新しい家族の一員を迎える準備はととのっていますか
まったくきつい一日でした。なにもかもうまくいかなかったようでした。重役たちは売り上げが少ないのでごきげん斜めでした。お客は注文した品物が時間通りに届かないと言って不平を言いました。オフィスは一日中重苦しい空気につつまれていました。私は憂うつな気持ちで車を運転しながら家に帰りました。
玄関に通じる門をあけると,二歳になる娘が興奮した調子で何かしゃべりながら私を迎えに小道を走ってきました。その声に私は突然われにかえりました。娘が何を言っていたのかは分かりません。それはたいせつなことではありませんでした。しかし私はとたんに,憂うつなオフィスの世界からこの小さな娘の世界に移されました。家に帰ると全くほっとします。確かに子どもたちは,人にわずらい事を忘れさせる方法をこころえています。
私たち夫婦は30代の半ばですが,娘が生まれてからの2年間は,ほんとうによい勉強になったとふたりとも考えています。疲れはてたこともあれば,ざせつ感さえ感じたこともありました。時には“食べてしまいたい”ほどかわいく思い,また時には“食べてしまっておけばよかった”と思ったこともありました。しかし全体的に見れば,私たちは娘がそばにいるのを楽しんでいます。
あなたのお宅も,もうすぐ家族がふえますか。新参者を迎える準備はととのいましたか。もう6人子どもがいますって? 結構なことです。ではその経験から,次の説明に多くのことをつけ加えることがおできになるでしょう。
9か月の準備期間
妊娠,懐胎そして出産は,実に驚くべきことです。母親の胎内でこの9か月間に何が起きているかを,人間が十分に説明することは永久に不可能かもしれません。考えてごらんなさい。母親が妊娠したとき,あなたの生活に大きな影響を及ぼすことになるこの生物は,“i”の字の上にある点よりも小さいのです。3週間後にはそれは“t”の字ほどの大きさになります。
5か月で胎児の頭から足までの長さは,この雑誌のページの幅と同じほどの長さに伸びるでしょう。さらに4か月たつと,3㌔から4㌔になった赤ちゃんは,母親の胸をわくわくさせるような叫び声をあげます。それは,「ぼくはここにいますよ。ぼくのために用意はできましたか」と言っているのと同じです。実際にこの9か月は,母親が新しい友を迎えるために,思いや感情やからだの準備をするのにちょうどよい期間です。
お母さん,忘れないでください。あなたのからだの中で起きていることは非常にすばらしい,そして自然の過程なのです。からだの変化を心配しすぎないようにしてください。しかし,1個の卵子の受精から新生児の出産までのすばらしい発育過程を少し知っておくのはよいことです。図書館へ行って調べたり,近くの書店で本を求めて読めばその知識は得られるでしょう。その知識があればいろいろな事を正しく判断する力が生まれ,また新しい家族を迎える準備をととのえることができます。
どんな名前をつけますか。子どもは長い間その名で知られることになるのですから,慎重な考慮が必要です。ある親は聖書から名前を選びます。家族と関係のある名前をつける親もあります。親自身にとって特別に意味のある名前を思いつくこともあるでしょう。たいへん独創的な名前を考え出す親もいます。しかし,子どもが大きくなるにつれて,きまりの悪い思いや恥ずかしい思いをするような名前はいけません。マヘル・シャラル・ハシ・バズという名前は,聖書時代のイスラエル人にはよかったかもしれませんが,今日では,おそらくどこに行っても問題になるでしょう。―イザヤ 8:1。
信頼のおける医師を選ぶことも必要です。クリスチャンの場合は,特定の医療を拒否することのある,聖書によって訓練された良心を尊重してくれる医師を選ぶことがたいせつです。時々,Rh因子が不安の原因になることかありますから,妊娠の初期に,自分の場合それが問題になるかどうかを調べておくのは賢明です。しかし,最初の子どもがこのRh合併症を起こすことはまれです。
それからうぶ着やおむつを買う問題があります。おむつは十分の数が必要です。また,家でお産をしますか,それとも病院でしますか。父親の場合ならば,出産の時に妻のそばにつき添っていますか。こうしたことは,この9か月間に自分の胸の中でよく考え,検討しておきたい事柄の一部です。
母乳で育てますか? ワクチン注射は?
早めに決める必要のあるのは,母乳で育てるか,それとも牛乳で育てるかということです。牛乳で育てれば手間がはぶけるのは事実です。しかし,たとえ牛乳が子どものからだの必要に合うように手を加えてあっても,重要な感情面の必要があります。これは母親が自分の乳を子どもに与える時に満たされます。
また,どんな人工栄養も,母乳が赤ちゃんに与えるようになっている栄養と保護にはかないません。母乳は,赤ちゃんにとって非常に重要な食物である,産後2,3日の間出る初乳から,赤ちゃんの必要に応じてしだいに濃くなっていきます。母乳は温度が一定しており,細菌に犯されず,消化が容易です。また各種のビタミンも含んでおり,病気に感染しないよう保護する証拠もみられます。
母乳で育てる場合,最初は緊張や心配で少し困難を感じるかもしれませんが,心配はいりません。忍耐しているとたいてい満足のいく結果が生まれます。乳の分泌が本格的になるまでには数週間かかるでしょう。
次には予防接種の問題があります。医学は,子どもの保護として推薦するワクチンと接種の数を絶えずふやしていっているようです。もし接種するとすれば,どのワクチンにするかはあなた自身の決定することです。当誌や他の雑誌にも,この問題についてよい記事が載ったことがあります。少し研究してみるなら,どうすればいちばんよいか,判断しやすくなるでしょう。
早くから子どもをしつける
初めての子どもが生まれた時,自分の生活が自分の生活でなくなっても驚かないでください。赤ちゃんには特別に必要なことが種々あるので,あなたの家庭生活はおおかた,赤ちゃんの望みや要求によって支配されるでしょう。しかし,しっかりした,しかも親切な態度で徐々に子どもをしつけ,自分はすでにできあがっている家族の一員になったのだということを子どもに気づかせてゆくなら,また均衡を取りもどすことができます。
時に子どもの小さなからだのよくこたえる部分を平手でたたいてでも,従うことの必要を理解するように,早くから子どもを助けましょう。服従は,あらゆる種類の危険に対する真の保護となります。子どもにとっては全世界がもの珍らしく,すばらしい探険の対象です。しかしその探険には危険が伴います。服従は子どもの保護になります。
子どもは非常に早くから,1歳から2歳までの間に,一定の時間静かにすわっているよう学ぶことができます。もしあなたの家族がほかの人たちといっしょにグループで聖書研究を楽しんでいる家族であれば,このことはあなたにとってたいへん重要になってきます。子どもたちはママやパパと同じ本を持つのが好きです。破きやすい最初のうちは,中に適当な絵を張りつけた小さな厚紙の本でたいてい間に合います。
子どもがじっとしていなくなったら,外を少し歩いて新鮮な空気を吸わせるとよいかもしれません。それでも行儀が悪ければ,次の“散歩”はそうおもしろいものではないでしょう。そのようにしていればやがて,外へ出ましょうと言うだけで外へ出た時の経験を思い出し,すぐに反応を示すようになる時がきます。また,ほめることも,すべての分野でのしつけで非常にたいせつであることを忘れないようにしましょう。静かにすわっている時にはほめましょう。そうすれば子どもは心の中で幸福感を味わうでしょう。
数を数えること,リズムをおぼえること,読むことなどを教えるのもしつけの一部です。知能はエホバ神からのすばらしい贈物です。この時期の知能の発達程度は多くの場合,後日それをどこまで使うかを決定します。
このほかにも家庭でしつけなければならないことがたくさんあります。おもちゃをしまうこと,汚れた服を置くべき場所へ置くこと,ひとりで服を着たり脱いだりすることなどは,3歳までにしつけられます。こうしたことを子ども自身にさせると時間は長くかかりますが,それを教えるのに費やす時間はひとつの投資です。その益はあとでわかるでしょう。
幼い子どもたちが,だれに言われなくてもおもちゃを片づけたり,自分のへやを整とんしたり,言いつけられた仕事をしたりするのを見るのはほんとうにうれしいものです。また,「どうぞ,パパ」と前置きしてものを頼んだり,「ありがとう,ママ」と言ったりするのを聞くのも楽しいものです。なかでもいちばんうれしいのは,子どもたちが神に感謝の心をいだいて成長していくのを見ることです。食卓について,食前の感謝をささげる前に,幼い子どもが,「パパ,おめめを閉じて」という日がくるかもしれません。その時あなたは,子どもが神に感謝をささげる自分を見習っているのを,どんなにうれしく思うことでしょう。子どもの思いと心の中に,創造者との正しい関係を築かせることは,どんなに早くからはじめても早すぎることはありません。
むろん,子どもの形をした“小さな天使”なんてものはないことをおぼえておくのはよいことです。落胆することがあることも覚悟してください。時にはしつけがなんの効果もないように思えて,ざせつ感に落ち入り,憂うつな気持ちになる時もあるでしょう。そして,「自分のしつけ方はまちがっているのではないか」と考えている自分にしばしば気づくでしょう。しかしあきらめないでください。
子どもの気分はよく変わります。そしていろいろな段階を通ります。子どものさまざまな気質を扱う定則はありません。しかし,愛で育ち,懲らしめですなおになり,親切を喜び,忍耐に感謝するということは言えます。子どもがあなたほどの年齢になった時には,あなたから与えられた訓練に感謝するでしょう。
喜びと満足
赤ちゃんのうぶ声を聞く時,あなたの,つまり母親の心には言いようのない喜びがこみ上げてくるでしょう。赤ちゃんが初めて笑うとき,頭をもちあげて何かを見ようとする時,のどを鳴らしたり,自分の足をかもうとしたり,頭をぴくぴく動かしながら室内で母親のあとを追って歩き回るときなども,母親が喜びを感じるときです。事実,子どものことで驚かない日,子どもの発育のことを話し合わないですごす日は一日もないことにあなたは気づくでしょう。ある日赤ちゃんは,あなたが子ども用ベッドをのぞきこむとき,にっこりと明るい笑顔を見せるでしょう。そしてあなたはそれが確かにあなたを,父親を認めた笑顔であることを知るでしょう。
子どもの知能と肉体が発達していくのを見る時,両親は大きな満足をおぼえます。ある日あなたが食事をしているとき,そしてそばにある本などを読んでいるとき,ふと,あなたのそばにすわっている小さなまね師が,あなたがフォークを上げるのに合わせて自分もフォークを上げているのに気づくかもしれません。またそのまね師が,あなたの手や腕の位置をよく見てそのとおりに自分の手と腕を置き,本を読んでいるふうをよそおっているのに気づくでしょう。自分の子どもに自分自身の姿を見ることがしばしばあるにちがいありません。
あなたが,カエルのように飛び回ったり,子ネコのまねをしたり,ベッドの下にはい込んでかくれたりしたのはいつでしたか。飛びはねることやさかだちをするのもおもしろいでしょう。牛や馬,近くにいる犬なども興味の対象になります。夕方になると家に帰るのが待ちどおしくなるでしょう。
一方,母親は,一日中子どもといっしょにいるので,時には疲れを感じるかもしれません。しかし,子どもは抱きしめてやりたいようなしぐさをしてくれます。たとえば,髪をといてやっている時,頭を動かさないでじっとしていなさいと言います。すると子どもは,口が開きほほがへこむほど両手を強く顔に押しつけて,『頭を動かさないように』しています。
確かに楽しみにして待てることはたくさんあります。しかし,現代の,犯罪で満ちた世界で子どもを育てることが容易でないのを知っておくのはよいことです。わたしたちは,聖書が予告していた「終わりの日」に住んでいます。それは「対処しにくい危機の時代」です。悪い影響は,近所に,学校に,校庭に,いたるところにありますから,子どもが,他の多くの子どものように,「親に対して不従順な者」にならないようにするには,親はたいへん忙しいことでしょう。―テモテ後 3:1,2,新。
今日,多くの若者が反抗的になり,非行に走って,親に喜びと満足を与えるどころか,親の大きな心痛の種となっているのは悲しい事実です。ですから,幼少から子どもに,神のことば聖書が示す正しい原則を教えるのは非常に重要なことなのです。そうする時にはじめて,子どもに災いがのぞまないように,そしてあなた自身は心痛をまぬかれるように,希望することができます。―テモテ後 3:15。
ずっと昔,聖書記述者は言いました。『見よ子らはエホバのあたえたまうゆずりにして,胎の実はその報いのたまものなり』― 詩 127:3。
私たち夫婦はその報いを経験しました。2番目の子どもがすでに生まれています。そしてこの子のためによりよい準備がととのっていることを希望しています。―寄稿。