人間に奉仕する驚くべき樹皮

あなたはびんからコルクの栓を抜いたことがあるだろうか。コルクがカシの木の樹皮でできているのをご存じだっただろうか。カシの木の樹皮は実に多くの方法で人間に奉仕している。

コルクガシはもっぱら，地中海に近い地方で生育する常緑樹で，その厚い外皮は自然のコルクである。ほとんどの樹木は，コルク細胞を含む樹皮をもっている。しかし，商業的重要性のある十分に厚い細胞層をもつのはカシの木だけである。

カシの木の樹皮は全く驚くべき特性をもっている。その外側の層は，死んだ細胞の密なかたまりで，細胞の薄い壁が厚くなり，ろう質をおびたものである。この樹皮は柔らかく，海綿状であるが，容易には水を吸収せず，空気を全く通さない。強く圧縮することができるが，放置すると，元にもどる。びんに10年はいっていても，取り出すと，その体積の75％を取りもどす。

こういう驚くべき弾力性をもつほかに，コルクはまるで羽根のように軽い。2.5立方センチのコルクは，空気の満ちた小さな細胞を約2億個含む。したがって，コルクの体積の半分以上は空気である。軽くて弾力があるのは当然だ。

コルクガシが樹齢20年に達すると，はじめて外皮をはげるようになる。この最初の皮，つまり処女樹皮は質が劣る。このあと樹皮は8年から10年ごとにはがれる。50ないし60回目くらいまでは質がだんだん良くなっていくが，それ以後はかなり安定してくる。コルクガシは150年くらい皮を生産し，15メートル以上はのびないのが普通である。

皮をはぐときには内皮を傷つけないように気をつけねばならない。もし傷をつけると，傷のついた箇所にはもうコルクは育たない。作業をする者は，長い柄のついた手おので樹皮を長く，長方形に，注意深くはぎ取る。樹皮は若い木の幹からしかはがない。しかし，大きい古い木の場合は，下の方の大きい枝の樹皮をはぐ。

木から離した樹皮は積み重ねて乾燥させ，次にそれを煮沸する。すると，小砂やごみがゆるんで，すりはがせるようになる。また煮沸すると，タンニン酸が溶け，コルクの弾力性と柔軟性が増す。

これでコルクは，切って天然のコルク製品にする用意ができたわけである。製品のなかで特に重要なのはびんの栓だ。上等のブドウ酒や蒸留酒のびんの栓にはコルクが一番だと多くの人が考えている。コルクは何年たってもアルコールにおかされないからである。また空気を通して中身をだめにするということもない。コルクは西暦前400年もの昔から使われていたが，一般に使われるようになったのは16世紀になってからであった。ガラスびんの登場がこれにあずかって力があった。

今世紀にはいるまで，コルク産業は，コルクを切るだけの簡単な仕事であった。びんの栓のほかに，救命具，うき，浮標，ぼうしの内張り，くつ底などが生産された。これらの品物は今も作られているが，砕いたコルクを熱や圧力によってかためる方法の発見は，多種多様な新用途を開いた。

たとえば，コルク板の開発は，低温および常温用のすぐれた断熱材を供給する。その導入によって，冷蔵産業に大変革を起こさせた。コルクは，おがくず，乾草，燃え殻その他の間に合わせの断熱材に取って代った。

しゃ断コルク板は，機械の震動をとめるのに理想的である。音響コルク板は学校，病院，食堂，放送スタジオその他の場所の騒音を少なくする。合成コルク･パッキングは自動車産業では重要な品物である。コルクの粉末を亜麻仁油と混ぜ，キャンバスまたは黄麻布にのりのようにのばすと，人気のある防水性の敷物，リノリュームができる。コルク･タイル，コルク製敷物，コルクれんがなども床や壁をおおうのに広く使われている。

このコルクの需要を満たすために，ポルトガル，スペイン，アルジェリア，モロッコ，フランス，チュニジアなどは，年間8億ポンド（約6,900億円）のコルクを生産する。この驚くべき樹皮が人間に奉仕する道はたしかに多い。