ペンキ塗りを自分でする
諸物価が高騰している昨今,なんとかしていろいろな経費を節約しようとしている人は少なくありません。しかし,所有物の適正な管理を怠ったり,財産の価値が減じるままにしておいたりするのでは,真の意味で経済的であるとは言えません。ある種の仕事を自分ですれば,経費を節約することができます。たとえば,ペンキ塗りを自分ですることを考えたことがありますか。ペンキ塗りはそれほど難しくありません。そのうえ,できばえがよかった時などは特にそうですが,自分の手で何かを仕遂げたという満足感があります。
自分の家のいろいろな部屋にペンキを塗る場合であるとしましょう。そのために何が必要ですか。もちろんペンキが必要です。また,ローラーとローラー受け,それに幅6㌢ほどの良質のはけも必要です。(“しろうとのペンキ屋”にはこの幅のものが勧められている。)ペンキを塗らない部分や家具を覆うための掛け布も必要です。古いシーツがあればよいでしょう。
部屋にペンキを塗るというのは,主に壁に色彩を施すことです。もちろん色彩には,実用的な価値があるだけでなく,感情的な効果も備わっています。赤やオレンジは明るい色ですが,その部屋にいる人を緊張させる傾向があります。こうした色は,たとえ使うにしてもかなり控えめにすべきです。黄色は太陽の光を連想させるここちよい色です。淡い緑色は戸外にいるような感じを与え,気持ちを和ませ,安らかにしてくれます。淡い青は穏やかで涼しい感じを与え,晴れわたった青空や川や湖水を思い起こさせます。明るい色は部屋を大きく見せますが,暗い色彩は部屋を小さく感じさせます。こうした点を考えに入れるのがよいでしょう。もちろん,個々の部屋の色を選択するにあたっては,カーテンや家具や敷物の色も考慮したいと思うでしょう。
色を決めたら,次にどんな種類のペンキを使うべきでしょうか。いろいろな種類のペンキがありますが,たいていの“しろうとペンキ屋”にとって関心があるのはアルキッドと呼ばれる合成樹脂の油性塗料と,壁板用水性ラテックスペンキの二種類です。“ラテックス”(ゴムの原料となる乳濁質の樹液もラテックスと呼ばれる)と名付けられてはいますが,このペンキにゴムが入っているわけではなく,単に乳濁性があるだけです。室内の塗装には,壁板用ラテックスペンキのほうがずっと適しています。塗りやすく,後の掃除も簡単で,たいていアルキッド樹脂系のペンキよりずっと安く売っています。
壁板用無光沢ラテックスペンキは居間や食堂や寝室に最適です。近年になって半光沢ラテックスペンキが開発され,アルキッド系の半光沢油性塗料に取って代わりつつあります。半光沢塗料は台所や浴室,窓枠や窓台などの塗装によく使われます。こうした半光沢塗料はこすっても落ちません。
どれほどの量のペンキが必要でしょうか。1回塗るだけであれば,10ないし12平方㍍につき約1㍑です。
ペンキ塗りを始める前に,塗ってはいけないものの表面全体を掛け布か新聞紙で覆ってください。また,家具を部屋から出すか,部屋の中央に移すかして,どの壁にも自由に近づけるようにするのが実際的です。
さて次に,ペンキを塗ろうとしている壁面を調べます。壁面が乾燥していて,滑らかであり,かつ光沢がなく,またひびや穴もなく,色あせたペンキやほこり,汚れや油などが付いていなければ,直ちに仕事に取りかかることができます。しかし,何か欠陥があればどうすべきですか。色あせたペンキが付いていますか。では,それをこすり取ってください。こうした場所や穴またひび割れのできている個所すべてに,“スパックル”と呼ばれる,パテに似たものを塗り,そうした部分を平らにします。(調合済のスパックルを買うこと。)多くの場合,スパックルは乾燥すると縮むので,もう一度塗ることが必要な個所もあるでしょう。スパックルが乾いたら,その部分を紙やすりでみがいて滑らかにし,ペンキを塗った時に透けて見えないように下塗りをします。表面がつやつやしていますか。それでは,ペンキを塗る前に,紙やすりをかける必要があるでしょう。ペンキ塗りに取りかかる前に,壁にほこりや汚れ,油脂や石けんが付いていないことを必ず確かめてください。
ペンキを塗るためには,幅18㌢,もしできれば23㌢のローラーと,かご型のローラー枠,およびローラー受けが必要です。ローラーは単なる厚紙でできたものではなく,フェノール繊維のような堅い芯のあるものでなければなりません。ローラーの軸さや,つまり覆いは,ロネルやダイネルなどの合成繊維か子羊の毛のような良質のものでできていることが必要です。毛羽の長さは,どんな効果を出したいかによって決まります。普通の壁には長さ9.5㍉の毛羽のローラーが適当です。非常に滑らかな面には6.5㍉,非常に目の荒い面には12.5㍉の毛羽のローラーがよいでしょう。(当然ながら,毛羽が長ければそれだけ,ローラーは多くのペンキを含むことになります。)ローラーでペンキを塗る前か後に,はけを使って,部屋のすみとか,他の特別に注意の必要な場所を塗ります。
まず最初,ペンキが一様に付くまでローラーをペンキ受けの中で転がします。次に,そのローラーを皿の格子の上で転がし,余分に付いたペンキを取ります。部屋の中を塗るさいには,天井のほうから始め,上から下へと塗ります。しかし,壁を塗っている時にペンキがしたたり落ちるのを少なくするため,最初の一回はローラーを下から上に動かします。すでに塗り上がった部分から十分離れたところから,その仕上がった部分に向けて塗ってゆきます。そうすれば,塗りすぎて目立つことはないでしょう。最良の結果を得るためには,ローラーにペンキを付けすぎないようにすることです。また,ローラーをあまり長く動かして,ローラーに付いているペンキをみなこすり付けるようなことも避けなければなりません。
1.2㍍から1.8㍍の柄の付いたローラーを使うと,ペンキ塗りの仕事はずっと楽になります。こうしたローラーの長い柄を両手でつかんで仕事をすれば,天井や壁の高い部分を塗る時でも段ばしごはいりませんし,床を塗る時でもかがむ必要はありません。
広い部分を塗った後,戸枠や窓枠や窓台などを,はけを使って塗ります。ラテックスペンキを使用するのであれば,必ず合成材でできたはけを使うようにしてください。自然のはけ毛はアルキッド系の油性塗料には適しています。
二度塗りしたいと思うこともあるでしょう。たとえば,暗い色の上に明るい色を塗るような場合,下地の暗い色が透けて見えないように二度塗りすることが必要です。木材,プラスターボード,しっくいのいずれであっても,表面にまだペンキが塗ってなければ,初めに下塗りをし,次いで仕上げの上塗りが必要です。たいていの場合,二度塗りで十分です。
その日のペンキ塗りが終わったらどうしますか。乾いてあまり堅くならないうちに,ペンキのしみを全部取ることが賢明です。また,ローラーとはけもきれいにします。ラテックスペンキを使ったのであれば,ローラーとはけの両方を水と石けんで十分に洗います。しかし,アルキッド系の油性塗料を使ったのであれば,テレビン油などのペンキ希釈液できれいにすることが必要です。
仕事を注意深く行なってください。あまりあわてないなら,かなり良い仕事ができるはずです。経費の節約になるだけでなく,あなたの努力のほどを示す,美しくて長持ちのする何かを成し遂げたという満足感を味わえます。なぜなら,よく言われるとおり,ペンキ塗りには,「手と思いと心」が関係しているからです。