をして悲劇を招く人もいます。
それにしても,離婚が多くの若い人の生活を破壊するのはなぜでしょうか。そしてあなたが自分の生活を破壊されないようにするには,どうすればよいでしょうか。
感情的な苦しみの影響
両親が離婚すると,以前なら夢にも考えなかったような非行に走って,欲求不満や怒りをぶちまける若者もいます。ある若者たちの場合,そのように荒れるのは,離婚した両親に“罰を加える”一つのゆがんだ方法です。別の場合にはそれは,急に子供に関心を失った両親の注意を引こうとする,悲しい叫びなのです。「母はいつも家にいませんでした」と,15歳のティナは嘆きます。「懲らしめを受けることもなければ,何の規則もなく,あるのはがらんとした家だけでした。そういうことから麻薬やセックスに関係するようになりました」。
しかし,離婚すると親が子供を懲らしめなくなるのはなぜでしょうか。それは多くの場合,親も感情的に大きな苦しみを抱えているからです。離婚したある女性はこのように告白しました。「子供のことを構わなかったのは確かです。離婚した後,わたし自身取り乱していて,子供の世話にまで気が回りませんでした」。
責任を果たす必要がある
ショッキングな振る舞いをすれば親は我に返るかもしれません。しかしそれによって本当に何かが成し遂げられるでしょうか。すでにストレスの多い状態にさらにストレスが加わるだけのことではありませんか。悪いことを行なえば“罰を受ける”のは悪行者自身です。19歳のある青年はそのことを認めました。両親の離婚後麻薬に手を出し,不道徳な行ないに巻き込まれ,盗みを働きました。「そういう間違いをして今苦しんでいます」とその人は言いました。―ガラテア 6:7と比較してください。
聖書のヘブライ 12章13節には,「あなた方の足のためにいつもまっすぐな道を作って,なえたところが脱臼したりすることがないように……しなさい」という,当を得た助言があります。親の懲らしめがない時でも,非行に走ってよい理由はありません。義にかなった原則を教えられてきたのであればなおのことです。「正しいことをどのように行なうかを知っていながら行なわないなら,それはその人にとって罪なのです」。(ヤコブ 4:17)自分の行動に責任を持ち,自己訓練をしてください。(コリント第一 9:27)一生後悔することになるような行動を避けてください。
性急な決定
両親の離婚後,若い人が自分の将来を台なしにしかねないもう一つの点は,性急に物事を決定するという点です。親のしっかりした指導がないため,将来の自活の方法も考えずに,学校をやめてしまう若者が少なくありません。かと思うと,不幸な家庭生活から逃げ出したくてチャンスと見ればすぐに飛びつく子供もいます。リンという名の若い女性は,以前のことを思い出してこう語りました。「片親がいなかったので,自分が良くない過去を持つ者,何か悪事を働いた者でもあるかのように感じていました。『わたしのような者と結婚したいと思う人がいるかしら』と考えました。それで良い家庭で育った男性から結婚を申し込まれたとき,双方とも結婚生活を始める用意などなかったのに,その人と結婚しました」。しかし悲しいことに,そのあとすぐに離婚しました。
ひどく混乱していて,まともな考え方ができないときに,重大な決定を下すべきでないことは,常識で分かるはずです。「明敏な者は自分の歩みを考慮する」とあります。(箴言 14:15)もし親の気持ちが別のことで乱れていて,今の時点では聞いてもらえそうになければ,年長の友達に自分が考えている事柄を聞いてもらうのはどうでしょうか。
暮らしについての心配
家にはもう(多くの場合)父親がいないので,あなたの将来を脅かすように思える,さらに別の問題が生じるかもしれません。以前は当たりまえのように考えていた食物,衣服,住まい,お金などについて,生まれて初めて心配するようになるかもしれません。
では,飢える恐れがあるでしょうか。そんなことはまずありません。大抵の場合に親は,離婚後も子供たちを扶養するための何らかの手段を設けるものです。それは母親が一般の職業に就かねばならないことを意味するかもしれません。ところが不幸にして,親はそのことについての説明を全くしないことが多いのです。ですからあなたは親に対して,実の息子または娘として,自分が心配していることを伝える必要があります。(箴言 4:3)子供の世話についてはどんな取り決めがなされたのか,冷静な態度で尋ねてみることです。あまりにも心が動転していて,その問題が話し合えないようであれば,思いやりを示しましょう。(ペテロ第一 3:8)適当な時を待って,また尋ねてみます。―箴言 15:23。
それでも,「離婚の苦しみを乗り越えて」という本は,「かつては一つの家族を養っていたもので,今度は二家族を養わねばならないから,裕福度に関係なく,家族全員の生活水準はどうしても下がることになる」と,現実に即した警告を与えています。したがって,服を新調するといった,以前楽しんでいた事柄をしないですませることに慣れる必要があるかもしれません。しかし聖書は,「わたしたちは世に何かを携えて来たわけではなく,また何かを運び出すこともできないからです。ですから,命を支える物と身を覆う物とがあれば,わたしたちはそれで満足するのです」と述べています。(テモテ第一 6:7,8)もしかしたら,少なくなった生活費で家族がうまくやってゆけるよう助けることさえできるかもしれません。エホバは「父なし子の父」であられることも忘れないようにしましょう。(詩編 68:5)あなたが必要とする事柄にエホバの深いご配慮があることを確信してください。
自分自身の結婚生活に対する影響
両親が結婚に失敗すると,将来自分の結婚がうまくいくかどうか心配になるかもしれませんが,それは無理のないことです。しかし幸いにして,不幸な結婚は,そばかすのように親から遺伝するものではありません。あなたは別個の人です。将来の結婚生活がどうなるかは,親が結婚に失敗したかどうかによって決まるのではなく,あなたとあなたの配偶者が神の言葉にどの程度従うかにかかっています。無私の愛を基盤として結婚生活を築くようにすれば,不幸な家庭で育ったことなど,将来いつか安定した結婚生活を楽しむ妨げにはなりません。その種の「愛は決して絶えません」。―コリント第一 13:8。
例えば,アネットはアルコール中毒の父親に育てられました。その父親というのは,何度も家族を見捨てて出て行った人でした。「そのため,自分の心が多少不安定である」ことを,アネットは認めています。「今でも,もし主人が,戻って来るとはっきり言わずに用事で出かけたりすると,とても嫌な気持ちになります」。それでもアネットはこう言います。「結婚したら,平和な結婚生活を送るようにしよう,そしてこの人となら幸福になれると確信できる人と結婚しようと考えました。今は幸せです。両親が離婚したことなど遠い過去のことのように思えます」。
悪条件を逆に利用する
エレミヤは,「強健な者にとって若い時にくびきを負うのは良いことである」と見ました。(哀歌 3:27)もちろん,両親が離婚するのを見ているのは少しも「良い」ことではありません。しかし,マイナスと思えるこのような経験でさえ,逆に利用することは可能です。
例えば,家事を行なう責任はいやおうなしに増えるかもしれませんが,これは大人になって物を言ういろいろな技術を身に着けるのに役立ちます。研究者のジュディス・ウォーラースタインはさらにこう述べています。「[離婚した親の子供たちの]感情と知性は,家族の危機に刺激されて目覚ましい成長を遂げており胸を打たれたこともある。その若者たちは……親の経験をまじめに考慮し,自分自身の将来に関し,考え深い結論に達した。そして両親が陥った誤りを避ける道を見いだすことに関心を抱いていた」。
ポールという青年はそれが事実であることを経験しました。幼い時に両親が別れたので,ポールは反目し合う二親の間を行ったり来たりしていましたが,そのような境遇に耐えたことから幾つかの益を得ました。「両親が犯した間違いを繰り返すようなことは絶対にすまいと決意しています」と,ポールは言います。不安定な状況を我慢して受け入れることを学んだため,「状況に適応することには苦労をしない」と語りました。キースという青年は2度も親の離婚を経験しましたが,やはりそれを乗り越え,影響を受けませんでした。「不安に感じることが幾らかある」ことは認めます。「しかしそれはだれにでもあるものだと思います。でも自分は,両親と同じような結末を迎えるつもりはありません。もう少し頭を使うつもりです」。
両親の離婚があなたの人生に必ず跡を残すことは疑えません。それでも,その跡が次第に薄れていくか,あるいは大きく口を開いたままの傷になるかは,大部分あなた自身にかかっているのです。
[15ページの図版]
両親が離婚したならば,子供の将来の幸せにどう影響するだろうか