世界展望
「われわれは気が狂ったのだろうか」
◆ 英国の歴史家アーノルド・トインビーは,先ごろ,国家主義を非とし,世界政府を支持する発言をふたたび行なった。そして,次のように語った。「第二次世界大戦の終結以来,国家主義が高まったため,地方的な独立国の数が2倍にふえ,そうした独立国の大きさは平均して半減した。…人類の主要な保健上の問題は世界的な規模のものであり,しかも急を要する問題となっている。そうした問題は地方的な国家の政府では解決できない。その解決を図るには,圧倒的な力を付与された,世界的な権威を有する一つの制度が必要であるが,人類は現在ますます分化していく傾向にある。われわれは気が狂ったのだろうか」。
色あせていく「緑の革命」
◆ 去る1月2日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説は「緑の革命」の実状を次のように述べた。「新たな『奇跡の米』が導入されたため,米は世界的に供給過剰になるであろうと農業専門家が予告してから1年もたたないのに,ここ数週間,アジアおよびアフリカの一部で広範な食料不足が伝えられている。緑の革命,もっともこれは時おり評されたほど緑したたるものとは決してならなかったが,そのすばらしい見込みは色あせているように思われる。今年,フィリピン,韓国,インドネシア,マレーシア,カンボジア,タイ,ビルマ,インド,そしてサハラ砂漠に接するアフリカの国々では」悪天候のために「収穫高は著しく減少した。…来年,作物の生育に適した天候が戻れば,おそらく近い将来の世界的な食料危機は避けられるだろう。しかし,1年間の気まぐれな天候が災いして多くの国が直面した厳しい問題は,世界の食料と人口の均衡が引き続き不安定であることを容赦なく思い起こさせる」。
大学における犯罪
◆ アメリカのバーンズ安全協会は最近,大学を受け持つ警察署長58人が手を焼いているのは,爆弾の脅威やデモよりも盗難事件であると報告した。カリフォルニア大学のある刑事部長によれば,大学を荒らす泥棒は「なんでも,釘づけにされている物品すら盗む。壁から掲示板を取り去るかと思えば,鎖やボルトで留めてある事務室の備品を取ってゆく」。また,札入れ,腕時計,カメラ,ステレオ,タイプライター,計算器,自転車などが奪われる。泥棒がたいてい無視する品物は教科書である。大学はまた,急速に暴力犯罪や強姦の場と化しており,女子学生が寄宿舎から図書館に行くさい,付き添いを同行させる大学もある。
輸血にかかわる責任
◆ 最近,アメリカ,ニュージャージー州で行なわれた裁判によれば,輸血による血清肝炎でなくなった患者の死に対する責任が病院側と血液銀行にきびしく問われることになった。そして血液銀行は,血液を市場に提供することにより,責任を負うべき立場に自ら立っていることが指摘された。同裁判所は以前の判例を引用して次のように述べた。「その物品[血液]が,被告側の管理処置を非常に危険な状態におちいらせたのであれば,そうした状態を招いたり,そうした状態に気づかず,善処しなかったりした点で手落ちがあったにしても,あるいはなかったにしても被告には責任がある」。さらに同裁判所は,輸血された血液は,単なる“サービス”のためのものではなくて,一種の“製品”であり,輸血を施すことは一種の販売であるという見解を取った。
だれが非難されるべきか
◆ 宗教問題の著述家で牧師でもあるJ・E・ルーパーは,最近,キリスト教世界の教会の失敗に関して僧職者を公然と非難し,次のように評した。「われわれが教会と呼んでいる地域的に組織された団体は,たいへんな詐欺師で,つらよごしで,救われざる社会の笑い者にほかならない」。では,その責任はだれにあるのか。同氏はこう続けている。「地方の教会の急速な衰退状態の一つの主要な原因は,もっぱら牧師や宣教師にあるとわたしは考える…今日のいわゆる牧師の大半は,優柔不断で,憶病で,お世辞使いで,裏表があり,伝道師たちに対して妥協して言いわけをする人間にほかならない。この種の牧師が各地の教会に勤めているのだから,教会がこれほど悲しむべき状態にあるのも不思議ではない。軍隊の状態については,普通の将兵を非難しはしない。将軍たちを非難する。会社が損失を招く場合,従業員を非難するものではない。へたな経営がその原因であるとして指摘される。ゆえに,同様の原則が地方の教会にも当てはまる。出席者数が減少し,熱意が失われ,教会が地域社会に対してその影響を失っているなら,その責任は明らかに牧師たちに問われねばならない」。
攻撃される原子力発電
◆ アメリカでは原子力発電所の潜在的な危険性を深く憂慮する人が少なくない。最近,消費者の擁護者であるラルフ・ネイダーは,関係化学者連盟に加わって,都市近辺の原子力発電所建設に対する不安を表明した声明を出した。その声明は,もし冷却水廃棄事故が起これば,「核爆発が起こることはなくても,やはりばく大な量の放射性物質が放出される」,と指摘した。ネイダーは次のように語った。「わが国が,自らを拭い去ってしまうおそれのある産業の発展を許したのはこれが初めてである。われわれは根本的な弱点を国内で作り出す一方,国防に何十億㌦も費やしているのである。そして,責任を負うべき人がいない。もし原子力発電所がだめにでもなれば,だれが失業するのか。だれが投獄されるのか。だれが首になるのか。だれも責任を問うことができないのである」。
心臓病の増加
◆ 1910年当時まで,アメリカ人の最大の死因は結核で,肺炎や他の伝染病がそれに続いていたが,抗生物質の開発により,それらの病気の多くは減少した。アメリカ国立衛生統計センターが明らかにしたところによれば,1911年から1920年にかけて初めて,心臓病と結核が主要な死因の地位を争った。1921年,死亡件数の14%は心臓病によるものであった。ところが1921年以後,心臓病は第1位にのし上り,以来その勢力を増してきた。今日,アメリカの全死亡件数の39%は心臓障害によるものである。
高層ビルの火災
◆ 1972年12月8日号の「目ざめよ!」誌(英文; 日本語は1973年2月22日号)に,高層ビルは火災のさいに逃げ場のないきわめて危険な建物になるおそれがあるという消防士の心配している問題に関する報告が載せられた。そして,エレベーターは故障して止まり,階段や暗渠,それに配管類は何分とたたぬうちに火炎を吸い上げるおそれがあり,消防車のはしごが短すぎて役にたたない場合もあると指摘された。同誌が予約者に届けられていた時分,アメリカのニューオリンズ市のある高層ビルが火災を起こし,消防士の懸念していた事が確証された。はしごは,火炎に追いつめられた人たちのいる階の3階下までしか届かなかった。その火災で4人が焼死し,3人はビルから飛び降りて死亡し,他のひとりは階段吹抜きの中で窒息死していた。2台のヘリコプターが,屋上がくずれる直前に8人を救助した。
1960年代の宗教
◆ アメリカの教会が,突然,多くの人が呼ぶ失望状態に至ったのはなぜだろうか。エール大学の歴史家S・E・アールストロムの新刊書「アメリカ人の宗教史」には,1960年代に急激な変化が起きたことが示されている。どんなことが起きたのだろうか。あるカトリック教徒の大統領が選ばれ,そして殺された。教皇ヨハネスはカトリック教会に変革をもたらしたが,保守的な教皇パウロはそれを完遂させてはいない。新教徒は学校における宗教儀式に関する最高裁判所の決定に衝撃を受けた。東南アジアの市民権運動や戦争は多くの教会にどちらかの側を取るよう迫った。「神は死んだ」という風潮は「道徳の大革命」を伴った。長期にわたって進展してきた,産業および都市問題は今や危機的段階に達し,人々の旧来の忠誠心は一変してしまった。アールストロムは次のように言っている。「1960年代の10年間は,手短に言えば,社会の古い土台が…波にもまれた時期であった」。
見殺しにされる胎児
産婦人科学の大学特別研究員,トマス・ヒルジャーズ博士は,アメリカのニューヨーク州では合法的な妊娠中絶によって400,000もの胎児が命を失ったと唱えており,そのうちの1,800件は,「生きて生まれ出たが,見殺しにされた」と言う。市保健局の副局長マイケル・ブルメンフェルドは,そのような例はわずか73件にすぎず,そのうちの2人は今も生きていると語った。同副局長は,手術室のそうじをするひとりの看護婦から,20週めの胎児がおろされて,「生きて呼吸していた」事件について聞かされたということを報告した。彼女が医師にその赤ん坊を未熟児の補育器に入れてほしいと頼んだところ,医師は,「これは病理学上の標本だから,病理学研究室行きだ」と答えた。ヒルジャーズ副局長は,中絶手術を行なう医師の多くが手術後に相当の飲酒をするということを指摘している。妊娠中絶をする女性で精神的また肉体的に苦しむ人は少なくない。