世界展望
人口問題のジレンマ
人口問題の専門家によれば,現在ヨーロッパには,人口統計上の増加率がゼロ(出生数と死亡数が等しくなること)に近づいている国が12ある,とメキシコ市の日刊紙「エル・ウニベルサル」は述べている。世界の人口増加率の平均は1.6%近くに減少したと言われており,毎年少しずつ減少しているものと思われる。ワシントン特別区にある人口研究所の所長ウェルナー・フォルノスは,「それでもまだ足りない」と言っている。なぜだろうか。世界監視協会のレスター・ブラウンの説明によると,世界全体の人口増加率は減少していても,地球に住む人間の総数は増え続けているからである。1950年の世界人口の実質的増加数(出生数から死亡数を引いた数)は3,500万人だった。1970年にその数は7,000万人になった。1986年には8,200万人に増加するものと見られている。これは,世界人口が毎秒2.6人ずつ,つまり1時間に直すと9,360人ずつ,1日では22万4,640人ずつ増加することを意味している。このままでゆけば,今世紀の終わりまでに地球の人口は60億になると予測されている。
犯罪の増加
FBI(米連邦捜査局)が最近明らかにした報告によると,1986年上半期の米国における重大な犯罪は8%増加した。ちなみに,前年度の増加率は5%だった。主要都市の中には,15%以上増加したところもあった。ところがテキサス州ダラスにおける犯罪は一挙に19.5%も増加した。犯罪の増加に関係のありそうな要因としては,麻薬の使用,金銭の絡んだ問題,暴力に対するアメリカ人の渇望が挙げられた。後者に関して,国際警察長協会のジェラルド・ボーンは,「アメリカでは犯罪が,受け入れられる生き方となっている ― 我々アメリカ人は犯罪のおかげで繁栄しているように思える」と説明した。
屠殺されるトナカイ
ソ連のチェルノブイリで起きた原発事故のために,ノルウェーとスウェーデンでは,少なくとも3万8,000頭のトナカイの屠殺が予定されている。この動物には1頭当たり約3万6,000円ないし4万8,000円の値打ちがあるが,汚染された地衣類を食べてから放射能のレベルが高まっているため,食用に適さない。「これは,北極の不毛地帯で60万頭以上のトナカイを飼っているラップ族にとって大きな痛手となる」と,ロンドンのサンデー・タイムズ紙は伝えている。匂いの強いその肉は北欧で人気があり,ドイツ連邦共和国や日本などにも輸出されている。「これでは我々の暮らし全体が脅かされる」と,トナカイの一飼育者は述べた。
コンピューターを利用した不道徳
データ・バンク利用のために電話網と接続した小型コンピューターの端末機“ミニテル”がフランスで使用され始め,多くの有用な情報が入手できるようになった。利用できる多くの情報の中には,鉄道の時刻表,銀行に関する情報,ゲームなどがあった。ところがミニテルは,新たにポルノの分野を商業的に開拓した。フランスの日刊紙「ル・モンド」が伝えたところによると,ミニテルの顧客に提供される900のサービスのうち「300は……陽気な話のシステムを」,つまり,ポルノ的な性質の会話となることが多い話を「利用するためのものである」。さらにその記事は,「この『陽気な』会話は,未成年者を唆して,不道徳な行為へと駆り立てたり,果ては売春組織に発展したりする恐れがある」と付け加えた。
腎臓結石を砕く突破口
レーザーで腎臓結石を破壊する新技術が英国の二人の科学者によって試みられた。フランスの週刊誌「レクスプレス」によると,腎臓から膀胱に通じる管,つまり尿管内に既に入っている石はレーザー光線によって砕くことができる。今のところ超音波で石を砕くことはできないが,内視鏡を使えば,「レーザー装置 ― 先端に水晶繊維を備えた,直径0.25㍉の長くて自由に曲がる管 ― を尿管内に挿入できる。標準的な大きさの石を破壊するためには,毎秒5回ずつ,2,000回の衝撃が必要となる。石はまるで空気ドリルに削られるかのように徐々に砕かれてゆく。粉々にされて細かい砂粒のようになった石は……尿と共にあっさりと,痛みが伴うこともなく体外へ排出される」。
赤ちゃんの親友
「華氏60度(摂氏約15度)の気温のもと,雑草が生い茂り,空き瓶の散らばる裏通り」に捨てられていた新生児が,迷い出たドイツシェパード犬のおかげで命を取り留めた,とデトロイト・フリープレス紙は伝えている。子供を発見した警察官の一人の話によると,犬は,「小枝にしがみ付いていた赤ちゃんを包み込むようにして赤ちゃんをぺろぺろなめていた」。この風変わりな光景が発見されたのは,出産による出血のひどい女性が病院に収容され,それを警察官が知ってからおよそ3時間後のことだった。赤ちゃんの姿がなく,その女性も妊娠を断固として否定したので,警官が女性のアパートに行って血痕をたどり,子供が捨てられていた裏通りを突き止めた。体重約2,800㌘のその男の赤ちゃんは,低体温症から回復し,小康状態に入ったとされている。
記録的な配布
アメリカ聖書協会連盟提供の情報によれば,聖書は昨年の5月現在で1,829の言語もしくは方言に翻訳されている。これは,1年もたたない内に21の言語が加わったことを示している。ところが,実際にそれだけの言語に翻訳されているのは,聖書中のごくわずかな書にすぎない。現在,聖書全巻は293の言語に翻訳されているにすぎず,その中には既に用いられていない言語も含まれている。
今度生まれたパンダの赤ちゃん
「中国と世界野生動物基金が共同で運営するセンターで,8月10日にジャイアントパンダが誕生したことは,種を絶滅から救う努力における大きな一歩である」と,ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。わずか100㌘ほどしかないパンダの赤ちゃんは,体重が108㌔もある15ないし18歳の雌のリリから生まれた。父親のカンカンは,体重90㌔の6歳半ないし7歳の雄である。センター側はパンダの自然の生息地に近い条件作りに努めているので,センターの世話を受けたパンダのほうが動物園で生まれたパンダよりも容易に野生に戻ることができると言われている。
対立は深まる
産児制限など,性に関する問題について寛大な見方をしていた,米国に住む二人のカトリックの高位聖職者に対するバチカンの最近の処罰は,米国のカトリック教徒間の対立を深めた,とミルウォーキー市の大司教レンバート・G・ウィークランドは語っている。ニューヨーク・タイムズ紙は,米国のローマ・カトリックの指導者が立て続けに懲戒処分を受けたことにより一般のカトリック教徒が大勢教会を離れ,「独自の方法で個人的に自らの信仰を求め始める」かもしれないというウィークランドの意見を伝えている。ウィークランドは,米国の教会の現状とオランダの教会とを比較して,米国の教会もオランダの教会が取った方針に倣えることを指摘した。どのように倣えるのだろうか。「オランダのカトリック教徒は世界でも優れて,寛大な考え方を持ち,その国の教会員の多くはローマ・カトリック教会とその教えを退けてきた」と同紙は伝えている。しかし,「寛大な」教えはしばしば聖書の教えに反することを忘れるべきではない。
記憶金属
25年近く前に米軍によって開発された特異な合金が今では消費者の役に立っている。その合金のどこが特異なのだろうか。温めると原形を「思い出す」力が備わっていることである。例えば,タイム誌が述べるところによれば,カリフォルニア州のベータフェイズ社は,摂氏54度に熱すると原形を取り戻すメガネのフレームを生産してきた。日本のワコール社が作り,最近米国でも売り出されたメモリーワイヤーブラも,その特異な金属を含む製品として取り上げられた。