ジャンプが得意な昆虫の世界の音楽家
わたしたちは確かに食欲のおう盛な生き物です。この食欲のために,農家の人たちを怒らせることがあるので,作物を全滅させる害虫と農家の人たちからみなされています。それでも,わたしたちバッタには興味深い特徴が幾つかあります。ジャンプの仕方,空中の飛び方,登り方,“音楽”のかなで方などです。
例えば,わたしたちには目が五つあることをご存じでしたか。人間の中には遠近両用のめがねをかけなければならない人が少なくないようですが,わたしたちにはその代わり,近くを見るための小さな目が頭の前よりに三つあります。あと二つの目は大きく,頭の少し後ろよりについているので,四方の様子がよく見えるようになっています。このため,わたしたちはいつもあなたの一歩先を行くことができるのです。そういう性能を持つ目があるといいと思いませんか。
ではジャンプの腕前はどれほどのものでしょうか。わたしたちは体長の10倍の距離をジャンプし,約90㌢先に着地できます。人間がこれをするとなれば,6階建てのビルの高さまでジャンプしなければならないでしょう。その秘けつは後肢の非常に強力な筋肉にあります。この筋肉からそのような妙技に必要な蹴る力が生まれるのです。
わたしたちはあなたが通っている道から飛びのいた後も,仲間ならだれもが持っている二組の羽を使って逃げるので,ますます捕まりにくくなります。硬い前翅は飛行機の翼と同じ働きをします。一方,薄い後翅は特別な推進力を出すために使います。このように,わたしたちはジャンプする技と飛ぶ技を駆使して,あなたが追いかけるのをあきらめるほど遠くまで飛んでゆけるのです。
滑りやすい棒を登るのは難しいと思いますか。わたしたちはそう思いません。実際,わたしたちはつるつるした草の葉を滑らずに駆け登ることができます。創造者が設計してくださった6本の脚のおかげです。それぞれの脚の小さな付着盤には,ねばねばした液体を出す細かな毛が生えており,物にしっかりつかまることができるようになっています。加えて,それぞれの脚にはスパイクのような強いかぎが二つずつ付いていて,急斜面でも滑り落ちないようになっています。人間が登山用品を発明するずっと前から,わたしたちには登山の装備がありました。
雄は音楽家でもあります。雌のバッタは当然感動し,雄にはすばらしい才能があると考えます。わたしたちはいろいろな音を聞き分けてそれに反応することができます。わたしたちの耳は胸部の両側に付いています。雄は演奏したくなれば,バイオリン奏者が弦を弓でこするのと同じ要領で,盛り上がった翅脈を後肢の鋸歯状隆起で静かにこすります。気持ちの良い夏の日に草原に横になって,無数のバッタやコオロギのオーケストラに聞き入ると,本当に心が安らぎます。やはり夏の音楽はこれに限ります。