世界展望
トルコでの迫害
● 昨年の6月16日,トルコのアンカラで,クリスチャンとしての自分の信仰について語っていた二人のエホバの証人が逮捕された。その後も逮捕者が続き,最新の報告ではアンカラで23人が投獄され,裁判を待っている。それらの人たちは,「宗規に基づき,国家の政治的・社会的・経済的秩序を変革することをもくろむ……宣伝を行なった」として告訴された。これは不当なことである。トルコの最高上訴裁判所は1980年3月24日に,エホバの証人の宗教は違法ではないので罰することはできない,という裁定を下しているからである。―「目ざめよ!」誌の1981年9月8日号,24-6ページ参照。
最高上訴裁判所の判決が最終的なもので,すべての裁判所に対する拘束力を持つことを考えると,新たに逮捕者が出たこの事件は,トルコにおける憲法上の権利について疑問を生じさせる。エホバの証人が逮捕されたのは,ある新聞がエホバの証人に敵対する悪意ある運動を始めた後のことであった。「宗務省宗教上級協議会」はエホバの証人について語り,「どの国においても宗教としては認められていないこの運動は……ユダヤ教の影響のもとにあるクリスチャンの秩序である」と述べた。しかし,事実の示すところによれば,エホバの証人は,いま全世界の200以上の国々と海洋の島々で熱心に崇拝に携わっているキリスト教として受け入れられている。この事実にもかかわらず,23人のエホバの証人が,一般の犯罪者として不公正な扱いを受け,苦しみを耐え忍び続けている。
解放主義者をたしなめるバチカン
● ローマ・カトリック教会は,9月に発行された,強い語調の評論の中で,“解放の神学”として知られる教理の過激なものを公然と非難した。ローマ・カトリックの司祭と修道女,特に中南米の人たちは,政治の分野に積極的に関与することを正当化するため,過去15年間その教理を用いてきた。“解放の神学”とは,貧しい人たちのための公正を擁護する神学だが,マルクス主義という無神論的な政治理論から借用した概念に基づいている。バチカンの声明は,中南米における社会的不公正を非難する一方で,抑圧された人々の救済策として僧職者がマルクス主義的な分析を用いることを退け,それをカトリック信仰に対する裏切りであるとしている。
もう一方には,コンシリウム ― ヨーロッパ,中南米,米国の著名なローマ・カトリック教会の神学者で成るグループ ― がある。オランダで開かれたその6月の会議で彼らは,政治面で教会がより積極的な役割を果たすことを求め,“解放の神学”を検閲する教会当局者に抗議した。このようなわけで,バチカンと,カトリック教会の増加しつつある著名な解放主義者たちとのあいだには,戦線が形成されているようである。
国連の将来は暗い
● 「国際連合は困難な時期に面している」と,ワルトハイム元国連事務総長がフォーリン・アフェアーズ誌に書いている。国連は今年,創設40周年記念の祝いを行なう準備をしているが,ワルトハイムはこの組織の将来は暗いと見ている。「国連は,日常的な決まりきった仕事では力量を発揮するが,そうした仕事はいよいよ無視されたり非難されたりしており,現実の世界とはますます無関係なものとなろうとしている。利害の衝突のために,分裂の危険の生じるところまで事態は進んでいる」と,その国連元指導者は述べた。
銀行の危機
● 米国の銀行は,1930年代以来最も早い速度で破産している,とロサンゼルス・タイムズ紙は伝えている。その記事によれば,「米国の銀行制度は一般には健全で,大きな災厄に見舞われそうもないが,近年の事態の進展により,銀行制度もますます危険なものとなってきた」。米国の最大手の銀行のうち8行までが,メキシコ,ブラジル,アルゼンチン,ベネズエラなどに自己資本を超える額のお金を貸しつけてきた。これらの国々の一連の債務不履行により,銀行は破産の瀬戸際に追いやられる可能性がある。負債に関する危機が一段と悪化すれば,債務国で財政的,政治的,社会的動乱が生ずるのではないか,と専門家たちは危ぶんでいる。
● ブラジルは,3月に史上最高の貿易収支の黒字 ― 10億㌦(約2,400億円)― を出したが,これでもまだ1,000億㌦(約24兆円)という驚くべき額の外債の利子をさえ支払うことができない。ブラジル銀行の頭取であるオズワルド・コリンは,ジャーナル・ダ・タルデ誌の中で,最近の1%の国際金利の上昇のために,「一月の貿易収支の黒字はすでに食い尽くされてしまった」と述べている。金利引上げの傾向は,返済の努力を払う発展途上国が抱えるはなはだしい重荷をますます重くする。ある財政専門家は,「外債の問題は手に負えなくなっている」と結論づけている。
ヨーロッパの一致を求める訴え
● アテネ・ニューズ・エージェンシーの報告によると,ヨーロッパの一致を求める声が,文学・美術界の著名人から上がっており,その中に1979年ノーベル文学賞の受賞者であるアディシース・エリティスが含まれている。ヨーロッパは一致すれば,「国際的な出来事の消極的な観察者であることに終止符を打ち,世界平和を求める闘争において重要な役割を果たすのに必要な自信と力を得る」と,彼らは考えている。
日本での犯罪が増加
● 英文読売は,「犯罪,非行は1940年代以来,最大規模に」という大きな見出しを掲げている。警察白書は,この豊かな国の犯罪が1983年にも減少を見なかったことを公表した。法務省の法務総合研究所の一グループは,日本の非行少年の半数以上が欠損家族から出ていることを明らかにした。法律を犯す若者の大部分は,14歳ないし15歳である。警察庁によると,昔からある近所付き合いの強いところでは,犯罪の発生件数も比較的少ない。
虐待される子供たち
● 子供たちに対する暴力行為は「思いもよらぬ悪の暴風」となり,イタリア中に吹き荒れている,と週刊誌「レスプレッソ」は述べている。毎年,600件の性的な虐待を含め,子供に対する残虐行為が1万5,000件報告される。ローマの少年裁判所のドシ判事によれば,背筋の寒くなるようなこれらの数字は問題の全貌を明らかにしていない。同判事は,「この現象に関する統計が我々に伝えるものは余りにもわずかなので,我々はそれを“あいまいな数字”と呼んでいる。現実にはもっと複雑で,もっと広まっているのに,その現実を覆い隠してしまうのであいまいなのである」と述べている。何に駆られて,親は子供を虐待するのだろうか。その報告は基本的な二つの理由として,「まず夫婦の関係が悪いこと,そして親の役割を果たす面で難しい問題を抱えていること」を挙げている。
レスビアンの「結婚」が無効となる
● ドイツ,ハンブルクのアルトナ平和教会の41歳になる牧師が,去る4月に二人のレスビアンの女性の結婚式を行なった。そのため,北部ドイツ全体のルーテル派の教会の電話がひっきりなしに鳴り続ける結果となった。「動揺した教会員たちは牧師に電話をし,教会から籍を抜くと脅した」と,ドイツの新聞「シュベービッシェ・ツァイトゥンク」は伝えている。北部ドイツのルーテル教会の発表した公式声明は,「当教会は二人のレスビアンの結婚式を執り行なうことはできない」ので,この「結婚」は承認されないと述べた。この結婚は無効であり,効力を持たないと宣言された。
4,200万人の盲人
● WHO(世界保健機関)の報告によると,世界には4,200万人以上の盲人がおり,その中には,3㍍向こうの手の指を見てその数を数えることのできない,視力が極端に限られている人,2,800万人が含まれている。その報告は,西暦2000年までにこの数字は2倍になるものと見ている。WHOによると,失明の75%までは,「公衆衛生に関する適正な措置を講ずれば」防ぐことができた。ブラジルの新聞,「オー・エスタド・デ・サンパウロ」は,「1,000人の盲人につき36人はブラジル人である」と述べている。
妻を殴打して逮捕される
● 米国のミネアポリス警察は当初,妻を殴打したとして夫を逮捕するのは,「だれにとっても時間の浪費」であると考えていた,と警察本部長のアンソニー・ボウザは述べている。ところが,妻を虐待したかどで逮捕する人の数を警察が増やしたところ,累犯者の数は減少した。米国ペンシルバニア州イーストンのザ・エクスプレス紙によると,この新しい方針を思いつくヒントになったのは,ロレンス・W・シャーマンとリチャード・ベックという二人の研究者の行なった研究だった。その研究は結論として,妻に対して虐待を繰り返す割合は警察が本人を逮捕した場合が10%,警察が夫婦に助言を与えた場合は19%,攻撃を加えた者を数時間外へ出した場合は24%だった,と述べている。
未婚の母
● 英国のイングランドとウェールズは,1983年に前年よりも10%多い9万9,000人の私生児の出生を記録した。1977年の2倍近いこの数字は,生まれた子供全体の6人に1人が私生児であることを意味している。人口国勢調査局の報告は,新生児のほぼ3分の1が十代の少女から生まれ,さらにもう3分の1が20ないし24歳の母親から生まれている。「片親だけの家庭に関する全国会議」のスポークスマンは,ロンドンのデーリー・メール紙上で,「若い人々は,結婚を急ぐことが誤りであることに気づいており,年長の人々は,仕事中心の独立的な人々で,自分一人でも,あるいは少なくとも結婚せずに子供を育てることができるとの自信を持っている」と述べている。世界保健機関は,毎年15歳から19歳までの十代の人々から,1,300万人の赤ちゃんが誕生するものとみなしている。
“試験管”皮膚
● 1983年に,6歳と7歳の二人の兄弟がひどいやけどを負った。その状態ははなはだしく,体の97%以上に第三度のやけどを負っていた。ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌は,1年後の現在,米国マサチューセッツ州ボストンのシュライナーズやけど協会の医師たちが,実験室の皿で培養した健全な皮膚組織を移植して各少年の体の半分以上を覆うことに成功したと伝えている。この外科チームは,少年の残っている健全な皮膚の断片を取り,すりつぶして幾百万もの小さな部分に分け,細胞が何枚かの皮膚に成長するよう促進する物質を加えた。皮膚はカーゼに移され,やけどの上に移植された。一人の少年につき,1平方ヤード(約0.83平方㍍)の皮膚を培養するのに2ないし4週間かかった。
これは注目に値する試みではあるが,ニュージャージー州,リビングストンの聖バルナバ病院センターのマンサワー博士は,「これはごく実験的な方法であり,長期的な影響がどんなものかは実際には分からない」と,警告を発している。
危機に面するパンダ
● 世界の珍獣の一つに数えられるジャイアントパンダが深刻な危機に面している。中国の月刊誌「中国建設」は,中国南西部にある四川省で,この恥ずかしがりやの動物のうち少なくとも12頭が餓死した,と述べている。生きているパンダは世界全体で推定1,000頭だから,それを考えるとこの死亡数は驚くべきことである。四川省臥竜県の自然保護区にあるジャイアントパンダのふるさとでは,3万㌶にわたって冷箭竹が姿を消した。竹が枯れてしまったので,ジャイアントパンダは主要な食糧源を失った。中国政府は10年間にわたって救済対策を実施する予定である。