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空気に乗って走るホーバー・クラフト目ざめよ! 1974 | 3月22日
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ましたか。では,わたしたちといっしょにホーバー・クラフトにお乗りになってはいかがですか。親切なスチュワーデスが,わたしたちを席に案内したり,救命胴衣の付け方を説明したり,手荷物をしまう場所やしまい方を示したりなどいろいろと世話をしてくれます。さあ,出発の時間が来ました。
ホーバー・クラフトは,エンジンを始動するとすぐに動きだします。機体が空気クッションによって上昇するさいに,かすかな力を感じます。ホーバー・クラフトはもう地面と接触していません。目的地に着くまで浮いたままです。機体は前に進んでいるのですが非常にスムーズに動いているため,横に見える海面に勢いよく沸き上がる白あわだけが,すでに陸から海に出たのだなと感じさせます。
今日は海が穏やかなので,ホーバー・クラフトはペグウェル湾からフランスのカレーに向かう直線コースを取ります。このコースを通ると,途中で,ドーバー海峡に添って南北に横たわっているグッドウィン・サンズ(細長い浅瀬地帯)を横切ります。この海域の,特に浅瀬が水面ぎりぎりのところまで隆起している部分は,普通の船舶にとってきわめて危険ですが,水陸両用のこのエアクラフト艇にとってはなんの問題もありません。天気が悪い時には,ホーバー・クラフトはコースを少し変えて,あまり海の荒れていない沿岸水域をできるだけ進み,海峡を横切るさいには最端距離を行くようにします。
ドーバー海峡を横断するのに40分かかりますから,いろいろと考えをめぐらす時間があります。エンジンが故障したらどうなるのでしょうか。ホーバー・クラフトは沈んでしまいますか。世界で最も混雑しているこの常用航路で,高速のホーバー・クラフトは他の船舶と衝突することはないでしょうか。機内で渡された説明書を読むとすぐに安心します。ほとんどは考えられないことですが,全部のエンジンが同時に故障したような場合には,備え付けの浮力タンクによって機体は浮くように設計されています。エンジンが1基でも作動していれば,スピードは落ちますが,それでも岸に向かうことができます。しかし,ホーバー・クラフトの航路を横切る他の船についてはどうでしょうか。2台の海域レーダーを操作する副操縦士が,ホーバー・クラフトの位置を機長に絶えず知らせています。このレーダーには濃霧の時でも,近くの海域にいるすべての船の位置が映し出されます。
フランスのカレーの海岸に着くと,ホーバー・クラフトは海から上がり,着陸台の上にすべるように降ります。なんの衝撃もありませんし,かん高いブレーキの音もしません。ただ,空気クッションがなくなる時に,気持ちの良いひじ掛けいすの中に満足の吐息をはいて深く身をおろしているような感じを覚えるだけです。
世界で最新の交通機関による旅はこれで終わりました。わたしたちは陸と海の上を空気クッションに乗って渡ったのです。
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すきまだらけの物質目ざめよ! 1974 | 3月22日
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すきまだらけの物質
● わたしたちが日ごろ見慣れているたいていの物品は,実際はなにもない空間です。レンガ,木材,ガラスなど,日常目にする物品を構成している原子や分子は,たとえそれらの物品自体がどんなにじょうぶで堅いように見えたとしても,その大部分はなにもない空間です。
原子は,原子核と呼ばれる密度の非常に高い中心の核と,原子核の回りを取り巻く電子の雲から成っています。対象となる原子の型にもよりますが,電子雲の半径は原子核のそれの約1万倍もあります。原子核をピンポン玉ほどの大きさと仮定すると,原子核を取り巻く電子雲の直径は320㍍以上になります。そして,その間には何もありません。
原子核は,大きさからすると原子のごく一部を占めているにすぎないものの,質量の面ではかなりの割合を占めています。物品を構成するなにもない空間の大半が電子雲によるという事実は,そうした物品を軽くするものとなっています。もし,コップの中に,電子雲を取り除いた原子核だけをぎっちり詰めるとすると,そのコップの重さは500億㌧にもなります。
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