世界展望
『紛争に巻き込まれる』
● 過度の人口増加を抑制する方法を見いだす努力の一環として,国際連合国際人口会議が昨年8月,メキシコ・シティーで開催された。しかし,ニューヨーク・タイムズ紙によると,九日間にわたる会議の末,「世界の将来の人口増加に関する計画とは直接にはほとんど関係のない事柄」に余りにも多く時間と注意が振り向けられたと語る代表者たちが少なくなかった。激しい討論を引き起こしたそのような問題の一つは,占領区域に居留地を設けることを非難する勧告であったが,それはヨルダン川西岸地区のイスラエルの居留地のことを指していると考えられる。もう一つは,軍備競争を終わらせ,そのために使われる資力を社会的ならびに経済的向上のために転用するよう要請する提案であった。その報道によると,この会議により,「たとえ政治的には中立な問題を扱う場合でも,世界的な討論会が極めて激しい国際紛争に巻き込まれないようにするのは不可能ではないかという新たな懸念が引き起こされた」。
難民という重荷
● アフリカには推定300万人ないし400万人の難民がいる。「しかし,自然の災害,人災および世界的な経済危機とが相まって,[難民]を助けるアフリカの救援能力は著しく損なわれている」と,ロンドンのザ・タイムズ紙は述べている。その報道は,「過去2年間に,政治上の問題のために新たに大量の難民を生み出すような重大な出来事は生じなかった。しかし[難民]キャンプは残っており,最も貧しい国々に残っている場合もある」と述べている。例えば,貧困にあえぐソマリアでは推定70万人の難民がキャンプで生活しており,ほぼ同数の難民がキャンプの外で生活していると考えられている。しかし,ザ・タイムズ紙は難民の援助が急を要することを指摘する一方,アフリカの状態のより良い「発展を目指す長期的な計画を犠牲にして,緊急援助が不当に強調されている」ということを付け加えている。
インドネシア人の移住
● インドネシア政府がその意欲的な10年計画の目標を1989年までに達成すれば,750万人が同国の特に人口密度の高い島々から人口の余り多くない周辺部の島々へ移住することになる。当局によると,この計画はインドネシアの食糧増産と新しい地域の開発に役立つものとなる。この計画を促進するため,インドネシア政府は移住に応じる家族に最初の一,二年の食糧,家および2.5ないし4㌶の土地を提供することを約束している。残念なことに,移住者の多く,それも特に大都市からの移住者たちは,新しい環境に順応するのに困難を覚えている。「結局,移住が続いているのは,のどから手が出るほど土地が欲しくて,そのためなら開拓の労もいとわないインドネシア人がたくさんいるからである」と,ニュー・サイエンティスト誌は述べている。
“泡立て器”で電力
● 「理論的にいうと,我々の製作した機械のほうがプロペラをつけた風車よりも効率が悪いように思われたが,結果としては我々の機械のほうが効率が良かった」と,米国ニューメキシコ州アルバカーキ市にあるサンディア国立研究所で風力研究の主任を務めるリチャード・ブラーシュ博士は述べている。ブラーシュ博士は高さ25㍍ある,自分の作った風力発電機について語っていた。それは泡立て器をひっくり返したような形をしており,エネルギーを生み出す風車としては最良のものとして登場した。これよりもはるかに大きいプロペラ型の風車装置を開発するために米国政府は幾億ドルもの資金をつぎ込んだが,それとは対照的にこの“泡立て器”計画は1,400万㌦(約33億6,000万円)という安い開発費で済んだ。それにしても,先端技術を使った巨大な風車よりも,小さい機械のほうが優れているのはなぜだろうか。一つには信頼性が挙げられる。また,発電機と制御装置が地上にあるので,修理と維持が簡単である。その上,プロペラの向きを変える複雑な機械も必要ではない。“泡立て器”の羽根は,風がどちらから吹いても回るようになっている。
先端技術を使った漁業
● 「過度の集約漁業と捕獲により,主要な20種類の魚と海洋哺乳動物が危機に瀕している」と,世界漁業会議の事務局長であるジーン・キャロズ氏は警告している。魚群を探知して捕獲する,より精巧な方法のおかげで漁獲量は多くなったものの,今や資源が枯渇している,と同氏は付け加えている。危機に瀕している種には,ペルーのカタクチイワシ,カナダのオヒョウ,太平洋のスズキ,ヨーロッパのサケとチョウザメ,それに北太平洋のヒゲクジラが含まれている。キャロズ氏は,水産資源を保護する最善の方法は漁場に入る船の数を制限することだと考えている。しかし,多くの国は自国の漁業操業については厳重に秘密を守っている。
塩をかけるか,かけないか
● 米国のオレゴン保健科学大学のデービット・マッカロンは最近,高血圧の人は普通の血圧の人よりも日ごろナトリウムの摂取量が少なく,カルシウムの摂取量は著しく少ないことを報告し,医学界で評判になった。その調査結果は,塩分の取り過ぎが高血圧を引き起こすと一般に言われてきた言葉の妥当性に挑戦するものとなった。それ以来,他の研究者たちがその調査結果を確証してきた。マッカロンは,乳製品に含まれているようなカルシウムを十分摂取し,塩分の摂取については心配しないよう高血圧の患者に勧めている。しかし,もっとよく研究したほうがよいと考える人々もいる。マッカロンの提出した資料は「食餌療法の提案をするほどのレベルのものではない」と,その同僚の一人は警告している。
お祈り時計
● エジプト出身の電気技師アフメッド・バハト博士は,イスラム教徒のためにコンピューター化された“お祈り時計”を開発した。ニュー・サイエンティスト誌によると,この時計はイスラム教徒がどこにいようと,いつ,どの方角に向かって祈るべきかを教えてくれる。持ち主が自分のいる位置の緯度と経度 ― あるいは,選定された200の都市のいずれかの正規のコード番号 ― および現地時間や日付を時計のコンピューターに入れると,時計は祈りのための定められた時間にブザーを鳴らしてくれる。また,その時計にはメッカを指すようにセットできる羅針盤もついている。米国のある会社は昨年,この時計を10万個サウジアラビアに売り込むことにしていた。
コマーシャルを“飛ばす”
● コマーシャルを飛ばすと言う場合,それは元々テレビのリモコン装置を使って,コマーシャルを聞かないようにするためチャンネルを変えることを意味していたが,アメリカの家庭の10%がビデオを所有するようになった今,さらに別の意味を持つようになってきた。ニューヨーク・タイムズ紙によると,再生される番組の半分について,「視聴者がお気に入りの“早送り”ボタンを押すと,コマーシャルが飛ばされてしまう」と言われている。これまでは,「起き上がってテレビの所まで行ってチャンネルを変えたりする気力や力のない人は……広告を見ることになるのだが,今ではボタンを押すだけでよいので……コマーシャルとはお別れということになる」とその報道は述べている。広告主は事態を憂慮している。ある大企業は,実在しない視聴者に対してコマーシャルを放送することにより,年間約100万㌦(約2億4,000万円)の損失を被っていると計算している。
“脅威”を制圧する
● 「マラリアは急速に,かつてないほど大きな脅威となりつつある」と,最近のニューズウィーク誌は述べている。しかし,今や米国の科学者の三つの研究チーム ― 一つはニューヨーク大学医学センター,あとの二つはワシントン特別区の国立衛生研究所およびウォルター・リード陸軍研究所にある ― は,いつの日かマラリアのまん延を食い止められるという希望を差し伸べている。それらの科学者は遺伝子工学の新しい技術を使って,マラリア原虫の生育する三段階の一つであるスポロゾイトに対する免疫を生じさせるのに主要な役割を果たす抗原の実体を明らかにし,それを合成することに成功した。これは,科学者が間もなく動物実験用に単一段階マラリア・ワクチンを大量に生産できるようになることを意味している。しかし,たとえそのようなワクチンに効き目があったとしても,人体に対する実験はまだ数年先のことであり,マラリア研究家は,この病気の三段階すべてに対する免疫をもたらすワクチンがやはり必要であるという点で意見の一致をみている。さらに,ウォルター・リード研究所のフランクリン・トップ大佐は,「マラリアを制御するには,ワクチンはもとより,殺虫剤や薬など,我々の持っているあらゆる方策を使わなければならないであろう」と述べている。
疑い深い主教たち
●昨年7月,デービッド・ジェンキンズ博士は,英国国教会の極めて高い地位の一つであるダーラムの主教に叙任されたが,元神学教授の同博士は,聖書の述べる,イエスが復活させられたこと,および処女から生まれたことを信じていない。同博士の見解が昨年4月に初めて公にされた時,不信者がそのような高い地位を占める候補者とされたことで動揺させられた教会員は少なくなかった。ところが,その後,同教会の39人の主教のうち31人を対象にして行なわれた調査は,それら高位の教会指導者たちの多くがジェンキンズ博士と同じように感じていることを明らかにした。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙は,「その調査の中で,15人の主教たちは,新約聖書中の奇跡はイエスの物語に後日書き加えられたものだと述べた」ことを伝えている。
運動中のけが
● 「フットボールが[けがの発生という点で]主要な問題であることはいつの場合にも知られてきたが,ほかの大半のスポーツについてはどうなのか,我々は実際何も知らない」。これは,米国オレゴン州ユージーン市で開かれた1984年度オリンピック科学会議のインタビューの席上,ノース・カロライナ大学のフレデリック・O・ミュラーの語った言葉である。この点を明らかにするため,ミュラーともう一人の同僚は,米国の大学生と高校生の間で,生涯治らない身体障害もしくは事故死をもたらしたけがの発生率に関するデータをまとめた。大学生の間ではその率は,10万人につきアイスホッケーで12.73人,体操で14.27人,ラクロスでは20.25人であった。この数値を,バスケットボールの6.63人およびフットボールの9.33人と比較できる。高校生の場合,最も高い比率だったのは,レスリングの1.96人,フットボールの2.25人,そしてラクロスの4.16人であった。
麻薬と犯罪
● スペインでは,麻薬取締法が変わって,大麻のような“弱い”麻薬の所持が処罰の対象から外されて以来,麻薬に関連した犯罪が急激に増加してきた。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙の伝えるところによれば,「内務省側の数字は……1982年から1983年にかけて薬局を対象にしたピストル強盗が51%増加し,その同じ期間に,銀行強盗を含め,武装強盗が全体で92%増加したことを示した」。当局者の話では,スペインにおける犯罪全体の4分の3は麻薬と関係しているとのことである。ある銀行強盗事件が大きく報道されたのは,ピストルを持った二人の男が人質解放の条件としてヘロインを要求したためであった。昨年の数字も,スペインでは依然として犯罪が増加していることを示していた。
天体についての感謝の言葉
● 光害は全地球的な規模で急速に増大しているが,天文学者でない限り,ほとんどの人は本気で心配しているわけではない。なぜ天文学者は心配しているのだろうか。都市の照明などによる光害により,天体観測が妨げられるからである。しかし,米国では多くの都市が地元の天文学者の要請に応じて,夜間灯火規制を取り入れている。特に注目に値するのは,サンディエゴ市が約100㌔北方にあるパロマ山天文台のために,天体観測を著しく妨げることのない低圧ナトリウム灯を街灯に用いる決定を下したことである。パロマ山の天文学者たちはたいへん喜び,最近発見した小惑星を同市にちなんで命名した。
暴力行為のための保険
● 日本では校内暴力がエスカレートしているため,最近,前橋市の一保険会社は他に例のない新型の保険を売り出した。英文毎日によると,その保険は,「学校当局の監督が行なわれている時間中に,死亡を招くものを含む傷害および所有物の損壊」を引き起こす子供に対して請求される損害賠償の支払いをてん補するものである。加害者の支払いをてん補するための保険が売り出されたのはこれが初めてである。この保険を採用した16校の生徒のほぼ60%がすでにこの保険に加入しているが,批判の声が高まっている。反対派は,この保険を「校内暴力を黙認するもの」と呼び,暴力行為がなお一層取長されはしまいかと恐れている。保険会社には,この企てを中止するよう圧力がかけられている。