教える技術を向上させる ― 研究生の信仰を築く
1 研究生が霊的に成長して救いに至る道を歩むようになるためには,早い時期に安定した信仰を築くことが必要です。信仰を築くための土台には,(1)聖書を神の言葉として受け入れ,(2)エホバに感謝の念を抱くという二つの面があります。この土台をいつ,どのように据えることができるでしょうか。『永遠に生きる』の本を例として考えてみましょう。
聖書を神の言葉として受け入れる
2 研究生の背景や境遇を考慮し,研究の速度と学ぶ章の順序を計画してください。最初の段階では研究生の理解力に応じて,学ぶ資料の量を調整することができます。この場合,1回の研究で一つの章を学ぶ必要はないでしょう。一人の特別開拓者の姉妹は,1章の扱い方について次のように述べています。「研究を始めたばかりの人にとって,最初の章はとても大切だと思います。新しい知識に接したばかりですから,ここで難しいとか,理解しにくいとか,ついてゆけないという印象を与えないようにします」。それでこの章を司会する際,研究生が聖書研究に十分の興味を持ち続けるよう助けることができます。
3 章の順序に特にこだわる必要はありません。ある研究生は,本の目次を見て,自分が関心を抱いていることとこれから学ぶことになる章の内容が異なることに気づくかもしれません。例えば,家族生活に関心があり,聖書から何らかの導きが得られると考えて研究に応じた主婦の場合,こうしたことが生じ得ます。このような場合,研究司会者は躊躇することなく,「家族生活を成功させる」(29章)に進むことができます。1章を討議した後に,「聖書には,あなたが関心をお持ちの家族生活のあり方に関する豊富な情報も含まれています。来週はそのことについて学んでみましょう」と述べ,29章を2回ほどに分けて扱うことができます。この章を早い時期に学ぶことにより,聖書の実際的な価値を認識するよう研究生を助けることができます。
4 2章と3章は,いずれも日本人にとってはどちらかといえば難解な章です。これまで学んできた基礎的な教理や建設的な内容と比べ,サタンの存在とその影響力および宗教という論題に正面から取り組んでいるため,研究生の中には,先のことを心配する人がいるかもしれません。それでこれらの章を,ころあいを見計らって学ぶことにするか,あるいは後の日の研究に備え,大まかに学ぶことにするかを司会者自身が見極めることができます。
5 次に,5章「聖書は本当に神から与えられたものですか」を2回ほどで扱うことができます。この章では信仰を築くための基礎となる,神の言葉 聖書について学びます。1回目の研究では,「見よ!」の研究である程度の理解が得られているなら,12節以降の討議で,聖書が苛酷な反対の中でも存続し,人々に流布されていった貴重な本であることを銘記させ,聖書に対する敬意を培わせることができます。この章の2回目の研究では,聖書の記録の真実さが考古学と歴史によって確証されていることと聖書預言の成就を調べることに十分の時間をかけます。ここまでの研究を通して,研究生は聖書が非常に魅力的な本であることを確信するよう助けられるに違いありません。
創造者を認め,愛する
6 次に信仰を築くうえで不可欠なエホバ神の存在を確信するという論題を取り上げてみましょう。4章「神とはだれですか」は,何回かに分けて徹底的に扱うことができます。もちろんこの章を司会する際,司会者は研究生が神についてどのように考え,感じているかを知る必要があります。討議に入る前に,神についてどのように考えているか率直に尋ねてみてください。その際,研究生が創造者を認め難く思っている原因を本人が意識するよう援助することができます。
7 日本人の「神」という語に対する理解や認識は,聖書的な観念とは全く異質のものです。したがって人々が創造者を確信できない理由として次のようなものが考えられます。(1)自然そのものを崇拝の対象としてきたため,造物主という概念を抱きにくい。(2)神道,仏教,儒教などの日本古来の宗教はいずれも人格的存在である神を教えていない。(3)進化論と創造論の両方の知識の不足で結論が出せないと感じている。
8 司会者が研究生の必要を見極め,4章のどの部分に特に時間をかけるべきかを見定めることができます。この章は極めて重要な章ですから,研究生が学んでいる事柄を本当に理解し,感動を覚えているか絶えず確認するようにしてください。まず,思いの中に創造者の存在を確信させる考えを植え込んでください。例えば,3節を司会する場合,「聖書筆者の道理にかなった結論をわたしたちは受け入れることができるのではないでしょうか」という問いかけがあります。ヘブライ 3章4節の家の例えについては,すでに「見よ!」のブロシュアーで学んでいますが,さらに納得させるため,より十分な証拠を時間をかけて話し合う必要があります。「創造」の本の10章や「論じる」の本の289ページから291ページには豊富な情報が収められていますので,是非活用してください。
9 6節から9節は,研究生にとって理解しにくい箇所の一つかもしれません。ここでは,神は特定の場所に存在している霊的な実在者であるという理解を与えることが目的です。それで,研究生が理解しにくく感じているなら,「見よ!」の23節と24節で取り上げられた,エホバ神による霊の体を持つ霊者と目に見える人間や動物の創造を復習し,理解を助けることができます。また,「『理知のあるところには思考力がある』と書かれていますが,この文章の意味がつかめましたか」と尋ね,それから「父を尋ね求めて」の13ページの1節から14ページの副見出しの前までを読み,論理的に物事を考える訓練の機会とすることもできます。
10 欄外に設けられている質問にとらわれ過ぎるなら,かえって研究生を混乱させることもあり得ます。欄外の質問はあくまでも考えを刺激し,要点に注目させるためのものですから,司会者が教えるべき要点を明確にし,研究生の推論を助ける融通のきいた質問に変えても一向に差し支えないでしょう。
11 神が目に見えないため,神の存在を信じにくいと感じている研究生は少なくないようです。8節と9節では,発電所の例えが記されていますが,「あなたは,発電所がどこにあるかをご存じですか」,「発電所を見学したことがなくても,またどこにあるかを知らないとしても,この部屋の蛍光灯が部屋を明るく照らすという事実が,発電所が確かにどこかに存在しており,発電所が稼働し送電が行なわれている証拠であることを認められるのではないでしょうか」と推論させることができます。
12 9節までで創造者の実在を思いの中で理解できるよう助けることができたなら,10節から13節では,神に対する愛を培うよう心を動かすことに力を注いでください。しかし,この部分は今後の研究生の成長に極めて大きな影響を与える第一の山場ともいえるところですので,惜しまず時間をかけてください。『エホバがどんな神なのか』ということを理解するよう教えるだけにとどまらず,『それゆえにエホバ神との親しい関係を培い,エホバに感謝や賛美をささげるべきである』と感じるように心を動かすことを最大の目標としてください。
13 人格神としての神の概念を持ったことのない多くの日本人にとって,10節から13節の資料だけでは少ないので他の資料から補強する,と述べる開拓者は少なくありません。「創造」の10章や「人生」の2章,3章および8章,「父を尋ね求めて」の20ページなどを用いて,エホバの愛と知恵に気づくよう研究生を助け,感謝の念を育ませることができるでしょう。14節からの三位一体について論じている部分では,神とキリストとの関係,また聖霊の意味を正しく理解させることに重点を置いて簡潔に扱い,先に進むことができます。「神のみ名」を扱った18節以降の部分では,「論じる」の本の92ページに説明されている,名前を知ることが神との親しい関係を培う上で不可欠な要素であることを強調できます。
14 25節から始まる「目的を持つ神」の部分では,研究生が神に対する責任に気づくよう助けることを目指せます。そのような神に仕えることは特権なのだということを教えてください。このように説明できるかもしれません。「幼い子供は,自分が快適な家の中に住んでいることも,食事の時においしい食べ物が出てくることも“当たり前”と思っています。良識のある大人なら,それらのことを“当たり前”とみなすのではなく,すべてを備えるために働いた父親を敬い,感謝する責務があることを子供に教えます。もしわたしたちが,『自分が生まれた時からこの地球は存在していたし,その豊かな産物も備わっていた。それがあるのは“当たり前”だ』としか思わず,そのすべてを整えてわたしたちの益を図ってくださった方について何も考えないとしたら,思慮分別のない幼児と異なるところがあるでしょうか」。このように話すことにより,研究生に神と共に歩むことの重要性を教えることができます。
15 4章が終了した時点で,創造者を確信するところまではいかなくても,愛情深い父親としての神の存在について,少なくともその可能性はあるとか存在してほしいという気持ちを持つことができるように研究生を助けてください。もし創造者を身近に感じていないようなら,毎回の研究の後,少しの時間を用いて,自然界に働いている理知ある設計に気づかせる仕方で創造者の存在を教えるよう,あきらめないで努力してください。身の回りにあるものを話題にして,良いタイミングを図って話すことができます。資料は,「創造」の本から選び,簡単な筋書きを準備して興味深く話すことができます。
16 例えば,花が飾ってあれば,146ページからウマノスズクサと昆虫の共存関係について話せます。ピアノが置いてあれば,176ページと170ページの人間の頭脳の造りから,またコップの中に浮かんでいる氷に言及し,137,138ページの特異な物質である水について説明することもできます。小鳥を飼っているなら,161ページから165ページにある本能について説明し,創造者に対する親しい関係を強めるよう助けることができます。これが信仰の主要な土台となるため,研究生が創造者の存在を確信し愛することを妨げている問題を何でも見極め,丁寧にその原因を取り除くことを毎週行なってください。
17 次に,6章「イエス・キリスト ― 神から遣わされた方ですか」も2回ほどに分けて,感動的な仕方で扱うように準備します。この章を扱う際,イエス・キリストについてなじみの薄い研究生のために,「最も偉大な人」の本の前書きからH・G・ウェルズやナポレオンの語った言葉を用いて,イエスの実在性や人格面での偉大さを強調している姉妹もいます。またその本のさし絵の幾つかを見せ,視覚に訴えながらイエスの生涯を簡単に説明した後に,12節までを1回目の研究で扱うこともできます。
18 続く13節から19節は,贖いに対する認識や神とイエスに対する感謝の気持ちを強めるような仕方で丁寧に司会しなければなりません。ある姉妹は,「最も偉大な人」の117章から126章のさし絵に注目させながら,園における苦悶,裏切りと捕縛,尋問,中庭でのペテロによる否認,ピラトの前,引いて行かれ杭の上で苦しまれることなど,死に至る場面を臨場感のある仕方で話したり,聖書から直接読み合ったりしています。神を冒涜したという罪に問われることがいかに心を悩ませることであったか,また身体的な苦しみがどのようなものであったかを,「アメリカ医師会ジャーナル」の「むち棒」に関する説明やいばらの冠に関するところから説明し,研究生の反応に注意を向けることもできます。
19 贖いについて討議している時には,ふさわしいところで休止を置き,「贖いの備えは,わたしたちに対するエホバの愛の深さをどのように強調するものですか」と尋ねることができます。個々の研究生の心の変化に応じて,その人に最もよく理解できる例えや質問を用いるように努力してください。もし研究生が贖いに対して全く反応を示さないなら,後の章で学ぶ事柄はほとんど意味をなさないでしょう。この章は研究生の進歩を大きく左右する重要な部分なのです。
20 こうして愛情深い父やみ子について十分に話し合った後に,2章と3章を扱うことができます。そこには,永遠の命の敵であるサタンと,サタンが用いる偽りの宗教をはじめとする数々の攻撃方法が示されています。ただこの章を扱う際に,やはり「悪魔サタン」,「パリサイ人」,「イスラエル国民」などなじみのない言葉が出てきますので,節を討議する前に,司会者がそれぞれの用語を簡単に説明しておくなら,研究生は討議に容易についてくることができるでしょう。この二つの章で学んだ敵対者サタンと偽りの宗教の関係は,その後に続く,罪,死,魂を論じている7章から9章の良い土台となります。
21 7章は,創造者に対する研究生の認識を最終的に確認するために優れた資料となっています。7章の前半を扱った時点で,創造者に対して確信が抱けないなら,『永遠に生きる』の本からいったん離れ,創造者について論じている他の出版物の幾つかの章や「父を尋ね求めて」などを数回にわたって討議してみることができるでしょう。このように7章までで,研究生が聖書を神の言葉として受け入れ,エホバに感謝の念を抱けるよう,信仰の土台を築くことを目標にして教えてください。
22 この本は,8章から10章にかけて宗教上の偽りの教理がどのように神を辱めているかを論じています。これらの章は,研究生の宗教的な背景に応じて,特に問題とならない点は簡潔に扱うことができます。続く11章と12章では,主権の論争が取り上げられています。13章以降で,主権の論争を解決する王国政府と神の地上の目に見える組織が急速な展開で紹介されています。なお11章と12章は,研究生の生き方に大きな影響を及ぼす主権の論争が論じられていますから,研究生の認識の程度により,十分の時間をかけ,ふさわしい方向づけを与える必要が生じるかもしれません。
23 既にお気づきのように,その資料の性質をよく比較考量した上で,一回の研究における道理にかなった資料の量を判断することができます。信仰の土台を成す部分では,十分の理解を得させ,認識を高めるために必要な時間を取ってください。一方,各章の山場とも言うべき節以外の部分に時間をかけ過ぎたり,すべての節を一様に詳しく討議する結果なかなか先に進まないという別の極端も避けなければなりません。
注意を要する事柄
24 予習は進歩の鍵: 良い予習の習慣が早く身につけば,それだけ研究生の進歩は着実なものとなります。良い予習の習慣を身につけさせるには,研究の早い時期に当人にとって興味のある資料を用いて予習の仕方を実演して見せることが最も効果的です。まず自分自身の用いている出版物を見せ,自分がどのように調べているかを話します。次の週には,必要な筆記用具や定規などを用意してもらった上で,予習の手順を教えながら,その人が興味を持つ資料の一つか二つの節を共に予習することができます。
25 無料の家庭聖書研究の唯一の条件は,予習であることをはっきりと告げてください。前述の方法で4章に入るまでに予習の良い習慣が身につくよう目標を持って研究生を辛抱強く励ましましょう。そのためにも,研究生が早い時期に聖書を持つのは有益です。この研究が“聖書”研究であり,出版物はそのための補助的な役割を果たしていることを強調してください。
26 引用聖句を効果的に用いる: 一部の研究司会者は,本文中に引用されている聖句に十分の注意を払わない傾向があるようです。参考のため出所のみが記されている聖句よりも重要なのは引用聖句であり,とりわけアンダーラインが付されている聖句は重要なポイントとなっています。それで研究する際,これらアンダーラインの引かれている聖句を十分に時間をかけて討議し,なぜそこにアンダーラインが引いてあるかを研究生が推論するよう助けてください。
27 神権的経路を認識させる: 研究生を早い時期に集会に招待することに成功している一姉妹は,「忠実で思慮深い奴隷」,「統治体」,「集会」といった言葉を早い時期から研究生に語るようにしていると述べています。研究司会者が語るすべての事柄は集会という神権的な経路を通して得ていることを時あるごとに語るようにしましょう。研究生にとって集会は魅力的なものであり,出席しないと多くのものを得損なっていると感じるよう助けてください。
28 祈り: 産出的な司会者たちは,4章に入るまでに祈りによって研究が始められていないなら,その章の終わりに祈りを紹介するのはふさわしいと考えています。ある研究司会者は,4章を学び終えた後,27章「祈りを通して助けを得る方法」を先に学び,祈り始めるようにしています。遅くとも6章を学んだ後には研究の前後に祈りを行なうという目標を持つことができます。司会者の祈りが,エホバに『心を注ぎ出し』自分の内奥の感情を言い表わす面で模範となるなら,祈りを聞きそれにお答えになる方としてのエホバに対する認識を研究生のうちに築き上げることができます。―詩編 62:8。
29 意欲を持たせる: 研究生に信仰を築かせ,早い時期に行動を取るよう励ますことができる司会者の特徴は何でしょうか。それは研究生が,学ぶことに喜びを感じるよう司会することです。一地域監督は,「よくねぎらい,小さなことでも大いに褒め,自信を持たせ,喜びを味わわせ,意欲を持たせること」が成長を速めると述べています。
30 産出的な特別開拓者の姉妹はこう述べています。「研究生が自由に伸び伸びと自分の考えを述べるように促し,答えが要点と直接関係のないところでしたら,少しずれていてもその答えに感謝し,そのまま進むようにします」。研究司会者の皆さん,自制を学んでください。各章の重要な部分に十分の時間をかけるためにも,事あるごとに話すのではなく,「その通りです。では次に進みましょう」と述べてください。
31 本文中の字句にとらわれ過ぎる司会者も研究生の進歩の妨げとなっています。研究生が答えている時には,司会者は資料に目を落とさず,研究生の表情をよく観察し,語調や視線や素振りから,どの程度確信や理解が得られているかを観察するようにしてください。前回の復習に多くの時間を費やすなら,研究生は研究の始めから自信をなくし,喜びを失うことになります。おそらく二,三の要点に限って数分で扱うことができます。その週に学ぶ資料と前回学んだ資料が直接関係していないなら,復習する必要さえないかもしれません。
研究生の家族を考慮に入れる
32 できるだけ早い時期から研究生の家族に応じた援助を差し伸べてください。29章を早い時期に司会する場合には,プライバシーを侵害しないような仕方で巧みに研究生と家族の関係を推察することが必要です。特別開拓者の一姉妹はそれとなく次のような質問をします。「ご主人とはよく会話されますか」,「ご主人は子供さんとよく遊んでくれますか」,「わたしが来ていることをご主人さんはご存じですか」。もし意思の疎通がよくなされているなら,毎回の研究でご主人が興味を持ちそうな点を簡潔に一つだけ伝えてみるよう次のように軽く励まします。「今回はこんな点が分かりましたけれど,ご主人にも伝えてみるのはどうでしょうか」。次回の研究の時に夫に話したかどうかを尋ね,反応を確かめます。この姉妹は,何度かこのことを繰り返した後に良い反応があるなら,できるだけ早い時期にご主人と会うようにし,四組の夫婦との研究を取り決めることができたと述べています。また日ごろ意思の疎通がなされていない研究生の場合,「家族生活」の本などを活用して,夫婦の良い関係を培うよう助けてから,徐々に話すように援助していると述べています。―「王国宣教」1990年3月号折り込み,「研究生の家族全員を初めから助ける」参照。
33 この折り込みは,『永遠に生きる』の本の見返しにはさみ,研究司会の際に毎回活用するようお勧めいたします。日本に住むわたしたちの多くは,かつては宗教に無関心であり,聖書になじみがなく,神の存在を確信していませんでした。しかしながら,毎週の聖書研究を通し,ついに聖書が神の霊感を受けた書物であることを確信し,エホバ神を創造者として受け入れることができました。このことを研究司会に反映させ,研究生がエホバの賛美者となるよう助けてゆきましょう。