世界展望
合成ヘロインの脅威
● アメリカの幾つかの都市で現在広くやり取りされている危険な麻薬の表に,合成ヘロインを加えなければならない。この麻薬は合法的な外科用麻酔薬であるフェンタニールの組成を化学的に変えることによって作られる。この麻薬の中には,ヘロインの3,000倍以上の効き目があるとされる種類もある。100万分の1㌘もあれば,使用者は4ないし6時間“酔って”いられる。麻薬対策計画カリフォルニア支部の支部長,ロバート・ロバートンはこう述べている。「我々が話しているのは,将来の麻薬である。これはヘロインに取って代わる。……同じほど質の良いものを,いやむしろより良いものを,非常に安く,手早く作れるのであれば,ヘロインを栽培し,精製し,国境を越えて密輸するといった厄介なことをなぜしなければならないのか」。ニューヨーク・デイリー・ニューズ紙によると,一つの小さな研究所だけでニューヨーク市,いや米国全体の需要を幾年にもわたって賄うだけの合成ヘロインを数週間以内に作ることができる。材料費は1万㌦(約260万円)しかかからない。
生活のテンポ
● 日本人は,米国人,英国人,イタリア人,台湾人,それにインドネシア人よりも速く歩き,時計の時刻をきちんと合わせ,郵便局の切手の売れ行きも速い。これは「生活のテンポ」に関して,フレズノにあるカリフォルニア州立大学の心理学の教授,ロバート・レビーンの行なった最近の調査の結論である。この分析調査は6か国で行なわれた。全体で第2位に入ったのはアメリカ人であった。レビーンは,日米両国では,「スピードが進歩と取り違えられることが多い」と述べている。しかし,同教授はさらにこう付け加えている。「今後の研究により,生活のテンポが,心臓病・高血圧・かいよう・自殺・アルコール中毒・離婚などの発生率,また心身両面が全般的に良好かどうかを示す他の病気の割合と関連していることが示されるものと予想される」。
クラシック音楽でクジラを救出
● 2月のこと,ソ連のセンヤビン海峡の重い浮氷塊の後ろに取り残された推定1,000ないし3,000頭の白クジラが通る道を切り開くため,ソ連の砕氷船が急派された。しかし,ソ連では北極イルカとしても知られるこのクジラは付いて来ようとしなかった。「最後にある人が,イルカは音楽に鋭敏な反応を示すことを思い起こした。そこで,上甲板から音楽を流し始めた。ポピュラー,軍楽,クラシックなどである。クラシックが白クジラの趣味には一番合っていた」と,イズベスチヤ紙は伝えている。やがてクジラはその船に慣れきってしまった。「クジラはその船を四方八方から取り囲んだ。子供のようにはしゃぎ,跳びはね,氷の浮かぶ海原に広がっていった」とその記事は続けている。24㌔にわたって氷を砕いたあと,船はようやく2月の末にクジラを外海に連れ出した。
『いつまでたってもブタ』
● ブタに似たインドネシア原産の動物バビルーサは反すうするので,ユダヤ教の法にかなった食べ物になるかもしれないという米国国際開発局(AID)の主張をめぐって,ユダヤ教の学者が科学者たちと論争している。(レビ記 11章26節は,ユダヤ人が,ひづめは割れていても反すうしない動物の肉を食べることを禁じている。)ロサンゼルス動物園のウォーレン・トーマス園長は,同動物園の2頭のバビルーサは一度も反すうしたことがないと主張している。「これはユダヤ教の法にかなったブタだと言って,自尊心を持つラビに買わせることはできない」と,同園長は補足している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は次のような結論を下している。「ユダヤ教の食物規定の権威である……ラビJ・デービッド・ブライチの言葉がすべてを決するかもしれない。バビルーサは『ブタの突然変異』ではないか,[それゆえ,ユダヤ人には受け入れられない]というのがブライチの主張である」。『かつてブタであれば,いつまでたってもブタ』というのがこのラビの論法だ。バビルーサが反すうするかどうかなどはどうでもよいのである。
月に4万1,000人の人命
● 国際連合の最近の報告によると,第二次世界大戦以来武力紛争のために奪われた人命は2,100万人に達する。これは平均すると,毎月3万3,000ないし4万1,000人の人命が奪われたことを意味する。世界の軍備費の総額の80% ― 昨年は8,000億㌦(約208兆円)を超えた ― は,武器と通常戦力のために費やされた。この国連報告は,「新型原子力潜水艦1隻の費用だけで,総計1億6,000万人の学齢期の子供を抱える23の発展途上国の年間文教予算に匹敵する」ことに注目している。
ベトナム戦争の復員兵
● ベトナム戦争が復員兵に一体どれほどひどい心理的な傷跡を残したかが,ニューヨーク市立大学ラルフ・バンチ研究所の最近の調査により明らかにされた。その調査は,戦闘体験の程度に応じて現在の生活の質を評価している。その結果はどうだっただろうか。激しい戦闘を見た復員兵のほぼ4分の1は失業中であった。これは軽い戦闘に携わった人々の失業率の3倍に当たる。また,激しい戦闘に加わった人々の65%は離婚を経験しており,21%に逮捕歴があった。軽い戦闘に携わった人々の場合は,離婚した者が29%,逮捕歴のあった者は15%であった。
歯が良くなる
● 米国の疾病対策センター(CDC)の調査によると,1979年と1980年には9歳児のうち虫歯のない子は51%であった。ちなみに1971年から1973年まではそれが29%にすぎなかった。この飛躍的な改善の見られた主な理由は,フッ化物を少量入れた水を飲む米国人が増えている ― 現在のところ52% ― 事実にある。ロバート・ウッド・ジョンソン財団は次のように述べている。「飲料水に少量のフッ化物を入れる方法は,子供一人当たり推定年間1㌦(約260円)以下の費用で済むので,社会的に実施できる虫歯予防法として今なお最も安く効果的なものである」。しかし,医学当局者の中には,酵素抑制剤であるフッ化物を水に添加することに反対する向きが少なくない。それは大人の虫歯を減らすものにはならず,長期的にみて健康に有害な影響の出る恐れがあるからである。
注射はどこに?
● 米国の疾病対策センター(CDC)によると,ワクチンの効果は医師が体のどこに注射を打つかに左右されるかもしれない。これは,B型肝炎ワクチンの接種によって免疫ができる率を,疾病対策センターとワクチン製造業者が別個に分析し,調査して得られた結果である。「どちらの調査も,腕に注射する病院のほうが,臀部に注射する病院よりもワクチンに対する反応が著しく高いことを示している」と,疾病対策センターは述べている。ニューヨーク・タイムズ紙はこう言葉を加えている。「臀部よりも腕に注射を打たれるほうが人間の尊厳を保てると考える人々は,今や科学的な研究の支持を得たのである」。
生活を明るく
● 明るい光には「著しい抗抑うつ効果」がある,と米国の国立精神衛生研究所の研究員が行なった調査は述べている。その調査によると,日が短くなり,屋内で過ごす時間が長くなると出てくる“冬期うつ病”に悩まされる13人の患者のうち10人が,普通の室内照明の数倍の明るさを持つ照明に良い反応を示した。この照明により,「数日以内に気分が大変よくなり,それが加療の週中ずっと続いた」とその調査は述べている。「照明を除くと,数日以内に必ず元の状態に逆戻りしてしまった」。
口づけの危険
● ハンス・ノイマン博士は,同博士がアメリカ人の“カクテル・パーティーの口づけ”と呼ぶもの,つまり知人にあいさつをする時大勢の人々がよく行なう,口への何気ない口づけに反対している。同博士はコネティカット・メディシン誌に,「私は,このような仕方で伝染した,連鎖球菌によるのどと上部呼吸器の病気を幾つも見てきた」,また,「あまりかかる病気ではないが,ヘルペスのような病気の危険も幾つかある」と書いている。知人の間で口づけを交わさなければならないなら,ヨーロッパ式,つまりほほに口づけをすることをノイマンは提唱している。ないしは,東洋の習慣に従うことだ,と同博士は述べている。「口づけは公の場では全く行なわれない。それは人を当惑させるものとなる」。
不妊の増加
● 米国の国立健康統計センターの調査によると,米国の出産適齢期の女性の27%は子供を産むことができない。「15歳から44歳までの既婚および未婚の女性5,400万人のうち,産児制限の目的で自分の意志により不妊手術を受けた人が940万人,ほかの理由で不妊手術を受けた人が120万人,そして身体的な問題があって子供を身ごもったり流産せずに臨月まで子供を宿していたりすることが不可能,あるいは困難な人が440万人いる」と,アメリカン・メディカル・ニューズ誌はその調査を要約して伝えている。同センターは,不妊手術が同国における産児制限の主要な形態となったことに注目している。
世界最長のトンネル
● 日本の土木技師たちが21年にわたって両側から掘削してきた全長53.9㌔の青函トンネルがようやく貫通し,本州と北海道を結ぶようになった。海底の部分だけでも全長23.3㌔になるこのトンネルは,世界最長の海底トンネルになった。しかし,「今世紀最大の土木技術上の業績」とも言われるこのトンネルの将来は不確かである。そもそも,このトンネルは東京と北海道の道庁所在地である札幌を新幹線で結ぶ計画の一端であった。ところが,当局は今になって,鉄道輸送では飛行機との競争に勝てないと言い出した。トンネルを使うことの正当性を示すために,国鉄は年間推定90億円近い赤字を覚悟の上で,1987年に在来線をそこに走らせる計画でいる。
土壌の浸食
● 「どの大陸でも,土壌の浸食のために産出性の高い土地が流出している」と,編集者のレスター・R・ブラウンは,「世界情勢1985」の中で書いている。推定254億㌧の表土が毎年失われている。ブラウンはこうつけ加えている。「今世紀半ば以来肥料の使用量が9倍に増加し,世界のかんがいされた耕地がほぼ3倍になったことで,土壌の浸食が作物の生産性に及ぼした影響は覆い隠されてきた」。しかし,一人当たりの耕地面積は減少しつつある。この本は次のような結論を出している。「表土の流出と土地の生産性とのつながりを理解できなかったために,土壌保全に熱心でなかった政府もある」。
なだれ対策
● スイス・アルプスでなだれのために死亡した人は今年の3月で26人になった。1951年に98人の死者があった時と比べると,著しい減少である。それでも,なだれの脅威を増やすことになりかねない,人間の作り出した問題に対する懸念がある。それは,森林を枯らす酸性雨である。当局者の話によると,森林は多くのなだれの発生を未然に防ぐので,最も優れたなだれ対策である。
子供にはお金がかかる
● オーストラリアの家族問題研究所によると,2歳児を養育するのにかかる年間の最低の費用はオーストラリア・ドルで861㌦12㌣(約15万7,000円),11歳児の場合には1,450㌦80㌣(約26万4,500円),ティーンエージャーの場合には2,156㌦96㌣(約39万3,000円)である。この調査は,十代後半および20代初めの子供を扶養する親にのしかかる経済的な重荷に注目している。この調査を行なったケリー・ラバリングは次のように語っている。「このように親に依存する期間が延びていることは,20世紀後半独特の風潮であり,オーストラリアの全家庭に大きな影響を及ぼしている」。