耳鳴り ― うまく付き合ってゆくべき雑音ですか
ベートーベン,ドイツの作家ゲーテ,イタリアの彫刻家ミケランジェロといった人々は皆,耳鳴りを経験していたかもしれません。同様に,古代エジプト人も耳鳴りに気づいていたらしく,その病気のことを「魔法をかけられた耳」と呼んでいたようです。今日では,それは「耳鳴り」,または「耳鳴」と呼ばれており,欧米人の推定15%は,耳鳴りをしばしば経験するか,あるいは絶え間ない耳鳴りを抱えています。1,000人につき約5人は重症の人です。
この厄介な病気は一体どういうものなのでしょうか。耳鳴りを意味するティニタスという英語は,「チリンチリンと鳴る」という意味のティニーレというラテン語から来た言葉で,「外部からの刺激が何もないのに耳の中で生じる音」と説明されています。「診断と治療のメルク・マニュアル」によれば,その音は,「ブーン,リーン,ゴー,ヒュー,シューッといった調子の音」かもしれず,「時がたつにつれて変化する,もっと複雑な音が関係しているかもしれない。断続的な音,連続的な音,または拍動音の場合もある」と言われています。こうした雑音には,ほとんど聞こえない程度の音量のものから,うるさいほど音量の高いものまであります。しかもこれは,病人が消すことのできない音です。ですから,ひっきりなしに聞こえるその雑音は,多くの問題を引き起こすことがあります。感情的な苦痛,睡眠障害,痛み,注意を集中させるのが難しいという問題,疲労,コミュニケーションの問題,うつ病などがそれです。
この病気の原因は何か
耳鳴りが始まると,どこが悪くなったのだろうか,とひどく不安に思う人がいるかもしれません。脳内出血があったのだろうか,精神障害が起きたのではないだろうか,腫瘍があるのではなかろうか,といった心配をするかもしれません。幸い,重い病気のために耳鳴りが起きることはめったにありません。中には,頭にけがをしてから耳鳴りがするようになった人もいます。スウェーデンのエーテボリに住む,耳鳴りの問題を研究している専門家のアルフ・アクセルソン教授は「目ざめよ!」誌に,「アスピリンのように,たくさん服用すると一時的な副作用として耳鳴りを起こす薬剤もあります」と語りました。
しかし,一般的に言って耳鳴りは,耳の機能障害のために起きます。アクセルソン教授はこう説明しました。「問題はたいてい,1万5,000個ほどの顕微鏡的な有毛感覚細胞を持つ,中耳の蝸牛と呼ばれる部分にあります。それらの感覚細胞は一部が損傷を受けると,平衡の欠けた神経の信号の流れを送ったり受けたりすることがあります。それを病人は雑音として感知するのです」。
耳がそのような損傷を受ける原因ですか。アクセルソン教授によれば,耳鳴りの原因の一つは,大きな騒音に耳をさらすことです。例えば,ステレオ用ヘッドホンを使う人は,大きな音量で音楽を聞いて耳を傷める場合が少なくありません。そのために起きる可能性のある障害の一つが耳鳴りです。
もちろん,リチャード・ハラムが自著「耳鳴りと共に生きる」の中で次のように述べていることを覚えておくのは良いことです。「体は全く音のしない場所というわけではないので,ある程度の“耳鳴り”は異常なことではない。筋肉や骨,血液や空気などの機械的な動きから音は生じる。……そのような背景の雑音は,普段は周囲のより強い音に消されて聞こえないだけのことだと思われている」。この記事を読んだために,あなたはそのような背景の雑音をもっと強く意識するようになったかもしれません。しかし大抵の人にとって,それは問題ではありません。
どのように治療するのか
もしあなたがこの病気にひどく悩んでいるとしたらどうでしょうか。まず最初にすべきことは,掛かりつけの医師に診てもらうことです。医師は,症状の背後に治療可能な障害があるかどうかを見つけるよう助けてくれます。残念なことに,大抵の場合,その雑音を聞こえないようにする治療法はありません。しかし,耳鳴りとうまく付き合ってゆくのに役立つ事柄で行なえることは幾つかあります。
■ 外科手術: 英国耳鳴協会の発行した「耳鳴り」という題の冊子はこう述べています。「耳鳴りは中耳の障害のために起きることもあれば,耳の中または耳の近くの血管や筋肉の異常のために起きる場合もある。こうした非常にまれな例の場合,外科手術によって耳鳴りを完全に消去できることもある」。
■ 薬物治療: もし病人が睡眠障害を抱えていたり,心配・緊張・うつ状態などのために苦しんでいたりするなら,医師はそのような症状を和らげるため,鎮静剤,あるいは抗うつ剤を処方するかもしれません。
■ 補聴器や“マスカー”: もし聴力が少し低下しているなら,補聴器は大きな助けになる場合があります。また,補聴器と同じような形のマスカーと呼ばれる器械もあります。その器械は,背景の音を出し,その音で耳鳴りを聞こえないようにします。しかし時には,ラジオをつけたり,扇風機を回したりするだけで,同様の効果が得られる場合もあります。
■ 他の治療法: アクセルソン教授は「目ざめよ!」誌にこう語りました。「患者によっては,高圧酸素療法が助けになる場合もあります。これは,病人を加圧室に入れ,その中で純粋な酸素に当たらせる方法です。この療法で内耳の治療効果を高めることができる場合もあります」。また,緊張したり,心配したりすると,耳鳴りの症状が悪化するような患者もいるので,様々な緊張緩和訓練療法を勧める医師もいます。a しかし,緊張を和らげる方法を学び,身体的・精神的ストレスをできるだけ避けるなら,助けになることがあります。
病気と共に生きる
耳鳴りを治す本格的な治療法が確立される兆しは,今のところまだ見えません。ですから,耳鳴りと共に生きる方法を学ばなければなりません。耳鳴りとはそのような雑音なのです。「耳鳴りと共に生きる」という本はこう述べています。「私も私の同僚も今は,我慢する気持ちを徐々に培うことが,耳鳴りに対する正常な反応であると固く信じている」。
実際,その音を無視し,注意を払う価値のないものとみなすよう自分の頭に教えることができます。あなたは騒々しい地区にお住まいですか。あるいは,扇風機や冷房を使われますか。最初は,その雑音が気になったかもしれませんが,しばらくしたらその雑音を全く無視するようになったでしょう。いや実際は,そのような雑音の中でも眠れるようにさえなっておられるかもしれません。同様に,耳鳴りにあまり注意を向けないようにする方法を学ぶことができます。
耳鳴りは,神の来たるべき新しい世が到来する時まで堪え忍ばねばならない多くの病気の一つです。その新しい世では,「『わたしは病気だ』と言う居住者はい(ません)」。(イザヤ 33:24)その時まで,耳鳴りは人をいら立たせる問題となる場合もありますが,それによってあなたの生活を台なしにされたり,支配されたりする必要はありません。耳鳴りとうまく付き合ってゆく方法を学ぶことができます。耳鳴りとは確かにそのような雑音なのです。
[脚注]
a クリスチャンであれば,そのような療法が聖書の原則に反するものでないことを確かめたいと思うことでしょう。例えば,「目ざめよ!」誌,1984年5月22日号の自律訓練法に関する記事をご覧ください。
[26ページの図版]
耳鳴りとうまく付き合ってゆく方法を学ぶ第一段階は,資格のある医師の診断を受けること