世界展望
血の秘密が明かされる
ヘモグロビンについては,60年以上にわたって精密な研究が行なわれ,生物学の分野で恐らく最も研究の進んだタンパク質であろう,と言われている。ヘモグロビンが肺から体内組織まで酸素を運搬し,二酸化炭素と酸化窒素を持ち帰ることは,かなり前から知られていた。しかし医師や科学者たちは最近明るみに出た事柄に驚嘆している。酸化窒素であっても結合の仕方が異なるスーパー酸化窒素なるものを体の各部に運搬するという新たな役割が指摘されたのである。スーパー酸化窒素は実際に,記憶や学習,生殖器の勃起,血圧などの維持をはじめ,健康面でも,細胞と組織の活動を保持する面でも重要な役割を担っている。ヘモグロビンは,体の血管が接する酸化窒素の量を調整することによって,血管を膨張させたり萎縮させたりすることができる。「この発見は,高血圧や低血圧の治療,ならびに人工血液の開発にとって大きな意味を持つであろう」とニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。現在,たいていの代用血液は血圧を上げる傾向がある。その理由は,スーパー酸化窒素に欠けているからかもしれないと,研究者たちは述べている。
児童就労 ― 深刻化する問題
国際労働機関の最近の報告によると,10歳から14歳までの世界の子供たちのうち13%(およそ7,300万人)は,労働を強制されている。この報告は,もし10歳未満の子供たちと,フルタイムの家事を行なう少女たちに関する統計が入手できれば,世界の子供たちの労働人口は幾億人にもなろう,と付け加えている。ジュネーブに本拠地を置くこの機関が,80年ものあいだ児童就労と闘ってきたにもかかわらず,この問題は特にアフリカや中南米で増大しつづけている。これら幾千万もの子供たちは,奴隷労働と危険な労働条件を強いられているが,大きな問題としてあげられているのは売春である。ある国々では,「大人たちは,性的な目的で子供たちを利用することが[HIV]感染を防ぐ最善の方法であるとみている」と,報告には記されている。パリのインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙によると,国際労働機関は「問題を……無視した政府の役人を非難した」。
子供たちの必要を満たす
ユニセフ(国連児童基金)の報告書「世界子供白書 1995」の報告によれば,世界には子供たちの基本的な必要を満たす力がないと考えるのは不合理である。ユニセフはこの点を例証するために次のような数字を挙げている。世界中の必要を賄うためさらに必要な経費は次のように推定できる。十分な栄養と基本的な医療のために年間130億㌦(約1兆4,300億円); 基礎教育のために60億㌦(約6,600億円); 安全な水と公衆衛生のために90億㌦(約9,900億円); 家族計画のために60億㌦(約6,600億円)。これらを合計すると,年間340億㌦(約3兆7,400億円)となる。この報告書は,この数字とすでに毎年費やされている次のような推定額を比べるように勧めている。ゴルフ,400億㌦(約4兆4,000億円); ビールとワイン,2,450億㌦(約26兆9,500億円); たばこ,4,000億㌦(約44兆円); 軍備,8,000億㌦(約88兆円)。確かに,正しい優先順位が確立されれば,世界の子供たちは十分に養えると,この報告書は述べている。
「新アヘン戦争」
タイムズ・オブ・インディア紙は,米国のたばこ会社がアジアに自社の製品を売り付けようと躍起になっている姿をそのように描写した。インドだけでも毎年最低100万人がたばこに関連する病気で死亡するが,インド政府は依然としてたばこ規制法を制定していない。その理由として同紙が挙げているのは,国内外のたばこ会社による激しいロビー活動と,「アメリカ製のたばこの販売を許可しない国々には貿易制裁をも辞さないとする米国連邦法」である。インドの地方部に住む人々の99%は,たばこの使用によって生じる害については無知であると言われる。人々が普通メディアを通して目にするのは,自信にあふれ,魅力的で,頼もしい喫煙者である。クリケットのような大衆スポーツの大試合のスポンサーになるのは,たばこ会社である。たばこは,四つのたばこ会社に投資している政府にとって,重要な収入源でもある。
地獄の火の教義を否定
英国国教会は,地獄が火と永遠の責め苦の場所であるという伝統的な見方を退ける報告書を提出した。同教会の教理委員会によるその報告書は,「クリスチャンは恐ろしい神学を信奉して神を残酷好きな化け物とし,多くの人の心に痛々しい傷跡を残した」と述べ,こう付け加えた。「この変更には様々な理由があるが,例えば,恐怖の宗教に対するキリスト教内外からの道義的反発がある。また,膨大な数の人々を永遠の責め苦に引き渡す神のイメージは,キリストにおいて啓示された神の愛と余りにもかけ離れているという感じ方が強まっている」。それでも彼らは,人は各々やはり審判の日に直面し,試みを首尾よく通過しない者は絶滅,つまり無存在の状態にほうり込まれると主張する。ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙はこう述べている。「この報告は,あらゆる宗教のあらゆる人が自動的に救われる可能性は皆無であることを明らかにした」。
類人猿のヒロイン
3歳の男の子が,シカゴ郊外のブルックフィールド動物園で公開されていた7頭のアフリカのゴリラのいるおりの中に落ち,1匹の雌ゴリラに救助された。この男の子は母親の手を振り切り,高さ約1.2㍍の手すりを上って越え,約6㍍下の公開広場のコンクリートの床に転落して頭にけがをした。スワヒリ語で“日光の娘”を意味するビンティ・ジュアという名の8歳のゴリラは,けがをした子供にのそのそと近づき,その子をやさしく持ち上げた。自分の赤ちゃんが背中にしがみついているのにビンティは,そのぐったりした体を腕に抱き抱え,公開広場の職員出入口まで運び,飼育係が取り戻せるように注意深く地面に置いた。ビンティは母親に見捨てられた経験があり,自分の子供が産まれる前に「子育ての方法を飼育係から教わった。飼育係は人形をあてがって守らせ,面倒を見させた」と,ニューヨーク・デーリー・ニューズ紙は伝えている。この出来事以来,何千もの人たちがビンティを見に来るようになり,ビンティにはご褒美の果物が与えられた。打撲傷と擦り傷を負った少年は回復した。
ご自由にお選びください
「あなたの今年の滑り出しは不調でしたか」。ニュー・サイエンティスト誌の一記事はそう問いかけ,こう述べた。「心配はご無用。世界の少なくとも14箇所では,これから新年を迎えるので,そのうちのどれでも自由に選べます」。実際,1月1日を元日とするのはグレゴリオ暦を採用した国だけである。暦年が1月1日に始まることを西暦前46年に決定したのはユリウス・カエサルであり,この方式は教皇グレゴリウスが1582年に暦を改定した時にも保持された。様々な文化が独自の暦法を作り出し,少なくとも26の異なった元日が定められた。今日残っている中では,中国の方式が最古である。中国では今年,2月7日に新年が始まる。ユダヤ人の元日は10月2日である。純然たる太陰暦を採用しているイスラム暦にも独自の元日があり,5月8日がそれに当たる。
喫煙が乳児突然死と関連
赤ちゃんと妊婦をたばこの煙にさらすようなことは一切してはならない,と英国の研究者たちは述べている。ブリストルの王立子供病院による2年越しの研究は,イギリスの三つの地方で起こった乳児突然死症候群(SIDS)の各事例を調査したものであるが,亡くなった195人の赤ちゃんの親と,生き延びた780人の赤ちゃんの親にアンケート調査をした結果,亡くなった赤ちゃんの母親の62%が喫煙していたのに対し,生き延びた赤ちゃんの親で喫煙していたのは25%に過ぎなかった。「最近の研究は,喫煙する父親も問題であることを明らかにしている」と,乳児死研究財団のジョイス・エプスタインは述べている。「もし赤ちゃんを取り囲む環境から喫煙をすべて取り除くことができれば,乳児突然死は61%減少すると推定されている」。
「中国の高齢者人口」
「中国の高齢者人口は着実に増加している」と,チャイナ・トゥデー誌は伝えている。「1994年末の時点で中国には60歳を超えるお年寄りが1億1,697万人いたが,この数は1990年の14.16%増に当たる」。60歳を超えるお年寄りは今では国の人口の約10%を占めており,高齢者人口の増加の割合は全人口の増加の割合の約3倍である。彼らはどのように養われているのだろうか。多くのお年寄りは,労働収入や年金,社会保険,福祉金で必要を賄うが,中国のお年寄りの57%余りは子供たちや他の親族によって扶養されている。「中国の家族関係は比較的安定しており,老人を敬い世話する良い伝統があるために,ほとんどのお年寄りは親戚と同居し,とてもよく世話されている」と,チャイナ・トゥデー誌は述べている。「中国では,一人暮らしの老人は7%に過ぎない」。