夕食用に畑から掘ってくる
ニューファウンドランドの「目ざめよ！」通信員
英語では，“スパッド”“テイタ”“プレイテァズ”などと呼ばれ，（フランス語の字義訳では）“地のリンゴ”とも言われるジャガイモは確かになじみ深い食べ物である。それもそのはず，過去10年間に，なんと28億トンものジャガイモが大地から掘り起こされたのである。
この膨大な量のジャガイモの大半は，近代的な機械類を用いて植え付けられ，収穫されたものであるが，それでも，つつましい市民の自宅のちょっとした野菜畑で栽培されたものもかなりあるのは，確かである。わが家の食卓に供するジャガイモを自宅で栽培している家庭は，健全で，しかも安い食品に，かなり豊富に恵まれてきたばかりでなく，老いも若きも，家族みんなで協力して行なえる仕事から喜びと満足を味わってきた。
畑の柔らかい土を堀り起こし，根に連なったままの，きれいな，皮のついた，丸みのあるジャガイモの塊茎を見つけるときの喜びを読者は味わったことがあるであろうか。子どものころ，夕食用のジャガイモをバケツ1杯分掘ってきなさい，と母親からいいつけられたことがあろうか。それは楽しい仕事だった。手製の簡単なさくの入口を通って畑にはいると，はだしの足に，土はひんやりと感じられる。たいていフォークは，前に使った場所に突き刺したままにしてある。根元からかなり難れたところにフォークを突き刺し，柔らかい，土の奥深くにフォークの歯を進め，ゆっくり動かしてから掘り起こすと，“地のリンゴ”がころがり出てくる。一食分のジャガイモなら，二，三個所も掘り起こせば十分である。
ゆうげの食卓で
自分の掘ったジャガイモに次に接するのは，ゆうげの食卓に着いた時だ。テーブルには，ゆげを上げている焼きたてのジャガイモが，お皿いっぱいに盛られている。紙のように薄い皮をさくと，ゆげが立って，おいしそうなにおいが漂う。ジャガイモの中に少量のバターを塗る。これであとはほおばるばかりである。
たとえ平凡なジャガイモが日々の献立の主食に用いられても，閉口するには及ばない。すぐれた料理の本ならどれを見ても，ゆでたり，オーブンで焼いたり，なべ焼きにしたり，油で揚げたり，さまざまな仕方でサラダに用いたりすることもできるので，料理の方法にはこと欠かない。ほかにも，コロッケその他，料理人の技量に挑む，しかも，おいしくいただける料理の仕方はいろいろある。
ゆでるのは，いうまでもなく最も簡単な料理法である。まず，ジャガイモを水に入れて，こすってよく洗い，肌に異常なところ切傷があれば切り取り，そうでないところの皮は残しておく。次に，シチューなべに入れ，ジャガイモがかくれるほどに十分の水をさし，塩を少々加えて，柔らかくなるまで，二，三十分ゆでる。先のとがったフォークを刺してみれば，桑らかくなったかどうかはすぐわかる。桑らかくなったら，水を捨てて，なべのふたを取り，火の上で，なべを静かにゆり動かして水分を抜く。こうすれば，皮さえおいしく食べられる。
ジャガイモはオーブンで焼くと，たいへんおいしい。まず，縦にではなく，横に二つ割りに切り，切り口にヘットを塗り，切り口を下にしてベーキンブ･シートにのせ，30分ないし35分ほどオーブンで焼き，バターときざんだパセリ，あるいは，バターとレモン汁を添えるなど，幾通りかの仕方で供せる。
ジャガイモの丸焼きをさらにおいしく食べさせるには，上部をさっと切って，そこに，フライにしたり，オーブンで焼いたりしたソーセージか，バターでいためたタマネギなどをはさむのもよい。
栄養価
栄養価の点でジャガイモはどんな位置を占めているだろうか。でん粉質が多すぎるとしてきらう向きもあるが，ジャガイモはカロリーが低いということを忘れてはなるまい。たとえば，普通の大きさのジャガイモ1個はおよそ100カロリーであるが，ドーナツ1個は200カロリーもあることを比べてみればよい。
ジャガイモはビタミンCの有力な供給源である。オーブンで焼いた普通大のジャガイモ1個には約15ミリグラムのビタミンCがあり，同時に，ビタミンAおよびBも含まれている。また，ジャガイモは，鉄，カルシウム･マグネシウム･リン･カリウムその他のミネラルをも供給してくれる。J･I･ロデイル著，「食物と栄養の全書」という書物によれば，ジャガイモは，「ミネラルやビタミン類を多量に含んでいるゆえ，たとえ，他の食物がいっさい手にはいらなくても，ジャガイモがあれば，ある期間，十分に生きてゆける」とのことである。
ビタミンやミネラルを最大限保持させる料理法として，前述の権威者は，皮をむかずにジャガイモをゆでることを勧めている。そして，「圧力がまやオーブンで料理すれば，そうした栄養素は多少失われるだけですむが，皮をむいて，ゆでると，ビタミンCはおよそ47％も失われ，それをマッシュポテトにすると，さらに，10％失われてしまう」と付け加えている。
こうした二，三の事実を考えただけで，ジャガイモが諸国家の，特に東欧諸国家全体の存亡にかかわる重大な要素の一つとされる理由が理解できよう。ジャガイモはほとんどあらゆる大陸また海洋の島々で産するとはいえ，その最大の産出国は，なんといってもソ連とポーランドであり，これら二国の生産高は合計すると，世界の総生産高の48％を占めている。アメリカは1年に1,500万トン余のジャガイモを生産する。
もちろん，こうした膨大な生産高についてうんぬんする場合，それはもはや，バケツを片手に裏庭にかけ出してゆく少年のこととはわけが違う。それどころか，ジャガイモの生産は今や，植え付け，収穫，選別を複雑な機械で行ない，温度や換気を注意深く調整できる貯蔵所を必要とする一大産業となっているのである。生物学者は，風味や外観のすぐれた，作物の病気に対する抵抗力の強い，また，収量の多い新品種を生み出すため，ジャガイモの品種改良の研究を続けている。現在でさえ，単位収量の点では，どんな殻物でもジャガイモにはかなわない。
自家栽培
ジャガイモの栽培に適しているのは，日照時間が長く，しかも，あまり暑すぎず，温度が高く，かつ，湿気をよく保つ土壌に恵まれた地方である。読者の住んでおられる地方の風土がこうした条件にある程度かなっており，そのうえ，わずかでも土地を持っておられるなら，ジャガイモの自家栽培を始めてはどうであろうか。大規模な栽培に用いられる機械類のことを意に介するにはおよばない。土を柔らかにして，うねりを作り，“種”を植えて，土をかぶせるだけでよいのである。ジャガイモを植えた経験は一度もないかもしれないが，種となるのは，ほかならぬジャガイモそのものである。ジャガイモを幾つかに切り，“目”もしくは，芽の出る部分が少なくとも一つついたのが種になる。
土壌を肥よくにするには，馬小屋のこやしやたい肥，海藻や市販の良質の合成肥料を施せばよい。ニューファンドランドでは，ケルプや，ワカサギ科の小魚を肥料にして，良い成果を上げている。その種の小魚は，ジャガイモの茎や葉が畑に姿を現わす時節になると，海岸に群がるので，それを取ってジャガイモ畑にまき，その上に土を薄くかける。
植え付けてから大体3か月して，食用に適するほど十分に大きくなったジャガイモは，バターを添えて熱いうちに食べたり，冷いサラダにして食べたりすると，実においしい。必要に応じて，また，なお良いのは，若い男の子か女の子を畑にやって，新鮮なジャガイモを掘ってこさせることである。子どもたちはそうするのをたいへん喜ぶものだ。ただし，十分の時間の余裕を見ておかねばならない。ジャガイモの塊茎の大小や形状のさまざまなのを見て，子どもたちはたいてい，いろいろと想像をたくましくするからである。
ジャガイモに関する他の事がら
生育中のジャガイモの茎や葉のどこかに害虫が現われたなら，もっとも，たいていそうした事態は避けがたいものであるが，家族総出で害虫を除去し，紙の容器に集めて，焼き捨てなければならない。害虫に侵されていることを示すしるしを見てとったなら，直ちにそうしなければならない。さもないと，葉や茎が侵されて，ジャガイモは成熟しなくなる。大規模な栽培の場合には，害虫の発生を食い止めるために，ジャガイモ畑に殺虫剤が定期的に散布される。
収穫の時が訪れ，また，冬期の使用に備えてジャガイモを貯蔵する時がきたなら，家族がみんなで力を合わせて働く喜びを味わえるであろう。貯蔵をするのは，温帯地方であれば，草木の葉が枯れて，初霜がうっすらと降りるころである。堅くて質の良い大型のジャガイモは貯蔵用に，また，ほかのものは早く使用する分として仕分けすればよい。
ジャガイモを冬中良好な状態で保存するには，貯蔵所の温度を4.5度ほどのひんやりとした状態にしておかねばならない。温度がそれより下がると，望ましくない甘いかおりを発するようになり，逆に温度がもっと上がると，ジォガイモは発芽して，しなびるおそれがある。同時に，貯蔵所に必要なのは，暗さと適度の湿気および空気の流通である。そうした条件が整っておれば，余分の湿気や生のジャガイモから出る熱は除去される。
一袋の種イモを植え付けて，5倍，6倍，7倍，あるいはそれ以上の収穫に恵まれるかどうかは，季節の長短や土壌の質，また，害虫や雑草の駆除にあたる家族の協力いかんにかかっている。しかし，こうして食費を節約できるのは，家庭栽培のもたらす益のほんの一部にすぎない。それとともに，老若を問わず家族みんなが協力して成果を上げる時の真の喜びと満足感を味わえるのである。町の店に出かけて行ってジャガイモをひとかかえ買ってくるよりも，夕食用に畑から掘ってくるほうが，はるかに健康的ではないだろうか。