太陽エネルギーの利用
強い日差しの下にドアを閉めたまま長時間駐車させてある自動車の中に入った経験がありますか。車内は熱気で蒸し返り,耐えられないほどです! 確かに,太陽には膨大なエネルギー源としての可能性が秘められています。このことに疑問の余地はありません。
考えてみてください。太陽エネルギーの利用によって,暖房用の熱源,家庭電気製品や都市部の照明に必要な電力,乗物を動かす動力,またそのほかに必要なエネルギーが得られるのです。事実,膨大な量のエネルギーが太陽から地上に降りそそいでいるため,地球がわずか15分間に受ける太陽エネルギーを利用するだけで,全世界の一年分の必要量を十分にまかなうことができるのです。
しかし,この点に懐疑的な人もいます。実用的なエネルギー源として用いるには,太陽光線は拡散しすぎている,と言うのです。しかし,プロフェッショナル・エンジニア誌の編集長J・T・ケーンによると,「米国内の一般の建物には,その建物の暖房に必要な量の六倍から十倍のエネルギーが,毎年太陽からそそがれて」います。
ところで,太陽エネルギーの利用は本当に実用的でしょうか。今日家庭でこの途方もないエネルギーを経済的に利用できるでしょうか。
実用的なエネルギー源?
太陽エネルギーを利用する面で,すでに長足の進歩が見られていることに驚かれるかもしれません。著名な地質学者M・キング・ヒューバート博士は次のように述べています。「太陽エネルギーの実用化は,単なる理論ではない。我々がここで論じているのはすでに実現している事柄,すでに実行できる事柄なのである」。
それにはどんな事柄が含まれていますか。例えば,太陽エネルギーを利用して,家庭に電気を供給することができますか。ニューヨーク・タイムズ紙の編集長にあてた手紙の中で,米上院議員ジェームズ・アバウレツクは,「太陽エネルギーを相当量の電力に変換する技術はすでに確立されて」おり,それゆえ,「太陽エネルギーを有効な電力に変換すべく,本腰を入れるべきである」と勧めました。
しかし,まだ経済的にそれを行なえる段階には至っていません。確かに,太陽エネルギーを利用して家庭で必要とする電力すべてをまかない得ることには疑問の余地がありません。軌道上の人工衛星は,積み込まれている電気装置の電源として太陽エネルギーを利用しています。しかし,太陽光線による発電は費用がかかりすぎて,まだ実用化されるには至っていません。
大半の専門家は,太陽エネルギーを利用する面での第一段階が発電よりも,冷暖房装置や給湯装置にあると考えています。現在でも多くの家庭で太陽エネルギーをそのように利用することは実用的である,と語る専門家もいます。この場合,太陽熱を吸収して蓄え,暖気を循環させて部屋を暖めたり,熱を利用して,冷房装置を動かしたりするのです。
太陽熱利用の開発研究を行なっているアーサー・D・リトル社の販売・営業担当取締役D・エリオット・ウィルバーはこう語っています。「建物の中に太陽熱暖房装置を取り付けるのに必要なすべての機材は現在市販されている。今日必要とされているのは,これらの装置を一括して売りに出す会社が名のりを上げることである」。
そうした会社が近い将来に出現するでしょうか。リトル社の副社長ピーター・E・グレイザーは,この点で楽観的であり,「三年から五年のうちには,シアーズ社[米国の大手通信販売会社]のカタログを見て太陽熱暖房装置を購入できるようになるに違いない」と語っています。
こうした楽観論には確かな根拠がありますか。太陽熱暖房装置を大量に生産する企業が,これから発達していくでしょうか。
高まる関心 ― その理由は?
太陽エネルギーに対する関心が高まっていることには疑問の余地がありません。昨年の5月,米国の首都ワシントンで開かれた,太陽エネルギー産業振興会主催の太陽エネルギーに関するセミナーには何千人もの参加者がありました。また,フロリダ州ウィンターパークの環境情報センターが,“太陽熱による温水装置の作り方”と題する無料の小冊子を発行したところ,わずか10日間で,初版5,000部が無くなってしまいました。
新聞や雑誌は,太陽エネルギーが,水泳プールの水を暖めるため,また家庭や学校などの建物の暖房のために利用されているなどといった記事を非常に多く載せています。そうした記事の幾つかを次に紹介します。
◆ コロラド州の宅地開発業者は,太陽熱暖房装置を分譲マンションに取り付けている。
◆ カリフォルニア州のサンタクララ市では,太陽エネルギーを利用した冷暖房装置付きの公民館が新たに建設される予定である。
◆ ジョージア州アトランタのある学校では,太陽熱暖房装置の取付け工事が行なわれている。一方,首都ワシントン,ボルティモアおよびボストン近郊の学校では,太陽エネルギーによる暖房がすでに行なわれている。
◆ バーモント州の新しい休暇村とスキー小屋には太陽光線による暖房が計画されている。
◆ 米国西部の農場主たちは,穀物の乾燥に従来のプロパンガス乾燥機の代わりに,太陽熱集熱器を用いる計画を進めている。
何が原因で,太陽エネルギーに対する関心がこのように高まっているのですか。その主な理由は,現在の発電体系に変化が生じるのは避けられない,という人々の自覚にあります。そうした変化は生じるに違いありません。それはなぜですか。なぜなら,石油,天然ガス,石炭などの主要なエネルギー源には限りがあり,加えて,専門家の間でこれらの埋蔵量が間もなく底をつくであろうとの意見が出されているからです。すでに燃料の価格は急騰しており,その上こうした燃料の使用による環境汚染も大きな問題となっています。
太陽エネルギーの将来は明るい
太陽エネルギーには多くの利点があるとされています。太陽エネルギーは,無尽蔵であり,まただれでもその恩恵にあずかれ,環境を汚染することもなく,それに全く無料です。ただそのエネルギーを利用するための設備費がかかるだけです。太陽熱暖房装置が大量に生産されるようになれば,その価格は,従来の暖房装置より安くなるだろうと言われています。
太陽エネルギーの利点に気付いている多くの科学者は,それを大規模に利用するよう勧めています。ニューヨークの化学者ハロルド・I・ゼリガー博士は,ある国際環境会議で,「世界のエネルギー汚染問題の長期的な解決策は,太陽エネルギーの利用以外にないように思われる」とまで語っています。
政府も,このエネルギー源に次第に信頼を寄せつつあります。米国政府は幾年にもわたり太陽エネルギー開発計画に年間10万㌦(約3,000万円)ほどの予算を組んでいたにすぎませんでした。ところがこの予算は,1973年には400万㌦(約12億円)に急増し,また1975年には2,500万㌦(約75億円)に達したものとみられています。議会筋の予想によれば,1976年度には太陽エネルギーの研究開発に1億㌦(約300億円)以上の予算が組まれる模様です。
ある国では,太陽熱を利用して多量の温水を得る装置がすでに実用化されています。例えば,日本では,1974年中に16万個の太陽熱温水器が販売されました。イスラエルでは,同様の太陽熱温水器が約15万個普及しています。これは五世帯に一個の普及率です。またオーストラリアでは,太陽熱温水器が推定1万軒の家庭で使用されています。
米国でも,太陽光線がまもなく重要なエネルギー源となることでしょう。驚かれるかもしれませんが,普通の家庭では,給湯および冷暖房費が光熱費の八割以上を占めています。そして米国では,エネルギー需要量全体の四分の一以上が給湯および冷暖房のために費やされているのです。ですから,こうした目的のためだけに太陽熱が利用されたとしても,毎日幾億リットルもの石油が節約されることになります。
昨年行なわれたある研究によると,米国では,200軒近くの太陽熱暖房装置付き家屋が完成しているか,あるいは計画・建設中です。そうした家屋に必要な装置を取り付けるため,太陽熱利用機材産業が生まれました。事実,こうした機材を生産する会社が数十社はあると言われています。ところで,今日の太陽熱利用装置にはどんな事が関係しているのだろう,と疑問に思うかたもおられるでしょう。
太陽エネルギーの利用法
こうした産業は生まれて間がないので,ほとんど規格化されていません。しかし基本的な装置としては,太陽熱集熱器,貯湯そうおよび給配装置などがあります。
集熱器は,太陽熱を最大限に吸収できるような角度で,大抵屋根の上に置かれます。集熱器の基本原理は,温室のそれと同じです。黒色の吸熱板がガラスまたはプラスチックで覆われています。これら吸熱板のあるものは,黒色の特別な吸熱塗料を塗ったアルミニウム板で出来ています。この黒色板の中にパイプを巡らし,液体 ― 一般には水 ― を通します。ある装置の吸熱板は波型になっており,ラジエーター状のパイプが溝にはまるようになっています。
ガラスやプラスチックを透過してきた太陽光線は,黒色吸熱板に熱の形で吸収されます。吸熱板の中を流れる水は摂氏90度以上に熱せられ,通常地下にある貯湯そうに流れ込みます。しかし,簡単な給湯器の場合,タンクは大抵屋根の集熱器のそばに取り付けられます。四人家族の家庭に給湯するには,容量530㍑ほどの貯湯そうがあれば十分でしょう。
しかし,冷暖房に用いる場合には,米国の平均家庭で容量2万㍑前後の貯湯そうが必要です。ある暖房装置はこんな仕組みになっています。まず,温水は貯湯そうから吸み上げられ,導管内のらせん状の発熱管に流されます。それから,らせん状の管に空気が吹き込まれ,こうして暖められた空気が循環して部屋を暖めるのです。
冷房に用いる場合には,ガスバーナーの代わりに温水を熱源とするように改造した冷房装置に温水を通します。太陽熱を利用した冷房装置は大いに見直されていますが,これは,日差しが強くて,冷房が必要になればなるほど,冷房装置を動かすのに必要なエネルギーがそれだけ十分に得られるからです。
しかし,効率の良い太陽熱暖房装置を大量生産することは今日可能でしょうか。それが可能であると考える科学者は少なくありません。ニューヨーク州北部のシラキューズ大学の二人の教授は次のように書いています。「大規模に実用化するための技術は十分に確立されている。シラキューズ大学エネルギー調査研究協議会のメンバーを含む,何人かの研究者,技術者,建築家は,現在,当地の緯度においてさえ,暖房に太陽エネルギーのみを利用する家屋を建築することは可能であると考えている」。
先にも指摘したように,太陽エネルギーの専門家の中には,三年から五年もすれば,太陽熱暖房装置が市販されるようになる,と考える人もいます。しかし,太陽エネルギーの研究に何年間か携わってきたシカゴ大学の教授ローランド・ウィンストンはこう警告しています。「今のような,太陽熱利用の家屋がほんの一握りしかない時代から,シアーズ社で太陽熱暖房装置を購入できるようになるまでには,長い道のりを経なければならない」。
この点で,これからの進歩を見守るのは興味深いことです。ところで,太陽エネルギーを利用した発電の見込みについてはどうですか。
太陽エネルギーを利用した発電
よく話題となる太陽エネルギー利用の発電法には二種類あります。その一つは,太陽光線によって液体を熱し,生じた蒸気で発電機のタービンを回転させるものです。13平方㌔から18平方㌔の敷地で太陽熱を集めるなら,最大規模の原子力発電所の発電力に匹敵する発電施設を操業させることができると考えられています。こうした太陽熱利用の発電所の建設を提唱してきた人はこれまでに何人もいました。
ミネソタ州立大学の機械・航空工学部部長R・C・ジョーダン博士は次のように語っています。「既存の機材と工法を用いで,地上のどの地点においても,降りそそぐ太陽エネルギーの二割を熱エネルギーに,次いで使用できる電力に変換するのは可能と思われる。こうして,今後幾年にもわたる国内の電力需要を十分まかなえ,しかも,砂漠など国内の未使用の土地を利用すれば,妥当な生産費で,汚染の心配なく発電を行なえる」。
しかし,この種の発電所を建設することは問題の正しい取り組み方ではないと考える人もいます。世界有数の太陽エネルギー研究所の所長エーリック・A・ファーバー博士はこう語っています。「アリゾナ州に大規模な発電所を建設し,そこで得られた電力をフロリダ州に送る必要はない。太陽エネルギーは,あなたの家の屋根に,あなたの家の敷地に,あなたの家の壁に降りそそいでいる。あなたの住んでいる所で,太陽エネルギーを経済的に利用できる。大規模な太陽熱発電所は必要ない」。
確かに,家庭で太陽光線を電力に変えることができます。太陽電池を利用してそうすることができるのです。この電池はオブラート状の薄いシリコンの細片で出来ており,日光がその表面に当たると電流が生じるのです。現在この種の光電池は,地球の軌道上を飛ぶ人工衛星の電源として用いられています。こうした持続性のある電池を屋根の約90平方㍍の範囲に取り付けておけば,近代設備の整った家庭の必要とする電力をまかなうことができます。しかし,太陽電池は非常に高価なため,こうした用途には向きません。とはいえ,米上院議員ジェームズ・アバウレツクの意見によれば,必ずしもそうとは限りません。
同議員は次のように語っています。「現在,光電池を製造している研究所は全国に多数あり,これが大量生産されるようになれば,(太陽電池の技師の意見によると)他の形態の起電装置と張り合うようになろう。……そして,太陽エネルギーを電力に変換することは,米国のすべての家庭に太陽熱冷暖房装置を設置しようとする試み以上に,より多くの人にいっそう大きな影響を与えることになろう」。
太陽エネルギーの将来はどうなるか
確かに,太陽は,人類の必要に資するため利用できる,汚染のない豊かなエネルギー源です。人類は果たして,これをどのように,またいつ利用するようになりますか。これは考慮に値する質問です。
前途には障害のあることも容易に認められます。マシン・デザイン誌は次のように述べています。「太陽エネルギーがこれまでほとんど無視されてきたのは,経済体制や既得利権,埋蔵燃料体系に基盤を置く政府の官僚主義に責任があるように思われる」。
こうした障害は克服されるでしょうか。汚染のないエネルギー源を開発し,急速に枯渇しつつある石油,天然ガス,石炭などの資源を節約するという真の公約があるでしょうか。今後の成り行きを見守るのは興味深いことです。