雨と風から得られるエネルギー
太陽のエネルギーを利用する直接的な方法のほかにも,そのエネルギーを間接的な仕方で捕らえる方法は数多くあります。流水は,粉ひき,生地の目を詰めること,揚水その他数々の目的で水車を回すために,1,000年以上も昔から用いられてきました。水は,蒸発と降雨という自然の過程によって,海から水源地へ戻されます。その過程すべては太陽の放射からエネルギーを得て行なわれます。ですからそれはいつになっても再生可能で,毎年毎年安定したエネルギーを供給する源です。
大小様々な河川にダムを造ることによって,水力発電のために四季を通じて継続的にエネルギーを供給する手段が備えられました。流水が非常に豊富なために,それが最も重要な電力資源となっている国もあります。ノルウェーは自国の電力をほぼすべて水力発電でまかなっています。しかし,世界的に見ると,水力発電は他のエネルギー源と比べて,それほど重要ではありません。人類のエネルギー消費量全体のうち,水力発電の占める割合は約5%に過ぎません。世界の多くの土地で,利用可能な水力資源はすでに開発されており,増大するエネルギーの需要を満たすために付け加えられるものはほとんど残されていません。
周囲の環境の中からエネルギーを取り出す別の古来の方法は風車です。これもやはり太陽に依存しています。というのは,風向きや風力を決める天候や天気の相違を生み出すのは太陽だからです。
風車は世界の各地でなじみ深い建物となってきました。オランダの美しい風車は,堤防で囲まれた低地から水をくみ出すのに用いられました。18世紀には,製材所や石うす,そして繁栄する工業地帯に動力を供給するために風車が用いられました。ひところは無数の風車が米国中世部の平原に点在していました。その大半は井戸から水をくみ上げるのに用いられましたが,電源としても用いられました。20世紀になると,ガソリン・エンジンが風車に取って代わりました。
しかし,石油がその優勢な地歩を失いつつある昨今,風力エネルギーに再び人気が集まっています。新しく風力エネルギーに対する関心が高まってきたのは,風の持つ潜在力が考えられていたよりもずっと大きいことが分かったからです。最近の報告の中で,カリフォルニア大学の一科学者は,世界的な見地に立つと,風から得られる電力だけで,人類のエネルギー総需要の20倍をまかなえる,と論じています。米国の場合でさえ,風力資源が徹底的に開発されれば,現在消費されている電力の75%をまかなうに足るだけのエネルギーを得ることができます。風に秘められているエネルギーが,日光に含まれるエネルギーにほぼ匹敵するというような土地も少なくはありません。
風から電力を得るように設計され,試運転された機械には実に様々な形式があります。高い塔の上にある翼のない小さな飛行機のような形をした物体に取り付けられた,二枚か三枚の翼のついた回転翼を使う装置もあります。19㍍の翼を持つそのような機械は,現在200㌔㍗の電力を発電しており,風が吹けば,米国ニューメキシコ州クレイトンの1,300戸の六分の一に十分の電力を供給します。そして,その地では九割がた風が吹いているのです。1978年当時,その電力のコストは石油から得られる電力の三倍でしたが,より大きな機械が設置され,大量生産ができるようになれば,コストは安くなるものと期待されています。片や,石油の価格は急騰しています。
同様の機械は数か所で試運転されており,これまでに造られたものの中では最大の2,000㌔㍗の風力発電機が米国ノースカロライナ州ブーンの近くにある山の頂に建造されました。カリフォルニア州中部の風の強い峠には,私企業の手で一群の風車が建てられることになっています。もしそれで採算が取れるようなら,要所要所に幾百もの風車が設置されることになります。
別の形式の風車の場合,垂直な軸に湾曲した翼が上と下で取り付けられています。その姿は,巨大な電動泡立て器を思わせます。この形式だと,風の吹いているほうに風車を動かす必要がありません。他の形式のものと同様,この型もある一定の最低限の風速 ― 普通,毎秒約3.6㍍ ― が得られると,動き出します。また,風が強すぎる場合には,損害を被ることにならないために止まるようになっています。
もう一つの変わった機械は,全面に垂直の翼板の付いた,円筒形の固定された塔です。この翼板は,塔の風上に向かった側では一定の角度をもって開いており,風下に向かった側では閉じています。塔の中へ入った風は,らせん状の循環パターンに導き入れられ,上方へ向かい,小型の竜巻きを起こします。空気は底の方から中央の気圧の低い部分へ流れ込み,その際に,比較的に小さい羽根車の付いた,高速で回転するタービンを動かします。
そのほかにも様々な形のものが考案され,開発されています。この分野では,風で電気を起こす方法について,ざん新なアイデアがまだまだあり,最終的にどの方法を使えば一番安く電力を生産できるようになるかは,だれにも予告できません。それで,競合する数多くの設計図を基に,精力的な研究が行なわれています。
風力を他のエネルギー源と比べる場合に考慮しなければならない一つの要素は美観の問題です。所々に風車が見られるのなら絵にでも描かれそうな景色とされるでしょうが,風車の列が長々と続くのでは景観を損ねることになりかねません。また,付近一帯のテレビの受像を妨害するのではないかという懸念もあります。
現在の見通しでは,風力エネルギーは少なくとも昔日の重要性を取り戻し,場合によってはエネルギー情勢の中にあって,一層大きな役割を果たすようになるかもしれません。様々な推定によれば,西暦2000年には米国のエネルギーの1%ないし10%は風力によってまかなわれるようになるとされています。
供給のむらをなくす
太陽が照っていない時や風の吹いていない時,そうしたものをエネルギー源としている装置から得られる電力は止まってしまいます。もしそれが水力発電所や石炭火力発電所など別の電力系統に付け加えられたものであれば,こうした変動も問題にはなりません。操作をする人は,日中の需要に応じて調整するのと同じようにして,変化する太陽あるいは風力エネルギーを補充するために,主要な発電機の出力を調整するだけでよいのです。
目的によっては,“好機を逃さない”という原則に基づいて,太陽エネルギーだけを用いることもできます。それが貯水池への揚水,アルミニウムの電気化学的製造,水素の生産などに用いられる場合,太陽が照っている時だけ作業を行ない,照っていない時には作業をしなければよいのです。
しかし,エネルギーを蓄えるために何らかの手段を講じなければならないような用途も少なくありません。自動車の場合に長年行なわれてきたように,蓄電池<バッテリー>を使えば電気を蓄えることができます。しかし,普通の家庭の電力需要を満たすために通常の鉛蓄電池を使うとすれば,その数とかさは手に負えないものとなるうえ,高くつきます。幸いなことに,最近の研究から,かさは小さくても大量の電気エネルギーを蓄えることのできる,新型の固体電解質電池に期待が寄せられています。
そのような蓄電池が実用化すれば,電気自動車は今日よりも実際的なものになるでしょう。自動車の所有者は,自宅で,また職場や買い物先の駐車場で,コンセントから自分の車に充電することになるでしょう。蓄電池と共に太陽電池が改良されれば,太陽電池板を車の上に載せ,車の動いている時や駐車中に蓄電池を充電するというのも夢ではなくなるでしょう。そのような自動車の試運転が現在,米国フロリダ州で行なわれています。カリフォルニア州の冒険心にあふれた発明家に至っては,軽飛行機の翼に太陽電池を載せ,それを蓄電池につないで,太陽エネルギーで飛べることを実証することまでしました。
大規模な発電所の場合,エネルギーを蓄えるに当たって,それを他の形のエネルギーに転換したほうが実際的かもしれません。例えば,晴天の日や風の吹いた日に起こされた余分の電力を使って,貯水池へ水をくみ上げることができるでしょう。そして,その水を落下させることによって起こされる電力を,夜間や風のない時に使えます。提案されている別の方法は,自然の地下のほら穴に圧縮空気を送り込むものです。あるいは,巨大なはずみ車の回転運動量を利用して,力学的エネルギーを備蓄することができるかもしれません。着想がこのように多岐にわたっているのですから,太陽および風力エネルギーが広く利用されるようになれば,エネルギーの使い方も変わって来ることでしょう。
日光の貯蔵法
太陽エネルギーを活用する別の方法は,太陽の光化学反応による燃料の生産です。自然界に見られるこの種の作用は光合成です。緑色植物は太陽光線を使って,炭水化物のようなエネルギーに富んだ化合物を作ります。人間は,薪を燃やして食物を調理し,住居を暖めることにより,初めて太陽エネルギーを活用するようになりました。
発酵という自然界に見られる別の作用を利用して,数多くの植物からアルコールを造り,燃料として使うためにそれを抽出することができます。車のエンジンを換えないでも,自動車のガソリンに10ないし20%のアルコールを混合することができます。純粋のアルコールを燃やす方式にエンジンを転換することもできます。現在のところ,ガソリンよりアルコールのほうが高価ですが,情勢は変化しつつあり,自動車を持つ人は“ガソホール”という混合物を使うようになってきています。ブラジルは,アルコールを生産して,石油の輸入から自立するために,集中的な計画事業を行なっています。商業ベースでの生産に向けて,より経済的な工程を求め,育ちの早い各種の植物が研究の対象になっています。太陽エネルギーを活用するそのような方法は,“バイオマス”という用語で分類されます。
進歩的な科学者の中には,太陽光線を使って,水を直接,水素と酸素に分解しようとしている人もいます。もちろん,電気分解によっても行なえますが,それらの科学者たちは光化学的な手法を見いだそうとしているのです。必要とされているのは,その反応を起こさせるための触媒です。すなわち,水と二酸化炭素から糖類を作り出す際に葉緑素の果たす役割を担う物質が必要とされているのです。それが発見されれば,将来,圧縮水素が自動車の燃料として用いられるようになるでしょう。
太陽光線を使って生産されるアルコールや水素のような燃料には,炭化水素と比べた場合に,非常に優れた利点があります。そうした燃料は環境を汚染しないのです。その上,化石燃料とは違って,自然界の二酸化炭素のバランスを崩すことはありません。そのエネルギーの供給は年ごとに大気中から取られ,再び大気中に環元されて循環するからです。
[10ページの拡大文]
一科学者は,風から得られる電力だけで,人類のエネルギー総需要の20倍をまかなえる,と論じています
[10ページの拡大文]
風に秘められているエネルギーが,日光に含まれるエネルギーにほぼ匹敵する土地もあります
[11ページの拡大文]
太陽電池板を電気自動車の上に載せ,車を運転している時や駐車場に蓄電池を充電するというのも夢ではなくなるでしょう
[11ページの拡大文]
アルコールは植物の材料から製造され,燃料として利用することができますし,燃焼に当たって公害を出しません
[12ページの囲み記事]
地底から得られるエネルギー
原子力エネルギーを別にして,過去においても現在においても太陽から来たのではないエネルギーがもう一つあります。それは地球の内部に秘められた地熱です。地底へ向けて穴を掘削する人々の間では,穴が深くなればなるほど熱くなるということが古くから知られていました。また,土地によっては,地表近くに熱源の存在する所もあります。溶岩を山腹に噴き出す火山の爆発の景観は,このエネルギーを最もドラマチックに表わしています。それよりも少し穏やかなのは,蒸気と熱湯を空高く吹き上げる間欠泉です。さらに穏やかなのは,人々が保養のためにやってくる温泉です。
科学者たちの考えによれば,地熱は地球を造り上げている金属や岩石などの物質が重力により圧縮された結果として生じたものです。地球全体がどろどろに溶けていた時があったと思われます。地殻のほうは冷えましたが,内部はまだ熱いのです。残っている熱は常に地表に向かって流れており,ある場所では他の場所よりもその速度が速くなっています。この原初の熱は,地殻に含まれるカリウム,ウラニウム,トリウムなどの元素の放射性崩壊によってさらに熱くなります。
地熱を利用しやすい所では,それは有用なエネルギー源になっています。イタリアのラルデレロには,1904年以来,発電機を回すのに利用されている蒸気孔があります。カリフォルニア州ガイザービル近郊にある大発電所は,乾いた蒸気を使って50万㌔㍗以上の電気を起こしています。
熱い岩の層から得られる過熱状態の熱水も,地表へ導き出され,圧力が減ると,やはり蒸気の供給源になります。ニュージーランドやメキシコは,熱水を発電に利用しています。この種のものとしては米国で第一号になる発電所がカリフォルニア州エル・セントロ近郊に現在建設されています。それは5万㌔㍗の電力を生産することになりますが,そこの地熱地帯は,その出力を10倍にまで拡張しても十分にやってゆけると見込まれています。
地熱エネルギーは非常に膨大なものなので,人間の需要と比べれば事実上無尽蔵と言えますが,それを利用できる地域は比較的限られています。現在のところ,その有用な潜在力は,地表のどこでも得られる太陽光線や風に秘められた幾千倍もの潜在力と比べれば,ごくわずかなものに過ぎません。